第65話 リアルカディア(1) Re-arcadia

文字数 1,008文字

 第一研究所へ戻ったニーチェは、兼ねてから考えていた自分専用FDの製作を開始した。賢者の石を液体状にして薬草と混ぜることにより、霊薬エリクシールが作られる。そのエリクシールに、ニーチェのオーラと創造力、カミーラとクリスティアーネの血液を混ぜる。甘い香水のFDB『エリクシール・ポワゾン』の完成だ。効果はカミーラと同じく、他人に幻想を見せることができる。ただし、ニーチェの実力では、十メートル以内で、お互いが視認し合った相手に限る。
 次の日、ニーチェは、再びダイバーダウンをして、古城の秘密研究所へ行った。ジョンとカミーラの他に、あの、フクロウマスクを被った男が、仲良く談笑をしていた。
「プロフェッサー」ニーチェは近づいた。
「やあ。待っていたよ」プロフェッサーはニーチェに近づき、優しく両肩に手を置いた。
「よくやったね。先ほどアンリーにも見せたが、完璧に完治している。君なら必ずや、成功することができると思っていた。私たちとともに、リアルカディアへと来なさい。今すぐ行くかい? それとも、準備があるかい?」心安らぐ声。だが、すぐに行くことはできない。ニーチェは友に、ゲーテに恩を返したい。
「すまないが、カミーラだけ、先にリアルカディアへと連れていくことはできるか?」
「もちろん構わない。ジョン。案内できるか?」
「もちろんです」ジョンはかしこまった。
「私、ニーチェと一緒に行きたい」カミーラは、しっとりと声を出した。ニーチェの感情にジンジンと染み入る。
「と、言っているが、どうだい?」プロフェッサーは、肩をすくめた。
「ならば、一度全員でリアルカディアの住居へ行き、安心した後で、最後の後始末を済ませたいと思います」
「よし。話はまとまった。おいで」プロフェッサーは、ニーチェとカミーラの手を掴む。ジョンも、ニーチェに掴まる。大きな姿見の前に立ち、プロフェッサーは言葉を唱えた。
「ダビデ王の騎士団、山中達也の名において命ずる。我がオーラに包まれている全ての者に、リアルカディアへ、ゲストとして入る許可を与えたまえ。ダイバーダウン」
 瞬間、時間と空間が揺れる。多少の酔い。気づくとニーチェは、オーロラとクリスタルに囲まれている、清明な世界にいた。
 首には、太い輪っかの縄が付けられている。プロフェッサー改め、ヤマナカに聞いたところ、ゲストとして来た者には、この首輪をつけられるらしい。外すと、元のリアルへと戻ってしまうそうだ。
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