第70話 開幕 Beginning

文字数 1,098文字

 ちょうど一週間後、運命のメールが、ニーチェの元へと届いた。もちろん、ゲーテからだ。
『今から本部に戻る。今日の夜八時ごろには到着するだろう。ニーチェがどんな大発明をしたのか、馬車に揺られながら、楽しみにして帰るよ』
 ニーチェは返信をした。
『おつかれさま。楽しみにしててね。君の喜ぶ姿が目に浮かぶよ』
 何の変哲もないメール。だが、これが、運命の動き始めだ。馬車に渋滞はない。ゲーテは几帳面だ。夜八時に帰ってくると言うのならば、絶対にその時間に帰ってくる。早ければどこかで時間を潰し、遅ければ馬車を走らせる。
 ニーチェは、時計を見た。今は、朝十時。帰ってくる前に全てを終わらすには、午後五時に、全ての登場人物を大広間に集める必要がある。
 ニーチェは、すぐに事務に頼んだ。『午後五時に、発明を発表する。参加者は、四時半には、大会議室に集合して欲しい』と連絡をしてもらう。この日に発表する可能性が高いとは伝えていたので、すでに集合していた幹部や錬金術師は、今日を待ち構えていた。全員、参加する準備はできている。
 ジョンは、持ってきていたステンドグラス型の『イコン』を使用して、古城の研究所へと戻り、大量の銃と弾丸を自分の腰に挿した。本部に入る前に、武器の検査はされるが、入ってしまえば所持してもバレない。もちろん、自分用のFD『レッドハイド』と口紅『ノーフェイス』、そして、『監視社会の地図』も身につけている。
 クリスティアーネの横たわる棺にはラップして、大きなプレゼント箱のようにした。もちろん、ニーチェとゲーテにしか開けられないように、FHF『マイキー』で封をする。
 『マイキー』は、錬金術師なら誰でも扱える、自分専用の錠だ。特定のオーラによってしか、開封できないように設定できる。そんなに珍しくはない。少しレベルの高い錬金術師なら、時間をかければ、他人の『マイキー』を開けることもできる。その程度のFだ。
 この棺を大会議室にセットし、準備を終える。午後四時頃からパラパラと人が集まり、三十分を過ぎる頃には、ほぼ全ての、標的としている錬金術師が集まった。その数、二十九人。
 だが、時間になっても、標的のうちの二人が来ない。ニーチェは、ジョンと目配せした。ジョンは、大きくうなづく。FD『監視社会の地図』により、二人の場所は捉えているようだ。ならば後で始末すればいい。何の問題もない。
「もう、始められます」ニーチェは、隣にいたアンドレーエに、頭を下げた。
「よし」アンドレーエは幕を開け、まるで、自分が世紀の発明をしたかのような顔で、集まった錬金術師たちの前へと進んでいった。
 いよいよ、宴が開始される。
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