第43話 罠(2) Trap

文字数 1,092文字

 新緑に映える、赤いワンピースを着た美女。こんな美女は他にいない。カミーラ本人だ。間違いない。間違いようもない。ニーチェは、久しぶりに会えたカミーラに、全ての心を持っていかれた。
 ゲーテは、予想外のことに、目を見張っている。団員たちもざわついている。だが、腕に覚えのあるラヴァーターが動いた。短銃と長剣を帯に差し込み、机からひったくったトランシーバーを腰に挿して、一目散に飛び出していく。
「しょうがないわねぇ」準備したルーも、舌なめずりをしながら後に続く。
 ゲーテが、ニーチェを見てくる。ニーチェは、困った顔をしながらうなづき、準備を始めた。ゲーテもうなづく。
「レー。団員全員に、チルドレンをつけて見張ってやってくれ。誰かが危ない時には、指示を頼む。命を大事に、だ。徹底してくれ」
 古城の前の光景を見る。ルーがいない。ラヴァーターは、見当違いな方向に剣を振っている。カミーラは微笑んで、ゆっくりと背中を向ける。
「ちっ!」ラヴァーターは、舌打ちをすると、カミーラを追って、門の中へと走っていった。そのまま、カミーラの横を通り過ぎていく。
 ニーチェは、それとなく団員たちにも気を配った。自分以外の全員が、カミーラの幻覚にかかっているようだ。どうやら、コウモリに分裂して、四方に散らばったように見えているらしい。
 これは、好機だ。ニーチェはすぐに走り出した。二十秒遅れで、ゲーテも後を追う。
 ニーチェは、先ほどまで戦闘がおこなわれていた場所にたどり着いた。いくつもの落とし穴がある。おそらく、事前に、ジョンが掘っておいたのだろう。三メートルほどの穴に、ルーが落ちている。ルーはMAを使用しているので、ケガはしていないようだ。PSを空中に固定する技、ステッピン・ストーンを使用して、落とし穴から地上へと登ってきた。
「大丈夫か?」ニーチェは、ルーを落とし穴から引っ張り上げ、助けるようにして、彼女の肩を抱いた。ルーは、すぐに場内に入っていこうとしている。だが、逃がすわけにはいかない。これは、好機なのだ。ニーチェは、ルーの首の隙間から、ダスティネイルを射ちこんだ。
「ええ。心配な……しんぱひなひ」ルーは、急に酔ったような声を出す。もう遅い。ニーチェの体に、ルーの血液が注ぎ込まれていく。
「おい! ルー!!」ニーチェは、少し離れた場所にいるゲーテに対して、異常なことが発生したという演技をした。
「お・ま・え・だっ・た・の・か」ルーの口が、声もなく動く。恨めしそうな顔をしながら、ニーチェの腕の中で、ミイラになっていく。
「大丈夫か!」ゲーテがたどり着いた時には、すでにルーは、ルーでなくなっていた。
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