第15話 痩躯流麗

文字数 1,054文字

「集合」

 私が声を掛けると、リンクに散らばっていた全員が中央に集まってきた。
 中学生四人と、高校生二人の女子生徒。

「今日、一人見学の子が入ります。芝浦刀麻君」
 私が紹介すると、隣に立っていた刀麻君は、軽く頭を下げた。

「……あの、何年生ですか?」
「四月から高一」

「霧崎先輩と同じじゃん。学校どこですか?」
「榛名学院」
「それも霧崎先輩と同じだ!」

 たちまちワーキャーと騒ぎ出す女子よ。
 刀麻君は所在なさげに頬を指で掻いている。

 彼女達が騒ぐのも無理はない。
 今気付いたけど、この子、なかなか格好いいんだ。
 私より余裕で十センチは背が高く、ゆるいスウェット越しでも足が長いのが分かる。
 そして、飾り気の無い短髪。
 特別なモノを何もまとっていないことが、かえって目を引く。

 それより、一体これはどういうことだろう。
 初めて履いたフィギュアの貸靴で、真っ直ぐ立っていられるとは。
 背筋を伸ばして、微動だにしない。

「先生! 八時になったらテレビ見せてね!」
「はいはい、じゃあ、五分前になったら休憩室に移動ね。大画面で応援しましょ。でも洵君の出番が終わったら即練習戻るわよ」

「ねぇねぇ、霧崎先輩どうかな?」
「調子いいよね。一気にまくっちゃうかも! 元々フリーの方が得意だし」

「でも、流石にクワドレスで白河さんより上はなくない?」
「その前にクリスがいるでしょ」

「はい、みんな、自分のこと自分のこと。渚ちゃん、一番身体あったまってそうだから、最初に見るわよ」
 私が手を叩くと、少女達はレオタードを翻らせて、再びリンクに散っていった。

「……なんか、皆そわそわしてますね」
 刀麻君はたじろぎながら小声で言う。
「洵君はうちのクラブの星だから。皆自分のことみたいに誇らしいのよ」

 ふーん、と言って刀麻君はゆっくりと滑り出した。
 フォアクロスロール。

 そのあまりに自然な足さばきを見て、私はごくりと唾を飲んだ。
 もはや疑いは完全に確信に変わった。

「それより、刀麻君、あなた絶対にフィギュアスケートやってたよね?」
 私の質問に、刀麻君は足を止めず答える。

「今は、もうやってない。時々こうやって一人で滑るだけ」
 私は慌てて追いかける。

「今は? 前は誰に教えてもらってたの?」
「母親」

「お母さんだけ? 他には?」
「……先生。俺のことはいいから、他の人見てあげてよ」

 言い終わらないうちに、スピードをぐんと上げて滑って行ってしまった。

 明らかに探られるのを拒んでいた。
 深入りしすぎたかもしれない。

 私は追うのをやめ、一度リンクサイドへ戻った。
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登場人物紹介

芝浦刀麻(しばうら とうま)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・北海道帯広市出身のフィギュアスケートとスピードスケートの二刀流スケーター。

・スピードスケート選手の父とフィギュアスケート選手の母のもとに生まれる。

・高校一年生の5月に榛名学院高等部に転校してくる。

・小学生の頃は野辺山合宿に参加するなど優れたフィギュア選手として頭角を表していたが、とある事件の後フィギュアをやめ、中学時はスピードスケート選手として500mの道内記録を塗り替え、全国大会二位の成績を収める。

・今作は、彼が再びフィギュアの世界に戻ってきたところから物語が始まります。

・12月8日生まれ、射手座のO型。

・身長178cm。

・得意技は四回転サルコウ、ハイドロブレーディング。苦手な技は特に無し。氷上は全て彼の領域。

霧崎洵(きりさき じゅん)


・榛名学院高等部一年。15歳。スケート部所属。

・全日本ジュニア選手権2位、世界ジュニア選手権3位と、昨シーズン破竹の勢いで頭角を表したフィギュアスケーター。

・学業優秀、スポーツ万能。そんな彼が唯一苦手とするのが“スケート”……その真相とは。

・双子の妹、汐音(しおん)はかつて史上最年少でトリプルアクセルを成功させた天才フィギュアスケート選手だった。

・出会った時から刀麻に反発し、初日にいきなり殴り合いの喧嘩をすることに。何が原因で、どんな経緯があったのか……?

・今作は刀麻と洵の愛憎を軸に物語が進みます。

・11月25日生まれ。射手座のAB型。

・身長167cm。

・得意技は三回転フリップ+三回転トウループのコンビネーションジャンプと、柔軟性を生かしたビールマンスピン。苦手な技はトリプルアクセル。

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