第40話 作戦会議(1) Strategy Meeting

文字数 1,284文字

 不思議なことに、ワーグナーが殺害されてから数日が経っても、第一研究所内では、大きな騒ぎにならなかった。もしかしたら、泳がされているのかもしれない。ニーチェは警戒したが、その様子もない。ゲーテが箝口令をひいているのだろうか。ニーチェは、秘密の捜査にしておいたことが功を奏したと思い、安堵した。
 ただ、カミーラの死への秒針は刻まれていく。日増しに焦りが顔を出す。しかも、団員を一人殺してしまったのだ。いつかはバレる可能性が高い。バレれば追放か監獄行きだろう。カミーラの解毒のためのFを探すことはできなくなる。行動するなら、早いほうがいい。ニーチェは、作戦を考えた。
 次の日の夜、ニーチェは、トリスタンとイゾルデも同じ手口で殺害した。誰の血が必要か分からないのだ。どうせなら、一度に終わらせておいた方が都合がいい。もちろん、血を採取することが目的だ。『ダスティネイル』が暴走しないように、気をつけはした。だが、結果は、二体のミイラを生み出すことになった。
 これで、カミーラ研究について知っているものは、自分とゲーテしかいなくなった。さすがに怪しまれる。きっと今晩、ゲーテは、自分の部屋に来るだろう。
 ところが、夜にやってきたのは、ゲーテではなく、クリスティアーネだった。
「失礼するわ」クリスティアーネは、いつものようにいそいそと、ニーチェの肩に、触れてくる。
「私、今日、怖い事件を聞いちゃってん……」ひどい甘えようだ。
「どんなだい?」内容の予想はついている。ニーチェは、普段以上に優しい口調でたずねた。
「この前、一緒に調査した錬金術師たちがいたじゃない? ほら、あの、地下三階の
倉庫に入って、挙動不審な行動をしていた三人組。彼ら全員、ミイラになっちゃったって話を聞いたのん……」クリスティアーネはベッドに座り、震えるようなふりをして、ニーチェの裾を掴んだ。ニーチェのことを心配しているのだ。
「危険だ」犯人は僕なんだよ。ニーチェは思いながら、そっと、クリスティアーネの頭に手を置いた。
「その話は、絶対、誰にも言わないほうがいい。クリスが知っていると分かられたら、最悪、命を狙われるかも知れない」
「誰にも?」
「誰にも。ゲーテにも、だ」
 ニーチェは暗に、殺人の犯人がゲーテかも知れないということを匂わせた。聡明なクリスティアーネは、自分だけが気づいたとでもいうように目を見開き、大きく何度もうなづいた。
「ニーチェ。失礼するよ」突然、扉がノックされる。誰かが来たのだ。とはいえ、来るのは一人しかいない。クリスティアーネは、さらに慌てた。
「私……」
「不自然にならないように。知らないふりをして」
「気をつけてね」小声で二人は意思を合わせる。
「ゲーテか。ちょっと待っていてくれ」ニーチェは、時間をかけて扉を開けた。クリスティアーネは、いつもより緊張している。ゲーテにお辞儀をして、足早に、階下へと立ち去った。
 ゲーテは、ニーチェに軽口をたたいた。
「お楽しみだったか?」
「まったくお楽しみじゃないよ。ちょうど、君に会いたかったところさ」ニーチェは軽口に取り合わず、部屋の鍵を閉めて続けた。
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