第30話 潜入(2) Infiltration

文字数 1,381文字

「これ、確かに、錬金術師が三人、地下三階に入ったというデータが改竄されてるわん。なんで分かったの?」
 理由については答えない。ニーチェは深くうなづいた。
「やはりか。誰がいつ入ったのか、ここ三ヶ月の、全てのデータを教えてくれないか?」
「うん!」何が目的かは分からないが、天才ニーチェの言うことは間違いない。クリスティアーネは、ただ言いなりだったが、それでも、ニーチェと共に事件を解決しているような気がしていた。一生懸命にデータを調べる。
 クリスティアーネも、一度ハマると夢中になるタイプだ。更なる危険を冒し、監視室のビデオデータにも侵入し、解析をはじめる。
「んー。あ! この人たちだ。二ヶ月までしかデータは残ってない。けど、この人たちしか入ってない」クリスティアーネは、さらにニーチェにくっつき、携帯PCの画面を見せた。ふくよかな胸がしっかりとニーチェの二の腕についているが、ニーチェは全く気づかない。ただ、情報に夢中だ。
「ワーグナーADA。トリスタンAPC。イゾルテAFC。一人も知らないな」ニーチェは、監視室の画像データと照らし合わせた。毎回、大きな布に隠して、二足歩行の動物を連れている。これは、カミーラに違いない。
 やはり、僕に黙っておこなわれていたのか。胸糞悪さが爆発する。だが、知りたいことは感情ではない。真実だ。熱くなる気持ちを冷ましながら、さらに、正確に分析することに努める。
「彼らって、全員錬金術師だよね。なんで、赤マントは一人だけで、後は黒マントを羽織ってるんだ?」
 言われて、クリスティアーネも初めて気づく。
「そういえば、変ねぇ」
「クリスも知らない奴らなのか?」ニーチェの中では、クリスティアーネはかなりの情報通だ。クリスティアーネも、自分が情報通だという自負がある。
「ぬんんん」変な声を漏らしながら、さらなる情報を探っていく。
「えっと……、彼らは、去年の九月に、移転して来たみたいね」
 今から半年前。ちょうど、カミーラが第一研究所に来た時だ。ということは、おそらく、今回の黒幕は、アンドレーエ副団長だろう。間違いない。
「それから、と。あ。この、ワーグナーという人。A級だけあって、本部では、かなりの有名な研究者みたい。FDS『ニーベルングの指輪』の所持者だわ」
「FDS!」ニーチェは驚いた。Sランク以上のFなんて、一生、目にせず天寿を全うする錬金術師の方が多い。それほどに希少性の高いFだ。
「一体、どんな効果を持つFなんだ?」
「それは書いてないけど……。でも、昔、資料で読んだことがある。確か、世界のバランスを崩せるほどの力を持っている、って」
 どうやら、ワーグナーという男は、かなりの実力者のようだ。ということは、本部としても、カミーラ研究に本腰を入れているということにもなる。ニーチェは、カミーラがどんな実験をされているのかと、不安に陥った。
「ありがとう。この件に関しては、ゲーテも含めて、僕以外の誰にも話さないでくれ。それから、また、情報が入ったら頼む。僕は、正義のことをおこなっている。手伝ってもらう以上、それだけは約束をしよう。ただし、無理をする必要はないからね」ニーチェは、顔がくっつくほどの近い距離で、真剣な目を合わせた。ニーチェにその気はないが、まるで、一流ホストのようだ。クリスティアーネは、目をハート型にしてうなづいた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み