第27話 WAKE UP
文字数 326文字
その日、トーマが初めて転倒するのを俺は目の前で見た。
四回転サルコウでもトリプルアクセルでもない。
何てことのないステップ中に突然、クラックに呑み込まれるように足元から崩れ落ちた。
転倒というより、滑落 。
トーマは愕然 として、しばらく起き上がれずにいた。
初めて氷上に這いつくばるその姿。
確かに衝撃的ではあった。
だが、朝霞先生と洸一さんがおろおろしながら駆け寄るのを見て、馬鹿みたいだと思った。
転んだくらい、赤ん坊じゃないんだから一人で立つべきだ。
あけすけに呆然とした顔が、次第に歪み出す。
痛いか。それとも、怖いか。
俺は拳を握りしめる。
……立てよ、トーマ。
氷上は楽園じゃないんだ。
痛みと恐怖のせめぎ合い。
つまりは、世界そのものだ。
四回転サルコウでもトリプルアクセルでもない。
何てことのないステップ中に突然、クラックに呑み込まれるように足元から崩れ落ちた。
転倒というより、
トーマは
初めて氷上に這いつくばるその姿。
確かに衝撃的ではあった。
だが、朝霞先生と洸一さんがおろおろしながら駆け寄るのを見て、馬鹿みたいだと思った。
転んだくらい、赤ん坊じゃないんだから一人で立つべきだ。
あけすけに呆然とした顔が、次第に歪み出す。
痛いか。それとも、怖いか。
俺は拳を握りしめる。
……立てよ、トーマ。
氷上は楽園じゃないんだ。
痛みと恐怖のせめぎ合い。
つまりは、世界そのものだ。