第36話 報告 Report

文字数 1,203文字

 次の日から、カミーラの捜索作戦が開始された。もちろん、日常は変わらず、あくまで水面下での捜査である。
 ニーチェは、ドリームメーカーだ。戦闘が得意なフィロソフィアーや、Fの使用が得意なファンタジスタとは違う。Fを作る錬金術に長けている。色々な知識がなければならない。当然、化学も強い。ルミノール反応を応用し、すぐに、カミーラの足跡を発見した。
 監視カメラの映像にカミーラの姿は映っていない。だが、第一研究所の外門につけられた監視カメラの映像により、ナンバーを隠した車が、研究所の近くに止まったことが確認できた。おそらく、ジョンがカミーラを助けたのだろう。逃走には成功したようだ。ニーチェは安堵した。
 車輪から痕跡を辿り、カミーラの逃亡先を推理していく。じっくりと時間をかけて捜査する。一週間後、ニーチェは、ゲーテに、カミーラの行き先を伝えた。
「彼女は、古城へ戻ったようだよ」
 これだけの時間をかせいだのだ。カミーラたちは準備を終え、どこかへ逃亡できたに違いない。
「どうする?」報告を終えた後、ニーチェはゲーテにたずねた。
「とりあえずは、逃げ出さないように見張りをつけておいた。これから、ゆっくりと古城の様子を調査していこう」
「彼なら適任だね」
 見張り役は、パウル・レーAFD。FDD『ドーゼンズ・オブ・チルドレン』を使用できる錬金術師だ。『ドーゼンズ・オブ・チルドレン』は、箱の中に入った十二の浮遊する目玉が、自分の視覚の代わりを果たしてくれるFだ。城の周りに配置すれば、気づかれずに古城から逃走することが難しくなる。
 ゲーテからも、ニーチェに情報を渡す。
「捜索したが、いまだに、所有者のジョージ・ゴードン・バイロンとは連絡が取れなかった。だが、所有者がいるということは確かだ。誰かの古城であるならば、誰も侵入はしない。ならば、吸血鬼に襲われる危険もない。今の状況で、しばらく様子を見ようと思っている」
 ニーチェは本当は、自分の目で、カミーラがいなくなったかどうかを確認したかった。そこまで見届けることが、約束を守ることだ。そして、もし、まだ古城にいるのならば、なぜ残っているのかと理由を聞き、改めて、逃走の手助けをしたい。どうせ給料は使わない。自分の持っている金銭も、全て逃走資金として手渡したい。
 だが、ゲーテにそんなことを言うわけにはいかない。ニーチェは、ゲーテに打診してみた。
「もう、彼女は、袋の鼠だ。再び、僕が、カミーラの説得に行ってみるというのはどうだろう?」
 ゲーテは上を向いて考えた後、はっきりとニーチェに言った。
「いや……、やめておこう。もう少し考えさせてくれ」その上で、ゲーテは頭を抱えてため息をついた。珍しい。よほど疲れているのだろう。
「分かった。何かあったら、いつでも手伝う。僕を頼りにしてくれ」
「ああ。君は俺の、一番の親友だよ」
 ニーチェは笑みを返して、ゲーテの部屋を出ていった。
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