第86話 革命萌芽 Breaking Dawn

文字数 1,175文字

 ニーチェのお見舞いを終えたヤマナカとシャドーマンは、リアルカディアにある、彼らの秘密の隠れ家へと戻った。
「待ってたよ、ヤマナカ!」長い金髪の少年が走り寄ってくる。まだ子供だが、アンリーと、どこか顔が似ている。歳の離れた九歳の弟、ヘンリー・ホワイトモアだ。ここは、英国王室御用達の隠れ家。他にも、十体以上のアルカディアンやリアリストが、それぞれ楽しそうに談笑している。
 ヤマナカは現在、仲間を集めていた。英国王室を中心とした一大権力を作り上げ、自分が世界の覇権を握るために。世界は、力あるものしか動かせない。アルカディアンと錬金術師の合同軍隊を作り、世界を力で平和にする。これは、いずれ『シンタシス』と呼ばれることになる、ヤマナカの作る秘密結社の萌芽である。
 この隠れ家に、一人の西洋美女が入ってきた。黒いワンピース。とびきりのブロンズヘアー。最上級の美貌。吸血鬼、カミーラだ。カミーラは、長い髪の毛を無造作にかきながら、ソファーの上に、乱雑に寝そべった。
「お疲れ」ヤマナカは笑って労った。
「あんたもね」カミーラは、タバコを咥えて火をつけた。大きく吸うと、天井に向かって煙を吐き出す。アルカディアンは、幻想された通りに生きる個体だ。通常、外れた行動は取らない。だが、カミーラもシャドーマンも、普通のアルカディアンにはない、自我が芽生えていた。
「しかし、三年間か。思ったより時間がかかったな」
「まあね。でも、ニーチェ。彼は天才よ。それだけの価値はあったわ。私、あの人間、気に入っちゃった」
「今は、人間じゃなくて肉塊だがな」
「ま、ね。それは、ジャックがなんとかするでしょ。彼もまた、なかなかの才能の持ち主だからね」カミーラは、もう一度煙を吐いた。
「それよりヤマナカ。GRCの方はどうなの? ゲーテは味方になってくれた?」
「カーッカッカッカッカ。もちろんだ。あいつは、自分のことを頭がいいと思ってやがる。見識の狭い人間ほど、扱いやすいものはない」
「そういえばあいつ。ニーチェに、お前は騙されてる、とか叫んでたな。俺様、影の中からつい言いたくなってしまったぞ。ゲーテ、おまえもだまされてる、ってな」
「それはさすがに口が悪い」カミーラは、嫌そうな顔をして足をかいた。
「カーッカッカッカッカ。まあいい。今日は宴だ。また明日から、今度は、アルカディアへの扉を開くための大戦略を構想するぞ」
「おう!」
「任せといて!」
 長い作戦を終えた後の戦士の心は晴れやかだ。高級な家具の上に、次々と、高級な食事が並んでいく。
「ファッキン・クッキン・コックの料理、いつも本当に美味いんだよなー」
 今日だけは思い切り休養し、英気を養おう。ヤマナカの元に集いしクリーチャーたちは、一歩、また一歩と、結果を出しながら次の目的地を見つめていた。ここにいる者たちは、誰もが充実感を持っていた。
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