第15話 I won’t.

文字数 521文字

 何気なくロッカーを閉めたつもりだったが、物凄い音が響いて、取っ手のプラスチックが床に転がった。

 しまった、と思った。
 無意識で物に当たり散らすなんて。

「おー、こわ。器物損壊」
 飄々(ひょうひょう)とした声に、俺は振り返る。

「……晴彦さん」
 嫌な所を見られた。
 でも、一番マシな人でよかったとも思った。

「最近荒れてんね。芝浦のこと?」
「別に、関係ないです」
「分かりやすいね~。でも、お前、前よりずっとイイ顔になってるよ。男子三日会わざれば、だな」
 晴彦さんは含みのある流し目で、ニヤリと笑った。

「どういう意味で言ってるんですか?」
「んー。贅肉(ぜいにく)が取れた?」
「……元々太ってませんけど」
 晴彦さんは吹き出す。
「比喩だよ比喩! カメラ映えするかどうかは知らんけどな。連休中にアイスショー出るんだろ。あれ、地上波放送あるぜ。顔の傷は治しとけよ」

 ……イイ顔? どこがだ? 
 鏡の中の俺は、一言で言えば、凶相。
 左頬には赤黒い(あざ)が残り、唇の端にはひび割れたかさぶたが張り付く。

 だが、何よりも目。
 濃く重なったクマに、不釣り合いなほどぎらついた瞳。

『ボクシングでも始める?』
 無邪気な笑い声が頭上を飛び回る。

 ……お前、最近うるさいぞ。
 舌打ちをして、鏡に背を向けた。
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登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

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