第5話 情報収集 Information Gathering
文字数 1,710文字
ニーチェは早速、ゲーテの力を使って情報収集を始めた。
討伐に失敗した団員も、バルサーモ一行も、全員が黒いワンピース姿のブロンズ美女を見たという。そこからは様々だ。記憶が無い者、化け物が現れたという者、後ろから鈍器で殴られたという者、大きな力によって吹き飛ばされたという者。
全員に共通していえるのは、美女を見てから悲劇が起きたということだ。美女を見たことを引き金に発動するタイプの錬金道具、通称ファンタジー、略称Fを使用している可能性が高い。
また、モード・アルキメスト、略称MAができる錬金術師たちは、いつの間にか眠っていたと言う。MAは、PSを体全体に薄く張り巡らせて、リアルのあらゆる現象から身を守る技だ。PSが纏わりついている場所には、どんな攻撃をしても絶対に届かない。
だが、これには弱点もある。PSを変成させるため、錬金術師のエネルギーであるオーラを使用する点だ。このオーラは、呼吸ができないと生成できない。つまり、空気穴を開けておかなければ、MAは発動できない。
とはいえ、MAは透明だ。普通の相手なら、小さな空気穴を狙って攻撃することはできない。だが、催眠ガスなら話は別だ。その穴を抜けることが出来る。だから、錬金術師たちは二人とも眠らされたのだろう。つまり相手は、MAの唯一の弱点をついてきた。
そんな策は、MAの弱点をあらかじめ知っている者以外には立てられない。錬金術は、記憶媒体に残すことが禁止されている。また、錬金術師同士でしか口伝してはいけない。つまり敵は、錬金術師かアルカディアンで間違いない。
さらに、別の視点の調査では、古城に行く前のバルサーモ一行の動向の裏もとれた。彼らは近くの街、カッセルの高級酒場で浴びるほど酒を飲み、娼婦を連れてホテルへ行こうとしていた。娼婦からの証言だ。だが、どこも空いていなかった。仕方がないので、車中で行為に及ぼうとした。
ところが、取り巻きの一人が、この廃墟のような古城の存在を知っていた。話を聞くと、バルサーモはイヤらしい目をし、そこで特殊な性癖のパーティーを催すのはどうかという提案をしてきたそうだ。
つまり、古城に行ったのは祖先の霊や掃除ではなく、ただ単に、貴族のお遊びに過ぎなかったということが証明された。この点は、ニーチェの推理と完全に合致した。
さらに、登記本に記載されている古城の所有者情報によると、昔は確かにバルサーモ家のものだったようだが、現在の所有者は、ジョージ・ゴードン・バイロンというイギリス貴族になっている。所有者本人には連絡しても繋がらず、本人確認までは取れていないのだが。
だが、どちらにせよ、バルサーモが古城に無断侵入したことは、疑いの余地がない。
ニーチェは、以上の点から敵を推測した。バルサーモやGRCに不法侵入されているにも関わらず、誰も殺していない。重傷も負わせていない。身を守るために相手を殺さないことは、相手を殺すことよりも実力差が必要だ。そして、錬金術のことをよく知っている。
おそらく、女吸血鬼と呼ばれているこの相手は、高レベルの錬金術師だろう。殺人を犯したり金品を奪うような乱暴もしていないので、浮浪者ではなく、バイロンの関係者かもしれない。調査結果だけを見ると、相手が正当防衛をしたとしか考えられない。人の敷地に無断侵入して乱暴狼藉を働いたバルサーモやGRCが悪い。訴えられるのは、むしろこっち側だ。
だが、十二貴族からの依頼を拒絶することは、GRCの立場上、不可能である。ニーチェは考えた。悪くもない相手を捕まえたくはない。相手と話し合い、説得して、仲間にするか、古城から出て行ってもらうというのはどうだろう、と。最終的には、バルサーモ家の怒りが収まればいいはずだ。
ニーチェはゲーテに頼み、GRC本部に連絡をした。本部からは、「基本的には捕らえろ。だが、最大譲歩としてだが、女吸血鬼をイルミナティの目が届かないところへと退去させられればそれでいい。移住する金は出す」という約束を取り付けた。後は、ニーチェが交渉すればいいだけだ。
こうしてニーチェは、女吸血鬼を説得するため、一人で古城へと向かった。
討伐に失敗した団員も、バルサーモ一行も、全員が黒いワンピース姿のブロンズ美女を見たという。そこからは様々だ。記憶が無い者、化け物が現れたという者、後ろから鈍器で殴られたという者、大きな力によって吹き飛ばされたという者。
全員に共通していえるのは、美女を見てから悲劇が起きたということだ。美女を見たことを引き金に発動するタイプの錬金道具、通称ファンタジー、略称Fを使用している可能性が高い。
また、モード・アルキメスト、略称MAができる錬金術師たちは、いつの間にか眠っていたと言う。MAは、PSを体全体に薄く張り巡らせて、リアルのあらゆる現象から身を守る技だ。PSが纏わりついている場所には、どんな攻撃をしても絶対に届かない。
だが、これには弱点もある。PSを変成させるため、錬金術師のエネルギーであるオーラを使用する点だ。このオーラは、呼吸ができないと生成できない。つまり、空気穴を開けておかなければ、MAは発動できない。
とはいえ、MAは透明だ。普通の相手なら、小さな空気穴を狙って攻撃することはできない。だが、催眠ガスなら話は別だ。その穴を抜けることが出来る。だから、錬金術師たちは二人とも眠らされたのだろう。つまり相手は、MAの唯一の弱点をついてきた。
そんな策は、MAの弱点をあらかじめ知っている者以外には立てられない。錬金術は、記憶媒体に残すことが禁止されている。また、錬金術師同士でしか口伝してはいけない。つまり敵は、錬金術師かアルカディアンで間違いない。
さらに、別の視点の調査では、古城に行く前のバルサーモ一行の動向の裏もとれた。彼らは近くの街、カッセルの高級酒場で浴びるほど酒を飲み、娼婦を連れてホテルへ行こうとしていた。娼婦からの証言だ。だが、どこも空いていなかった。仕方がないので、車中で行為に及ぼうとした。
ところが、取り巻きの一人が、この廃墟のような古城の存在を知っていた。話を聞くと、バルサーモはイヤらしい目をし、そこで特殊な性癖のパーティーを催すのはどうかという提案をしてきたそうだ。
つまり、古城に行ったのは祖先の霊や掃除ではなく、ただ単に、貴族のお遊びに過ぎなかったということが証明された。この点は、ニーチェの推理と完全に合致した。
さらに、登記本に記載されている古城の所有者情報によると、昔は確かにバルサーモ家のものだったようだが、現在の所有者は、ジョージ・ゴードン・バイロンというイギリス貴族になっている。所有者本人には連絡しても繋がらず、本人確認までは取れていないのだが。
だが、どちらにせよ、バルサーモが古城に無断侵入したことは、疑いの余地がない。
ニーチェは、以上の点から敵を推測した。バルサーモやGRCに不法侵入されているにも関わらず、誰も殺していない。重傷も負わせていない。身を守るために相手を殺さないことは、相手を殺すことよりも実力差が必要だ。そして、錬金術のことをよく知っている。
おそらく、女吸血鬼と呼ばれているこの相手は、高レベルの錬金術師だろう。殺人を犯したり金品を奪うような乱暴もしていないので、浮浪者ではなく、バイロンの関係者かもしれない。調査結果だけを見ると、相手が正当防衛をしたとしか考えられない。人の敷地に無断侵入して乱暴狼藉を働いたバルサーモやGRCが悪い。訴えられるのは、むしろこっち側だ。
だが、十二貴族からの依頼を拒絶することは、GRCの立場上、不可能である。ニーチェは考えた。悪くもない相手を捕まえたくはない。相手と話し合い、説得して、仲間にするか、古城から出て行ってもらうというのはどうだろう、と。最終的には、バルサーモ家の怒りが収まればいいはずだ。
ニーチェはゲーテに頼み、GRC本部に連絡をした。本部からは、「基本的には捕らえろ。だが、最大譲歩としてだが、女吸血鬼をイルミナティの目が届かないところへと退去させられればそれでいい。移住する金は出す」という約束を取り付けた。後は、ニーチェが交渉すればいいだけだ。
こうしてニーチェは、女吸血鬼を説得するため、一人で古城へと向かった。