第47話 討伐隊 Enemy

文字数 1,323文字

 最悪な時には友をも殺す。そう決断したニーチェだが、翌日、幸運な話が飛び込んできた。ゲーテが再び、古城へ向かってきているというのだ。ジョンのFDB『監視社会の地図』によれば、すでに部隊は第一研究所から出発し、行程の半分を過ぎているらしい。
「おかしいな。僕の持ってる情報では、この前に倒した討伐隊以上の編成は組めないはずだけど。それとも何か、秘策でもあるのかな? 例えば、本部から新たな錬金術師がやって来た、とか」
「可能性はあるな」
 ジョンのFDB『監視社会の地図』は、普通なら、一キロ圏内の人の動きしか把握することができない。だが、ジョンもまた、天才だ。自分流に改造して、今では、タグ付け機能を追加している。どんなに遠くにいても、タグ付けした人だけはどこにいるかが分かる。これは、カミーラが困らないためにと改良された。
 さらに、一キロ圏内にまで近づけば、他の使用者よりも更に細かく、人の動きを知ることができる。最初は体の動きから、五百メートル圏内に入れば、口の動きや呼吸までが見てとれる。
 ジョンは、読唇術に関しては不得意なので、ゲーテたちが何を言っているかまでは分からない。だが、体の揺れ方や円陣の組み方で、ゲーテたちが馬車に乗っていることは分かる。今回の討伐隊は、ゲーテと御者を含めて全部で七人。前回の半分だ。少数精鋭ということは、戦闘に特化した錬金術師しか来ていないのかもしれない。
 確かに、前回の勝因の一つとして、赤マントが黒マントにいいところを見せようとしたために、手球に取りやすかった点が挙げられる。その点、錬金術師かいなければ、慎重に行動することができる。
 今回は、本気中の本気で、カミーラを抹殺しようとしているのだろう。そうでなければ、あのゲーテが、何の勝算もなく、二回目の討伐に出陣するはずがない。
 ニーチェもジョンも、分かっていた。充分、警戒もしていた。だが同時に、自分たちの強さにも自信があった。カミーラの幻術を使えば、落とし穴や高所から落下させることができる。行動不能や討伐隊の分断は容易い。さらには、同士討ちを起こさせることもできる。
 ジョンのFDB『監視社会の地図』により、相手の位置を一人ずつ見極めて、順番に背後から倒していくこともできる。睡眠ガスも用意している。そしてニーチェは、一撃必殺の『ダスティネイル』がある。さらに、ラヴァーターのFDC『観相学断片』を持っている。表情から動きを読み取れるので、真正面からの個人戦にも、絶対の自信がある。最終手段として、ワーグナーから得たFDS『ニーベルングの指環』もある。
 他にも、銃を撃つことと、槍で突くことだけしか出来ない戦闘用ホムンクルスも二十体。すぐに起動できる準備を整えた。第一研究所への侵入は難しいが、古城での戦闘なら、対抗処置を仕込んでおける。地の利もある。誰が来ようと、負ける要素が見つからない。
 ゲーテ。お前の血が必要なんだ。だが、友として殺したくはない。簡単に捕まってくれ。今回ばかりは、いつもと違って、間抜けなゲーテでいてくれよ。蜘蛛の巣に絡まったまま下手にもがくと、お前の羽は千切れてしまうのだから。
 ニーチェは、万全の体制で、ゲーテを待ち構えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み