第37話 血 Blood

文字数 954文字

 ジョンからは、その後、連絡がない。ニーチェは、おそらく、カミーラが無事に逃げたのだろうと思った。もう、心配する必要はない。それからのニーチェは、誰にも秘密で、ひたすら、カミーラの研究に打ち込んだ。
 地下三階の隠された研究室には、カミーラの髪や爪、肉片や血液や皮膚が、大量に残されていた。それらすべてを、自分の研究室に運び込む。
 アルカディアンの残滓に夢中になったニーチェは、その後、研究室から三日間くらい出ないようなこともザラになった。それはまるで、好きな異性の笛を舐める男のようだ。もしくは、好きな女性のヨダレや尿に性的興奮を覚えている男のようだ。ニーチェは、狂気じみた執着に溺れていった。
 とはいえ、ニーチェが研究に溺れていった理由は、もちろん、カミーラのことが好きだったからではない。錬金術において、血を使用したFDの運用方法が、あまりにも画期的なものだったからだ。この研究は、電源の入ったPCと、電気のない場所でのPCくらい、他人の血液に、価値の差を生み出すものだった。
 ニーチェは、カミーラの残滓を媒介として、いくつかの、自分で使用できるFDを製作することに成功した。その中でも、『ダスティネイル』というFDSを思いついた時には、感動して、自分が尿を漏らしていることにも気づかなかったほどだ。
 『ダスティネイル』の効果は、相手の血を奪うことによって、相手のFDを使用することができる、というものである。もし、これが、たくさんの人にも使用できるFになったら、誰でもが、血液さえ手に入れられれば、高ランクのFDを使用できるようになる。
 さらに、血の分析が精密にできるようになれば、血を人工的に生成して、他人の血液を使用しなくても、自由にFDを使用することができるかも知れない。これは、錬金術界の革命だ。誰でもが、自由に、原爆のボタンを押せるようなものだ。もちろん、ニーチェはただの研究者なので、開発後に、人類がどうなるかまでは考えていない。
 カミーラが血を吸うことができる理由。吸った血で真贋を見分けられる理由。カミーラのように血を吸う方法。吸った血を、オーラと混ぜる方法。調べることは、まだまだたくさんある。ニーチェは、カミーラの残滓に感謝しながら、何も気を煩わされることなく、研究を進めていった。
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