第12話 I want you to hit me as hard as...

文字数 541文字

 殴り慣れていない人間が、人を殴るとどうなるか。
 (こぶし)を痛めるのだ。

 俺の拳はトーマの頬骨と耳の間に当たり、鈍い痛みと痺れに感覚を奪われた。

 少しの間、トーマは顔の左側を抑えていたが、耳はいてーんだよなと呟いて、口元を歪ませて笑ったかと思うと、今度は俺の頬に拳が飛んできた。

 初めて人から殴られた。
 その衝撃で足のバランスを崩し、俺は氷の上に倒れ込んだ。

「……危なく転ぶところだったじゃねーか」
 これ見よがしに右手を振りながら言い放つ。

 この野郎。タダじゃ済まさない。
 立ち上がって再び殴りかかろうとした俺の腕を、真人(まなと)が抑える。

「やめてよ! 洵君ってば、どうしたの? 急に殴りかかるなんておかしいよ」
「こいつが挑発してきたんだよ! お前も聞いただろ、アニキだとかふざけたこと言いやがって」
「そんなこと言ってないよ! ねえ? 刀麻君、黙ってないで否定して!」

 トーマは微動だにせず無言で俺を見下ろしている。
 氷面を映し出したように透徹した目が、忌々しくて堪らなかった。
 肩を押さえつけている真人の両腕をありったけの力で振り払おうとした、その時だった。

「お前ら何やってる」
 リンクサイドから低い声が飛んできた。
 止めに来たのは岩瀬先生だった。

「……霧崎。阿久津。それから、ええと、誰だ?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み