第76話 宣戦布告 War Declaration

文字数 1,170文字

 ゲーテは大会議室で倒れている。だが、ニーチェがいなくなれば、毒の効果は徐々に薄れていく。外傷もない。やがて、起き上がることが出来るだろう。
 ニーチェには、その前に、やっておくべきことがある。大会議室を出て、放送室へと向かう。本部の通路を歩いていく。死屍累々とはこのことだ。まるで、籠城したゲリラを壊滅するために、一個師団が突撃して来た後のようだ。
 ニーチェは、この感情を、なんと言えばいいのか分からなかった。ただ、身体反応として、笑いが止まらない。気を張らなければ、つい、笑いが込み上げてきてしまう。
 放送室に入る。カバーがかけられたボタンに、手を触れる。緊急警報だ。副団長だけが使用できる。だが、すでにニーチェは、アンドレーエの薔薇も背中に背負っている。苦もなく、そのボタンのカバーを開けることができた。
「あーあー」廊下から、たくさんのニーチェの声がする。廊下で倒れている死体の持っている団員カードからだ。全ての団員カードに、この警報が繋がっている。
 楽しい。ニーチェは、ひとつ咳払いをした後で、流暢に演説を開始した。
「諸君。私の名は、ニーチェ・フラテルニタティス。ただいま、本部を壊滅させました。私は、気が狂ってなどはいません。なぜならこれは、諸君と私との戦争だからです。黄金の落日は始まりました。神々の黄昏まで、後、三日。それまでに、私を止めてみなさい。そうでなければ、君たちの人生は、終わりを告げます。恐れ慄き、それでも、私に挑戦しなさい。四日日の太陽が落ちた時、私は、無敵になります。そうなれば、以降、全ての団員を殺し尽くすことにしましょう。私は、逃げも隠れもしません。シェリダン・レ・ファニュ城にて、貴方がたを待ち受けます。果たして、貴方がたの中に、私を倒す英雄は、いますかな? 心してかかってきなさい。オーッポッポッポッポ。オーッポッポッポッポッポ」ニーチェは、思うさま笑って、マイクのスイッチを切った。GRCへの宣戦布告は終わった。後は、ゲーテとの再会を待つだけだ。
 放送室から出ると、扉の前でジョンが待っていた。ニーチェの居場所は、『監視社会の地図』で知ったのだろう。ニーチェは、ジョンに聞いた。
「作戦の方、どこまで終了いたしましたか?」敬語を使うように意識しなければ、言葉が全て、笑い声だけになってしまう。今までの人生で笑ったことが少ない分、この短期間で笑いを取り戻そうとしている。それくらいニーチェは、気分がハイだ。
 ジョンは応えた。
「移動する用意は終了した。『イコン』とFも、全て、私の馬車に積み込んだ」
「そうですか。それでは向かいましょう」
 ニーチェは外へ向かおうとする。後ろから、ジョンが腕を掴む。ニーチェは、振り返った。
「どうしました?」
「先ほど突然、二人の錬金術師が現れたんだ」ジョンは、奇妙な報告をした。
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