第15話 陳情(3) Petition

文字数 1,218文字

「ニーチェ。工作は得意だろ? 君が研究しているホムンクルスを使って、うまい具合にゲーテの偽装を手伝ってあげたまえ。そうすれば、君にとっての監視にもなる。約束が守られるまで、カミーラが酷い目に遭っていないかを見届けることもできる。それは、お互いにとっても満足のいく話だろう?」
 カミーラに危険がないかを見られる上に、ホムンクルスの実践実験ができる。これはありがたいことだ。ニーチェは、大きくうなづいた。
「話はこれで終わりだ」ローゼンクロイツが手を合わせる。
「はっ」ゲーテは、両手を合わせて了解する。
「ありがとうございます」副団長は信用できないが、ローゼンクロイツ団長ならば信頼できる。ニーチェは片膝をつき、ローゼンクロイツに感謝の意を示した。

 ゲーテがついてきてくれなかったら、自分は今頃、アンドレーエを殴っていただろう。ニーチェは、目の前を歩く大きな背中に、更なる信頼を寄せた。ただ、やはりニーチェは研究者気質だ。二人で車に乗り込む頃には、すでに、ホムンクルスの実践投入への想いで頭が一杯だった。御礼の一つも言っていない。だが、友達なのだ。甘えがあっても仕方がない。
 運転は本部の団員にお願いし、二人は、これからの予定を計画し合った。どのようにしてホムンクルスを使用し、バルサーモ家を騙すのか。錬金術師にしか分からない暗号言葉で、計画を練り上げていった。
 第一研究所に到着すると、ニーチェは、休む間もなく、すぐにホムンクルスの調整に取りかかった。移動時間も含めて三日しかないのだ。
 幸い、実験中のホムンクルスたちの中に、カミーラに見えそうな一体があった。彼女を取り出し、カミーラの写真を見ながら、整形手術を施す。普通の人間ならダウンタイムなどもあるが、ここはホムンクルスだ。たった一日で、見事、カミーラに似たホムンクルスを完成させることに成功した。どうせ、バルサーモがカミーラを見た場所は、暗闇の中だ。そこまで精密でなくとも分かるまい。
 ニーチェは、ゲーテの乗る馬車に、培養液の入ったカプセルを設置した。中に、カミーラのホムンクルスを横たえさせる。黄金心臓と黄金脳を起動させる作業のため、ニーチェも、団員の一人に変装し、同乗する。
 ホムンクルスは、カプセルから出ると、約一時間で死んでしまう。だが、どうせ死体を渡すのだ。さして問題ない。それにニーチェは、ゲーテの説得力に対してもまた、絶大な信頼を抱いていた。多少のトラブルは、きっとゲーテが言葉で解決してくれる。

 こうして、準備が整ったゲーテ一行は、バルサーモ家の屋敷へと向かった。そして、さぞかしゲーテの論客としての腕前が爆発したのだろう。見事、バルサーモたち全員を騙し切ることに成功した。
 これで、カミーラに対する全ての依頼は終わった。ニーチェは安心して、カミーラが第一研究所へと送られてくることを待ちながら、今回得た、新しいホムンクルスのデータについての研究を開始するのであった。
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