第29話 潜入(1) Infiltration

文字数 1,399文字

 作戦には万全を期さなければならない。ニーチェは隙を見て、ちょくちょく部屋に来るクリスティアーネからも、さりげなくではあるが、情報を引き出そうとした。
「ねぇ、クリス。地下三階って、何があるの?」
「倉庫よ。実験道具や使えないFがおいてあるわん。何? 何か欲しいの? GRC錬金術ネットに、倉庫収蔵物一覧があるわ。日にちと時間を指定しておいて、チェック入れたら、その時間に届けるようにするわよん」
「そうだよね。倉庫しかないよね。うーん。いや、インスピレーションを得たいから、地下三階に行ってみたいんだ」
「あなたって……いつも面白いことを言うのねん」クリスティアーネは、甘い香水の匂いを撒き散らしながら、ニーチェの隣で、コロコロと笑った。倉庫には、雑用以外の用事がない。錬金術師が自分から降りていくことなんて、滅多にない。黒マントに持って来させればいいからだ。
「面白いかな? 他にそういう人っていない? 例えば、昨日とか」昨日は、確実にカミーラが、部屋から連れ出されていた。ジョンの言葉を信じるならば、連れ出された先は、間違いなく、地下三階にある、秘密の研究室だ。もし、錬金術師が地下三階に降りていたら、そいつらは、カミーラ研究に関わっている可能性が高い。そして、カミーラが虐げられているという、確たる証拠にもなる。
「そうねん」
 事務的な仕事では権力を持っているカミーラは、すぐに自分の携帯PCで調べてくれた。が、「いないみたい」と返事をした。
 そうか。いないか。ニーチェは、ゲーテが地下三階に降りていないことに、まずは安心した。次に、相手の正体を掴むことは難しいと知り、更なる方法を考えた。
 熟考を始めるニーチェに、何かを感じたのだろう。クリスティアーネは、一度お尻を浮かせ、ニーチェとの距離を縮めた。
「ね、ね。もしかして、どうしても、錬金術師が入ってないとおかしい理由があるの?」
「まぁ……。でも、みんなには内緒にしててくれよ」
「それなら、ゲーテに話してみる? いつものように解決してくれるかも」
 ニーチェも、ゲーテのことは信じたい。だが、もし、ジョンの言うことが全て本当だったとしたら、所長であるゲーテの目を盗んで、こんなにも大掛かりな仕掛けを作ることができるだろうか。そう思うと、流石にニーチェは、首を縦には振れなかった、
 クリスティアーネは、学はそこまでないが、勘は鋭い。ニーチェの顔を見て、何かを察した。ニーチェの耳に、唇をつける。
「じゃあ、バックドアで、幹部用のデータを調べてみる?」
「そんなことができるのか? 頼む」
「多分だけどね。ちょっとやってみる」
 クリスティアーネは、頼まれることが大好きだ。団の規定には違反しているが、ニーチェのためならと、再び、違反を侵してくれる。
 彼女は、ハッカーとして超一流な訳ではない。だが、ゲーテの部屋に入った時に、バックドアを保存しておいてくれた。ゆえに、ゲーテの閲覧できるデータは、全て引き出すことができる。使用した後は、履歴や形跡を消せば、それで全ては無かったことになる。
 ただし、ゲーテが使用中だと使用できないし、ゲーテが使用しようとした時に使用していると、繋がらないので怪しいと思われてしまうという危険はある。運がいいことに、今は、ゲーテも使用していないようだ。
「あ! あったわん」しばらく情報を調べていたクリスティアーネは、驚きの声をあげた。
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