第33話 逃走(1) Escape

文字数 1,072文字

「おい。どこへ行くんだ?」
「ついてくれば分かる」ニーチェは止まらなかった。部屋のある三階から、地下三階まで。階段を、一直線に降りていった。
 地下二階からは、最重要機密のある部屋が多い。一般団員の立ち入りは禁止されている。ニーチェも研究主任だが、研究科の許可なく入ることはできない。ニーチェは迷うことなく、地下三階まで降りていった。
「ここを開けてくれ」
「いや、しかし」
「君は所長だ。そのカードで、ここを開けられるはずだ。もし、君が本当に関与していないのなら、今すぐに、ここを開けてくれ。必ず、カミーラ逃走に関する手がかりがある」
「しかし」
「開けてくれ」ニーチェは、懇願するように言葉を吐いた。
 ゲーテが頑なに開けなければ、カミーラの秘密実験に関与している可能性が高い。だが、本当に知らないのなら、友達の頼みを断る必要はない。地下三階は倉庫だ。隠すことがなければ、すぐに開けられるはずだ。
「分かったよ」ニーチェの要請に応じて、ゲーテは、簡単に、地下三階の扉を開けた。
 本当にゲーテは、この件に関わっていないのか? それとも、すでに証拠は隠蔽した上で鍵を開けたのだろうか? 確かめるために、ニーチェはそのまま、倉庫の突き当たりまで進んでいった。
 突きあたりは壁。ジョンの地図に記されていた通りならば、この奥がカミーラの実験場所だ。ジョンの話には、今まで一つも間違いがない。奥には隠し部屋があるはずだ。ニーチェは、確信を持って壁を調べた。
 地面や壁には、微かに人の足跡や、手指の脂がついている。間違いない。秘密の入口は存在する。ニーチェは壁を擦り、オーラとPSを使用して、隠し扉を探すための分析を開始した。
 実験室は週二回、頻繁に開閉される。頻繁に開けられるのなら、カラクリは、面倒臭くはないはずだ。壁を調べると、手の脂が不自然に途切れている箇所がある。さらにこの隠蔽には、Aランクの錬金術師が関わっている。
 さまざまな要因から、ニーチェは、二十センチ四方の小さな隠し扉を見つけた。ワーグナーのFHE『カメレオン・ウォールペーパー』で隠されていた扉だ。質感も壁と全く同じなので、普通なら分からない。だが、天才ニーチェににかかれば、簡単に見つけられる。
 扉を開くと、中には、カードによる認証システムがあった。
「なんだこれは?」ゲーテは、驚いた顔をしている。どうやら、本当に知らなかったようだ。
「開けてくれ」
 ゲーテはうなづき、恐る恐る、認証システムに、自分の所長カードを押し当てた。
 カチッ。開いた。
 壁はスライドし、研究室は、ニーチェたちを迎え入れた。
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