第21話 君は友達

文字数 769文字

 部屋に戻ると、シバちゃんの荷物はお父さんが運び込んでくれたようで、片方のベッドにバッグが置かれていた。
 たとえシバちゃんに元気が無くても、一緒にいる方がずっと心が楽だった。

 風呂が終わると、消灯前に濱田先生が部屋にやって来て、僕とシバちゃんにそれぞれ十五分ずつマッサージをしてくれた。
 足腰が軽くなった。

 明日に備えて早めに寝ろよ、と言って先生は出て行った。
 去り際にドア口で先生は僕だけに聞こえる声で、
「荻島、どうもな」
 と言った。
 僕はおやすみなさい、と目で会釈をしてドアを閉めた。

 消灯して、しばらくシバちゃんはスマホで気を紛らわせているようだった。
 多分、眠れないんだろう。
 僕も同じだ。
 僕はますます眠れなくなるのが嫌なのでスマホには触らず、ひたすら布団の中寝返りを繰り返していた。

「……シバちゃん、起きてる?」
「うん」
「僕眠れない」
「俺も。身体は疲れてるのに、不思議だな」

「僕さ……やっぱり、屋内リンクの方が好きだな。去年みたく十勝オーバルだったら最高だったのに」
「そっか」

「でもさ、シバちゃんはさ、きっとここの方が好きだよね。たとえ向かい風の日でも、外で滑りたいって。ずっと言ってたでしょ」
「……ああ、そうだな。俺は、空の下で滑るのが一番好きだから」

「うん。だから、きっとシバちゃんは大丈夫だよ」
「……」

「氷は友達、だよ」
「あはは、それ、好き。ほんと好きだよ、その言葉」

「……もう一度、あの時みたいに滑ろう」
「うん。そうだな。オギちゃん」

 そう、氷は友達なんだ。
 神様なんかじゃない。

 僕、もうシバちゃんのことを、神様だなんて言ったりしないよ。
 たとえふざけてでもクラスの奴らみたいに氷神なんて言ったりしない。
 あんなあだ名、三学期が始まったら無くなっていればいいんだ。

 カーテン越しの夜空にそう願って、僕は眠りについた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み