第10話 ホムンクルス(1) Homunculus

文字数 994文字

 数日後の第一研究所。その夜もいつものように、地下一階の自分専用研究室で実験を終え、三階にある自室へと戻った。

 ニーチェは現在、ホムンクルスの研究をおこなっている。ホムンクルスとは、ラテン語で、小人を意味する言葉だ。ただ、現在では、人造人間のことを指す。ルネサンス期の錬金術師パラケルススが初めて開発した時、ホムンクルスはフラスコの中から出られない小人だった。だが、今では遺伝子工学も進歩した。まだ培養液から出すと数時間で死んでしまうが、すでに外見は、普通の人間と同じに作れるようになった。教育も、培養液の中でそれなりにできる。
 ニーチェの目標は、普通の人間と同じ、いや、普通の人間以上の生物を生み出すことだ。美男美女や天才を量産したり、無限の軍隊や働き手を量産したり、自分と同じ人間を作り出す。つまり、現代世界で、新たな生物を生成する神になろうと企んでいた。
 人間の価値にデフレが起きるかもしれない。能力のない人間はますます淘汰されるかもしれない。だが、ニーチェは、作った結果がどうなるかなどは考えていなかった。より強力な化学兵器や爆弾を開発する研究者は、人を殺そうと思って作っている訳ではない。AIを作る研究者は、いつかAIが人を支配するであろうことを目的として開発している訳ではない。ただ、先に目標がない仕事をしているというだけのことだ。
 自分で考えることが面倒臭いために惰性で働く人や、物欲を満たす金が欲しくて働いている人と変わらない。ナンパをして千人斬りを目指している人とも変わらない。ニーチェも、ただ、錬金術を研究したいという、目の前の欲望のために生きている。それだけしか考えていない。人間とは、その程度のものだ。
 発明した力をどう制御し、どう使用していくか。それは、他の人がまた考えればいい。誰かが悲しまないようにとか、金儲けに使うとかは、ゲーテのように、力を使うことが上手い人間に任せるつもりだ。自分の出来ることは、ただ、研究することしかない。
 ただし、順調に感じていたホムンクルス製作も、現在、壁にぶつかっている。肉体は作れても、魂の部分がうまく作れないのだ。PSを使用した黄金心臓と黄金脳を作り出すことには成功したが、二つを連結させて魂を吹き込む、というところでつまづいてしまう。血液の永久循環や、脳の無限思考が、止まったり、溢れ出したりする。ここをどうすればいいか。
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