第19話 詰問(2) Question

文字数 1,144文字

「ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテです! 入ります!!
 扉が開く。ゲーテだ。息遣いが荒い。ニーチェと目を合わせる。ニーチェは、端正な顔を歪め、青い唇をわななかせていた。だが、ゲーテは男らしい顔つきで、紅潮している。
「お前が本部に向かったと、クリスから聞いた。どうしたんだ?」
 ニーチェは、今までの経緯をゲーテに話した。
「なるほど」ゲーテは、アンドレーエに向き直った。
「副団長。貴方がなぜ、ここまで頑なにニーチェの意見を聞いてやらないか、私には分かります。カミーラを、逃したくないのですよね。理由は、アルカディアンを研究できる機会は滅多にない。それだけではありません。逃すことによって、外で誰かに見られた場合、サヴォイ家に対して言い訳ができない。これが、一番の大きな理由だと思います」立て板に水のように弁が立つ。
「だから何なのだ」アンドレーエは苛立っている。ゲーテは構わず、今度は、ニーチェに言った。
「そしてお前は、カミーラに対する約束が果たせていないことが問題だと思っている。それだけだよな」
 ニーチェもうなづく。
「それでは、折衷案として、こういうのはどうでしょう?」
 ここでアンドレーエは、ゲーテの言葉を遮った。
「馬鹿馬鹿しい。なぜ、副団長の私が折れなければならないのだ?」
「それは、団長の御意思が、副団長とは違うからです。私も、あの場にいた。誰だって分かること。もちろん、ご聡明な貴方も、お分かりになられているはずだ。けれどもそんなことはどうでもいい。聞いてください。カミーラを外に出すことはできない。副団長がおっしゃる通り、これは、仕方がないことだと思います。研究に使う。吸血鬼は、貴重なアルカディアンです。これも仕方がない」
 アンドレーエは、ゲーテが自分と同じ意見だったと知り、多少は気分がおさまったようだ。けれども、ニーチェにとってはたまらない。
 ゲーテ! 君も敵だったのか!! ニーチェは、身を乗り出して、ゲーテの言葉を遮ろうとした。だが、ゲーテは、ニーチェの体を片手で突き返し、そのまま、流暢に話を続ける。
「ならば、こういう案はどうでしょう。ニーチェを、吸血鬼の研究主任とする、というのは」
 アンドレーエは、ゲーテの変化球に興味を示した。ニーチェも考えた。確かに、自分が研究主任になれば、カミーラに、危険な思いをさせなくとも良くなる。ニーチェは、ゲーテを押す力を緩めた。やはり、友は、自分のことをよく考えてくれている。
 だが、ニーチェは、自分が間違ったことを言っているとは、露ほども思っていない。カミーラを逃すことができないだなんて、とんだ約束破りだ。なんとかして逃してやりたい。そして、アンドレーエに対する怒りもおさまらない。
 ゲーテは、ニーチェの肩に手を乗せた。
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