第67話 リアルカディア(3) Re-arcadia

文字数 1,480文字

 カミーラが寝た後、ニーチェは、別の部屋で、ヤマナカと話をした。これからの方針についてだ。ヤマナカにはなぜか、何でも話すことができる。
「……なるほど」ヤマナカは、一通りニーチェの話を聞いた後で、渋い顔をしながら答えた。
「できれば同志として、共に、アルカディアンの解放に力を貸して欲しかった。無理でも、カミーラと共に、幸せに生きて欲しかった。だが、君が死を決断しているというなら仕方がない。必死の決意を否定することは、君を否定することに繋がる。私は、敬愛する君を、否定したくはない」
「ありがとう。最後に御礼がしたい。何か、僕にできることはあるかい?」ニーチェの表情は穏やかだ。もう、覚悟を決めているのだ。
「そうだな……」
 ヤマナカは考えた。
「まず、第一研究所にある『イコン』は回収したい。もし、誰かが使用できるようになったら、古城の研究室に入られてしまう。それは手間だ」
 当然のことだ。ニーチェは、すぐに答える。
「もちろん。運び出す方法は考えてる。他には?」
「んー」ヤマナカは腕組みをしながら、ゆっくりと部屋をうろついた。少し考えては立ち止まり、何度目かの立ち止まりの後で、ようやく、ニーチェと顔を合わせた。
「それでは、できたら、でいいが、お願いしてもいいか?」小声で言う。
「ああ」もちろんだ。ヤマナカのおかげで、カミーラとの約束を守ることができたのだ。どんなことであっても、絶対に裏切りはしない。できるだけのことはしたい。
「ニーチェ。君がこれから、自分の立てた計画通りに動くとすると、おそらく、GRCは、KOKにクエストを依頼するだろう。その時に出陣してくるのは、間違いなくカトゥーという男だ。もし、黒髪のアジア人で、仮面を被った錬金術師が相手になったら、その時は、その男を、君と一緒に、死の世界へと連れていってはくれまいか?」
 殺すことに躊躇はない。計画にも支障はない。だが、ニーチェは迷った。
「同じKOKだろ? いいのか?」
 ヤマナカは苦々しい顔で、ひねるように言葉を吐き出した。
「……ああ。私も迷った。だが、君と同じだ。大義のためには犠牲にしなくてはいけないものがある。私は、アルカディアン差別がない世界を目指している。だが、彼は、アルカディアンを排除する世界を作ろうとしている。水と油がかき混ぜても合わさらないように、彼とは、どうしても相容れない存在なのだ」
 ニーチェは、色々と思うところがあった。だが、何も言えなかった。自分にも同じような経験がある。ヤマナカの気持ちは、痛いほどよく分かる。
 ニーチェは、うなづいた。
「だったら、彼を道連れにしよう。どうせ、僕は最悪の存在になるんだ。百人も百一人も、同じことだ」ニーチェは、自嘲するかのように薄く笑った。
「ありがとう。ただ、無理はするな。失敗しても構わない。ニーチェ。ただ、君の作戦の成功だけを、一番に願っている。返り討ちにだけはあうな。作戦を失敗してしまったら、それは本末転倒だ」
「ああ。期待して待っていてくれ。ジョンはどこだ?」全ては定まった。この作戦には、ジョンの助力が必要不可欠だ。ニーチェは立ち上がって尋ねた。
「ジョンはもう、古城の研究所に戻って、君を待っている」
「そうか……」ニーチェは、自分の首にかけられている縄に手をかけた。
「ありがとう」ニーチェは、ヤマナカに対する全ての感謝の気持ちを、この一言にかけた。
「うむ。君が無事でいられることを祈るよ」ヤマナカは、フクロウマスクをとり、最後に自分の顔を見せた。
 ふっ。信頼してくれるんだな。ニーチェは笑顔を見せ、ゆっくりと、首から縄を外した。
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