第3話 ラッキーゴールの確率

文字数 1,059文字

「シバにあんなキラーパス出すなや、絶対取れないって分かるべ」
「取れないって分かってても、いつもイイ位置にいるからつい出しちゃうのさ。したけど、オギは心配無いべ」

「悪かったさ、そんな心配なくて」
 僕はふてくされて言った。

 先生が笛を吹き、プレーが再開された。

 そうそう、そんな心配無いもんね。
 どうせ僕はシバちゃんとは違って、ホッケーの靴で自在に方向転換したり急ブレーキをかけたりはできない。
 なのに、肝心のハンドリングのスキルは似たようなものだし。
 まあ、こっちは適当に滑って参加してる雰囲気は出すから、後はホッケー部の君達で無双してくれたまえ。

 そうして何となくパックを追っていたら、相手チームがパスミスをして、インターセプトの形でパックが僕の手元に来た。
 やば、と思い、きょろきょろとパスを出す相手を探していたら、

「オギ! そのまま行け!」
 後ろからエイちゃんの声がした。

 えっ、そのまま? 僕が行くの? 
 すぐに容赦なく氷を削り取る音と共に相手DFが迫ってくる。

 あわわ、とパックをスティックで進めながらかわし、いよいよ奪われそうになったので、えーい、ままよ!
 遠いのは百も承知でシュートを放った。

 そうしたら、キーパーの足の間をすり抜けて、入ってしまった。

「やったな!」
 エイちゃんが、僕の頭をヘルメット越しにぽんと叩いた。
 まさか入るとは思ってなかったから、何のリアクションもできない。

「おい、スパイがいたべ」
「えっ、誰のことさ?」
 エイちゃんがニヤニヤ笑う。
 そういや、同じ部活でいつも一緒に練習してるからすっかり忘れてたけど、エイちゃんは相手チームだった。

「せんせー、船木代えてください、こいつスパイ!」
「このピリオドが終わったら代えるから」
「えー! スケート部のえこひいき反対!」
「ごちゃごちゃ言うのやめれ、再開するぞ」

 リンクサイドに目を遣ると、シバちゃんが皆から少し離れたところで僕を見ていた。
 目が合うとニッと笑って、
「オギちゃんナイシュ!」
 と言った。

 僕は照れくさかったけど、軽く手を挙げてそれに答えた。

 今のはラッキーゴールだったし、流石にホッケーに転向しようとは思わないけれど、真面目な話、自分にはもっと他に向いているものがあるんじゃないかと思う時がある。

 少し前までは、高校に行ってもスピードスケートを続けるのが当たり前だと思っていた。
 高校はもちろん、大学に行っても、そしてその先もずっと、自分はスピードスケートをしながら生きていくんだと思っていた。

 だけど、最近はちょっと違うんだ。
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登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

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