第28話 捜査(3) Search

文字数 1,199文字

 こうして、理性の限界まで調べてみたが、カミーラの体に、傷跡は見当たらなかった。完璧な美とは、彼女のことだ。ただ、ケガはしていないが、やはり彼女は、色々な実験をされている可能性が高い。彼女の体に塗った、ニーチェ特製の透明塗料が、触られた形で落ちている。それに何より、ニーチェはカミーラと、長い間、肌と肌を触れ合わせていた。そのために、彼女のことが色々と、肌感覚で分かるような気がした。
 彼女は、誰かに、何かをされている。分かった以上、早く、彼女を解放してやらなければならない。姿を消せる服と口紅があれば、安全に、第一研究所から逃すことができる。人のいる位置が分かるジョンが待機していれば、そのまま、逃走を手伝ってくれるだろう。ジョンの能力ならば、誰からも捕まることはない。
 会えなくなるのは寂しい。だが、ニーチェは決断している。目的がはっきりと決まれば、後は行動するだけだ。
 布を、カミーラの寸法通りに裁断し、赤いワンピースを裁縫する。口紅は、PSと混ぜて、スティック状に変える。次に、彼女の部屋のゴミ箱や、風呂の排出口の網から、髪などを採取し、彼女の遺伝子を取り出す。これらとオーラを混ぜながら、FDに、カミーラが作用するための調整をする。
 ただし、監視に見られている場所で実験をすると、効果がバレてしまう。カミーラには、極めて自然に、シャワー室で着替えをさせる。透明化を確かめた後は、口紅も塗ってもらう。こちらも、ニーチェが自分で、気配を確認する。
 何十度目かの失敗の後、ついに、二つの、カミーラ専用FDは完成した。特に、口紅は素晴らしく、監視カメラに映像が残らなければ、ただ、口紅をつけるだけで、どこにいるのかが分からなくなるほどの効果があった。ニーチェは、この二つに、ワンピースFDE『レッドハイド』と、口紅FDE『ノーフェイス』という名前をつけた。
 『レッドハイド』と『ノーフェイス』を、カミーラの部屋のシャワー室の着替え棚に置く。後は、監視カメラの位置を教えるだけだ。
 ニーチェは、カミーラの部屋の入口を指差し、研究助手に尋ねた。
「なぁ。あそこのカメラ、なんか、光がおかしくないか?」
「いや。おかしくはないと思いますが」研究助手は、首を捻った。
「そうか?」言いながら、こっそり声で団員に話す。カミーラにかろうじて聞こえる程度の、ひっそり声だ。
「集中が削がれた。もう、今日の研究は終わりにしよう。あのカメラが故障してないか、監視室に行って確かめてみないか? なんせ、あそこと、各階の階段と、門についているカメラが抜かれたら、他には、監視カメラがどこにもないんだからな。用心に越したことはない」
 団員は、自分だけで監視室に行かされるのだったら、ニーチェに対して警戒をする。だが、一緒に監視室へ行くのなら、問題はない。
 その日の研究助手の報告でも、ゲーテには、不審な点はなかったと伝えられた。
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