第26話 捜査(1) Search

文字数 1,017文字

 チーズケーキに対して、カミーラは、過剰なほどに喜んでくれた。なぜか、服や口紅よりも喜んでくれた。その日から三日間、カミーラの上機嫌は続いた。しかし、休みを挟んだ次の日、カミーラは、今までと同じく、陶器人形のように、目から光がなくなっていた。
 ニーチェは思った。大事な人が良い気持ちでいる。それだけが、人生の幸せなのではないか、と。カミーラは言わないが、休みの日に何かが起きたことは明らかだ。ニーチェは早速、ジョンの言葉通りに、調査を開始した。
 ただし、助手としてついている団員が二人いる。自分を監視している可能性はかなり高い。黒幕に報告されれば、警戒されてしまう。慎重には慎重を期すべきだ。ニーチェは、しばらくの間は、怪しい素振りを見せずに過ごすことにした。動くのは、警戒が薄まったその時だ。
 時を待つ間、ニーチェは、自分専用の研究室で、赤い服と口紅の分析をすることにした。ジョンが渡してくれたFDの材料だ。
 まず、赤い布を広げてみる。確かジョンは、身を隠すことができると言っていた。鏡の前で布をかぶり、オーラを出す。確かに、透明になれそうだ。だが、あと一歩というところでなれない。
 試行錯誤を重ねた結果、ちょうど、覆面付きのツナギのような巻き方をした時にだけ、ニーチェの体が透明になった。錬金術師の作る魔法の道具、ファンタジー・ドープ、略称FDには、使用者のキャラとストーリーに合った形が必要だ。少しでもズレると、FDは使用できない。
 次に、粉状の口紅を手にとってみる。口紅は気配を消せると言っていた。だが、自分で自分の気配が消えたかどうかは確認できない。クリスティアーネにもこのFDについての相談はできない。ということは、カミーラに直接塗って試してみるしかない。助手は疑うかもしれないが、研究室内にさえ入れなければ、気配が消えたことにも気づかないだろう。
 こうしてFDの製作に力を注ぎながらも、同時に、カミーラが休日に何をしているかについても、調査していく。街から帰って十日後、次の休みの前日に、ニーチェはさりげなく、仕掛けをほどこしておいた。手が汚れたふりをして、扉の把手に、薄く剥がれる、透明な塗料を塗っておく。
 もし、誰かが把手を触れば、塗料は剥がれる。剥がれれば、少なくとも一人は、自分がいない間に、カミーラの部屋に入っているという証拠になる。塗料が剥がれたかどうかは、偏光線メガネを使わなければ確認することができない。
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