第27話 捜査(2) Search

文字数 1,039文字

 次の日、ニーチェは、目が痛くなったからブルーライト遮断用のメガネをかけてるんだ」と言い訳しながら、カミーラの部屋の前まで来た。扉の把手には、はっきりと男性の手形がついている。扉の把手の両側ともに、だ。
「カミーラ。君は、昨日、この部屋から、出ようとしたかい?」ニーチェは、カミーラだけに分かるように、表情で、真意を確かめた。
 カミーラは、ゆっくりと首を振った。いつも通りだが、こちらも表情で分かる。やはり間違いない。この部屋に、誰かが来たことは確実だ。こうなると次に、彼女に、外傷がないかを調べなければならない。どこかに連れ出されているだけではなく、拷問を受けているかどうかも確信を得たい。
 だが、どちらにせよ、ジョンの言うことは正しそうだ。そうなると、カミーラを実験している黒幕は一体、誰なのか。ニーチェには、あの男しか思い浮かばなかった。いや、それだけは否定したい。早めに、否定する材料を探し出したい。
 とはいえ、今すぐ動くのは早計だ。ニーチェは、早まる焦燥感を抑え、自分のカバンから、赤い布を取り出した。今は、出来ることをおこなうしかない。もし、拷問が本当だった場合に備え、この姿を消すFDを、カミーラ専用として作り上げておくのだ。きっと、逃走する役に立つ。
 ニーチェは、カミーラに布を合わせ、わざとらしく首を捻った。
「カミーラ。どうやらこの服は、君にとっては、少しブカブカのようだ。悪いが、寸法を測らせてはくれないか?」
 カミーラはうなづいて立ち上がり、無表情なまま、ゆっくりと、両手を地面と水平に広げた。
 わ。ニーチェは驚いた。何という、何という「女」。女の全てが、男としての本能に押し寄せてくる。ホムンクルスとは全然違う。意志ある、肉体の塊だ。
 ニーチェは、心臓が早まった。メジャーを伸ばし、彼女の脇から、両手を入れる。オーラ以上のオーラ。一度肌に触れてしまえば、もはや、その手は抑えが効かなくなりそうだ。
 ニーチェは、全身の血が沸騰していくのを感じながら、最大に欲を抑えて、体の採寸を測った。

 次の日は、カミーラの手足を握ってみる。ああ。何という柔らかさ。もう、戻れない。理性を保つことが得意なニーチェでも、もし、監視している研究助手がいなければ、入口に監視カメラがついていなかったら、絶対に、彼女を押し倒していただろう。
 ニーチェは、鼻の下が伸びながらも、冷静な表情だけは保っていた。冷静な行動も保っていた。ただ、心の中だけは、完全に、カミーラに溶け狂っていた。
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