第22話 過去との邂逅
文字数 888文字
あれから十二年も経つというのに、どうして身体は筋肉の動かし方を覚えているのだろう。
トレースを描くためのエッジへの力の掛け方。
体幹から四肢、末端に至るまでの神経の配分。
フリーレッグを上げたまま片足ディープエッジで曲がる時の、身体を通る一本の線のイメージ。
最早私は私を動かしていない。
私の中のかつての私が、身体をコントロールしている。
忘れかけていた感覚が、フリーズドライのように蘇る。
私の奥で眠りについていたスケートが、覚醒する。
ターンを回り、ポジションチェンジで手を組み替えた時の、自然と出した手の高さに、自分で驚いた。
……あの人の手は、もっと低い位置にあった。
ずっと、あの位置を身体が覚えていると思っていたのに。
手だけじゃない。
フリーレッグの高さも、倒すエッジの角度も、ホールドの深さも。
私の感覚は、刀麻君の手をとった瞬間、チューンアップが完了していた。
リードされていて、全身がベストバランスで受け止められているのが分かる。
信じられるのではない。分かってしまうのだ。
だから、こんなにも委ねていけるし、攻めていける。
この呼吸のしやすさは、あの頃には無かった。
ずっと、私は息苦しかった。
でも、それは仕方の無いことだと思っていた。
背の高い私が、あの人とトレースを、流れを、時間を共有する対価として、苦しさを担うのは当然だと思っていた。
そこに美徳を感じる時さえあった。
けど今はもう、それはただの錯覚だったと分かる。
ずっと、身体のせいで心が我慢してると思っていた。
逆だ。
私の身体を抑圧していたのは、私の心。
もう誤魔化さない。
私の本当の位置は、ここ。
本当のスケールは、こう。
身体を解き放てるということは、何という喜びに満ちているんだろう。
私は、ルッツとフリップを失う前の自分と邂逅していた。
手足を惜しみなく広げて踊ることに、まだ何の躊躇いも持っていなかった自分。
思い通りに行かない身体でも、私は私なんだと当たり前のように手を取り合っていた自分。
ワガママでいられた、かつての自分。
気付けば、一筋の涙が私の頬を伝っていた。
トレースを描くためのエッジへの力の掛け方。
体幹から四肢、末端に至るまでの神経の配分。
フリーレッグを上げたまま片足ディープエッジで曲がる時の、身体を通る一本の線のイメージ。
最早私は私を動かしていない。
私の中のかつての私が、身体をコントロールしている。
忘れかけていた感覚が、フリーズドライのように蘇る。
私の奥で眠りについていたスケートが、覚醒する。
ターンを回り、ポジションチェンジで手を組み替えた時の、自然と出した手の高さに、自分で驚いた。
……あの人の手は、もっと低い位置にあった。
ずっと、あの位置を身体が覚えていると思っていたのに。
手だけじゃない。
フリーレッグの高さも、倒すエッジの角度も、ホールドの深さも。
私の感覚は、刀麻君の手をとった瞬間、チューンアップが完了していた。
リードされていて、全身がベストバランスで受け止められているのが分かる。
信じられるのではない。分かってしまうのだ。
だから、こんなにも委ねていけるし、攻めていける。
この呼吸のしやすさは、あの頃には無かった。
ずっと、私は息苦しかった。
でも、それは仕方の無いことだと思っていた。
背の高い私が、あの人とトレースを、流れを、時間を共有する対価として、苦しさを担うのは当然だと思っていた。
そこに美徳を感じる時さえあった。
けど今はもう、それはただの錯覚だったと分かる。
ずっと、身体のせいで心が我慢してると思っていた。
逆だ。
私の身体を抑圧していたのは、私の心。
もう誤魔化さない。
私の本当の位置は、ここ。
本当のスケールは、こう。
身体を解き放てるということは、何という喜びに満ちているんだろう。
私は、ルッツとフリップを失う前の自分と邂逅していた。
手足を惜しみなく広げて踊ることに、まだ何の躊躇いも持っていなかった自分。
思い通りに行かない身体でも、私は私なんだと当たり前のように手を取り合っていた自分。
ワガママでいられた、かつての自分。
気付けば、一筋の涙が私の頬を伝っていた。