第27話 WAKE UP

文字数 326文字

 その日、トーマが初めて転倒するのを俺は目の前で見た。

 四回転サルコウでもトリプルアクセルでもない。
 何てことのないステップ中に突然、クラックに呑み込まれるように足元から崩れ落ちた。
 転倒というより、滑落(かつらく)

 トーマは愕然(がくぜん)として、しばらく起き上がれずにいた。
 初めて氷上に這いつくばるその姿。

 確かに衝撃的ではあった。
 だが、朝霞先生と洸一さんがおろおろしながら駆け寄るのを見て、馬鹿みたいだと思った。
 転んだくらい、赤ん坊じゃないんだから一人で立つべきだ。

 あけすけに呆然とした顔が、次第に歪み出す。

 痛いか。それとも、怖いか。

 俺は拳を握りしめる。

 ……立てよ、トーマ。

 氷上は楽園じゃないんだ。

 痛みと恐怖のせめぎ合い。

 つまりは、世界そのものだ。
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登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

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