第24話 Pride
文字数 635文字
鏡の前に立ち、眼鏡を外す。
自分の顔も分からない日々に、俺は今日で別れを告げる。
プラスチックのケース。アルミの蓋を剥がし、薄水色のレンズを指に乗せる。
もう片方の手で目蓋を押さえ、レンズを眼球へと近付ける。
手が震える。
鉄の刃が突き刺さる感触。
氷上の血溜まり。
彰の呻き声、飛び交う怒号。
目眩に襲われる直前、浪恵先生が俺の名前を呼んでいた。
記憶が途切れる直前まで、何度も。
塞がった視界。白い天井。
母さんが泣いていた。
あなた右目が見えなくなるかもしれないのよ。
断続的な鈍い痛み。
日に日に皮膚が引き攣れる感覚。
包帯が外れた時は、なかなか目が開けられなかった。
最初に飛び込んできたのは、医者の白衣。
時間差の安堵。
目蓋に残った傷跡。
初めて掛けた眼鏡の違和感。
久しぶりのリンクは、発光していた。
まるで全ての光の源みたいに。
眩しすぎて直視できず、目を閉じたまま深呼吸。
リンクの匂い。将来ボケても絶対に忘れないと誓える。
……そうだ。何度だって、俺は帰ってくる。
逃げた?
失敗した?
回り道をしただけだろう。
滑り続けていた奴らとは、違う闘いをしていたってことさ。
レンズが瞳に触れる。
溶けたかと思うほど馴染んだそれは、一瞬で世界の輪郭を立ち上げた。
涙は、もう溢れない。
クリアな視界の中、俺は鏡に問いかける。
星洸一。
生き抜いていくために必要なモノが分かるか。
スケーターを最後に氷上へと駆り立てる感情。
その名前は、プライドだ。
自分の顔も分からない日々に、俺は今日で別れを告げる。
プラスチックのケース。アルミの蓋を剥がし、薄水色のレンズを指に乗せる。
もう片方の手で目蓋を押さえ、レンズを眼球へと近付ける。
手が震える。
鉄の刃が突き刺さる感触。
氷上の血溜まり。
彰の呻き声、飛び交う怒号。
目眩に襲われる直前、浪恵先生が俺の名前を呼んでいた。
記憶が途切れる直前まで、何度も。
塞がった視界。白い天井。
母さんが泣いていた。
あなた右目が見えなくなるかもしれないのよ。
断続的な鈍い痛み。
日に日に皮膚が引き攣れる感覚。
包帯が外れた時は、なかなか目が開けられなかった。
最初に飛び込んできたのは、医者の白衣。
時間差の安堵。
目蓋に残った傷跡。
初めて掛けた眼鏡の違和感。
久しぶりのリンクは、発光していた。
まるで全ての光の源みたいに。
眩しすぎて直視できず、目を閉じたまま深呼吸。
リンクの匂い。将来ボケても絶対に忘れないと誓える。
……そうだ。何度だって、俺は帰ってくる。
逃げた?
失敗した?
回り道をしただけだろう。
滑り続けていた奴らとは、違う闘いをしていたってことさ。
レンズが瞳に触れる。
溶けたかと思うほど馴染んだそれは、一瞬で世界の輪郭を立ち上げた。
涙は、もう溢れない。
クリアな視界の中、俺は鏡に問いかける。
星洸一。
生き抜いていくために必要なモノが分かるか。
スケーターを最後に氷上へと駆り立てる感情。
その名前は、プライドだ。