第3話 友達(3) Friends

文字数 1,005文字

 彼女がいなくなったことを確認して、ゲーテは部屋の鍵を閉めた。先ほどまでクリスティアーネが座っていたベッドに腰を下ろす。
「サヴォイ家からの依頼があった。古城に住み着く女吸血鬼を捕縛して欲しいという依頼だ」太くて感情豊かな声だ。
 サヴォイ家はイルミナティ十二貴族の一つで、GRCの有力スポンサーである。GRCでは彼らから資金を提供してもらう代わりに、錬金術で解決できる不思議な事件に対する依頼を請け負っている。
「へー」ニーチェは外を見続けているが、ゲーテは構わず話を続ける。
「ことの経緯はこうだ。彼らの親戚が、ある晩、自分達の所有する古城へと立ち寄った。古城は長らく使用されていなかったために、祖先に感謝の念を込めて掃除をしようと考えていたらしい。だが、彼らは、いつの間にか住み着いていた女吸血鬼に大怪我をさせられてしまった。このままでは祖先の霊に報いることができない。そこで我々に依頼して、吸血鬼の捕縛を指示してきたという訳だ」ゲーテは普段、もっと細かい説明をする。だが、ニーチェのように理解力の速い人間に対しては簡潔に済ませる。人に合わせて話をするタイプだ。
「そっか」それでもニーチェは、ゲーテの話に対して興味を持てなかった。なぜなら、こういう依頼の大半は、単に野党や浮浪者の類であることが多いからだ。今まで何度も期待して依頼現場へと向かったが、度たりとも人間の仕業以外の事件に出会ったことがない。
 ゲーテはニーチェの反応を見て、当然だとばかりに話を続けた。
「今回こそは、この女吸血鬼がアルカディアンである可能性が高い」
 ニーチェは、自分の細眉に唾をつけた。
 アルカディアンとは、アルカディアに住む動物、つまり、空想世界の住人だ。この世界は、現実の世界であるリアルと、空想の世界であるアルカディアに分類される。錬金術師は、このアルカディアの技術について研究する職業だ。つまり、もしも本物のアルカディアンに接触できるのだとしたら、錬金術研究を大いに進めることができる。しかし、何度この言葉に騙されてきたか。
 ゲーテはこうやって、何度もニーチェを依頼に付き合わせた。そして、ニーチェが依頼を成功させる度、ゲーテは出世していった。だが、いつもアルカディアンではなく、単なる人間だった。ニーチェにとっては、ただ研究が遅れるだけの結果しか生み出していない。おそらく今回も同じだろう。
 ニーチェは、肩をすくめて反論した。
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