第4話 友達(4) Friends

文字数 1,155文字

「いや。今回も空振りだろう。もし君の言うことが本当だったら、祖先の霊だの掃除だのという前に、事前に調査会社を入れてから古城へと向かうはずだ。貴族が何の下準備もなく行くことなんてない。それに、掃除をするなら、夜ではなく昼に行けばいい。僕の予想では、これはただの貴族のお戯れだね。おそらく、遊びで入った廃墟に浮浪者でもいて、怪我させられたから仕返しに我々を使おうとでもしてるんだろう。そして君は、その依頼を受けて、自分の実績を高めようと思ってるんだろ? とてもいいと思う。でも、僕はそんなことに貴重な研究時間を割きたくはないんだ」おためごかしが嫌いなのだ。
「まぁ、待てよ。話はここからなんだ」ゲーテは前のめりに体重をかけ、その後に起きた不可思議な出来事についても説明した。
「俺も同じ意見だった。幹部たちも、今回の依頼に対してお前が言ったことと同じような判断を下した。だから最初は、錬金術師二人を含めた十五人を一隊として、吸血鬼の捕縛を命じたんだ。ところが、団員たちは使命を果たせなかった。狐につままれたような顔つきで帰ってきた。多少のケガと、ドレス姿の美女が見えた後は、ただ、夢の中を歩いているようだったという報告と共に」
ーー美女? 夢の中? 錬金術師がケガ? 何の成果も得られなかった?
 錬金術師は賢者の石、フィロソフィー・ストーン、略称PSを媒体として、アルカディアの力を使用することができる。
 映画館では、観客たちがどんな手段を使用しても、物語の中に入ることができない。同じようにリアルでは、アルカディアで起こる全ての事象には干渉できない。時間と空間が異なるからだ。
 つまり、アルカディアの力を利用している錬金術師がケガをすることはあり得ない。錬金術師に干渉できるのは、同じ錬金術師かアルカディアンだけだ。
ーーということは……。今度こそ本当に?
 そこまで言われると、ニーチェも、この依頼に少しだけ興味を持ち始めた。
 ゲーテは錬金術に関して、ニーチェほど優秀ではない。だが、その分、政治力や話術に優れている。どう話せばニーチェが食いつくかをよく知っている。
「俺を助けてくれるかい?」
 こうして何度騙されてきたことか。どうせ今回も、今までと同じような結末なのだろう。人間は、過去を経験として未来を予測をする。ニーチェには、自分が騙される未来が見えていた。
 だが、今までニーチェがゲーテの出世を手助けしてきたように、ゲーテもまた、人付き合いの苦手なニーチェに、専用の実験室や自由な研究ができる特権を与えてくれた。友達というのはこうやって、騙されたふりをしながらも助け合っていくものなのかもしれない。
「しょうがないね」
 ニーチェは観念して目を合わせ、白くて繊細な手で、ゲーテの日焼けしたゴツゴツの手と握手を交わした。
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