第5話 二人きりの帰り道

文字数 881文字

 放課後、駅までの道を一緒に帰った。

 初めて知ったんだけど、お母さんの実家が安中にあって、とーまは今そこから通ってるらしい。

「じゃあ、お盆とか毎年群馬に来てたの?」
「や、色々あってさ、実は俺、こっちの祖父さん祖母さんに会ったの初めてなんだよな。でも、良くしてくれてるよ。甘やかされてるって言ってもいいくらい」
 さらっと言うけど、何だかワケありな事情が含まれていそう。

 別れ際、改札前で私達はLINEを交換した。

「……これ、もしかして荻島君?」
 青空の下、スケートリンクを背景に三人で写っているアイコンを見て、私は訊く。

「そう! オギちゃんのこと覚えてるんだ。……喜ぶだろうな」
「こっちは……誰だろ」
「ああ、そっちはエイジ。中学で一緒になった奴。同じスピードスケート部でさ、俺のライバル」
「とーまにライバルなんているの?誰も敵わなかったじゃん」
「そんなことないよ。オギちゃんとエイジは全国行ったけど、俺行ってないもん。エイジなんか500mで優勝したし。今二人とも赤檮学園にいるよ。すげえんだぜ、スポーツ推薦でさ」
「……ごめん、ちょっと分かんないや」
 饒舌に語るとーまに、私は気弱な笑顔を作って言った。

 たった二年しかいなかった帯広のこと、実はあまり覚えてない。
 私にとって帯広で意味のある記憶は、とーまに関するものだけ。

「ああ、ごめん。俺、ちょっとはしゃぎすぎたな」
 そう言ってとーまは頭を掻いた。
 私は首を横に振る。
「ううん、いいよ。気持ち分かる。私、小学生の頃は転校続きだったから。転校先に昔の知り合いがいたら、私もはしゃいじゃうと思うな」
「……委員長がいてくれて、本当によかった」

 微笑みながらの呟きは、心底そうだという響きで私の鼓膜を震わせた。
 言葉も、眼差しも、本当にとーまは真っ直ぐだ。
 大人びた顔立ちと声に、昔のまま変わらない瞳。
 現実と思い出が目の前で交差して、私は胸が弾けそうになる。

 ぽろろん、と音が鳴った。

 久しぶりに聞いた、頭の中の鍵盤の音。
 埃をかぶって長いこと眠りについていたはずなのに、一度鳴り出したら、もう私の意思では止められない。
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登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

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