第6話 古城(1) Old Castle

文字数 1,136文字

 ニーチェが一人で古城へと向かったのには訳がある。相手を怖がらせないためだ。それに、大人数で交渉しても意味がない。もし相手が強敵で、逃げなければいけない事態になった時、ニーチェにとっては重荷にもなる。ゲーテだったら連れていってもいい。だが、そうすると、隊長を失った討伐隊を指揮する人がいなくなる。
 とはいえニーチェは、自分の命に対しては全く心配していなかった。もし相手が人間だった場合、ニーチェはMAが使用できる。絶対的な防御が可能だ。さらに、催眠ガス対策として、携帯用酸素ボンベも奥歯に設置した。これで、完全にMAで体を覆っても、十分間は呼吸ができる。
 そして、もしもの場合に備えて、もちろん武器も持っていく。対アルカディアン用オリハルコンソード『ゴールデン・グローリー』。PSを材料とする希少金属、オリハルコンで生成した剣だ。オーラが通しやすくなっているため、アルカディアンやMA中の錬金術師にも攻撃ができる。そしてこれは、ニーチェが初めてゲーテと共同開発して作り上げた道具でもある。
 こうして心身ともに万全の準備を終えたニーチェは、ワクワクした気持ちで、一人、古城の前に立った。

 古城は、深い森の奥にある。丘のように滑らかに盛り上がった斜面の上に建てられ、裏側は切り立った深い崖、崖の底には幅十メートルほどの急流の川が流れている。自然の中にポツンと置き忘れられたような建造物だ。お城にしてはこじんまりとしている。敷地面積は野球場程度。高さもほとんどは十メートルを超えていないので、おそらく二階建てだろう。真ん中に一棟だけ、三十メートルほどの太くて長い尖塔が建てられている。
 ニーチェは、自分の身長の倍もある大きな扉の門の前に立ち、引き手を握って強く叩く。ガンガン。返事はない。ニーチェは、大声で呼びかけた。
「私は、怪しい者ではございません。黄金薔薇十字団の錬金術師、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェと申します。先日、さる貴族からの依頼により、我々の一団がこの城へと進入いたしました。ですが、ご主人に会うことはできなかったという報告を受けました。本部からは強引に攻めよとの命令がありましたが、私はどうしても、貴方が悪い人には感じられません。全て、我々が礼を失した結果だと思っております。ですので、謝罪も兼ねて、こうして、私一人で話し合いに参った次第です。よろしければ、入場をお許しいただければ幸いです」
 しばらく待ったが静かなままだ。森に棲む動物たちの鳴き声しか聞こえない。
「誰もいらっしゃらないようでしたら、謎の解明のために、失礼させていただきます」 
 やはり返事はない。城門の隣にある小さな扉には、鍵がかかっていない。ニーチェは意を決して、城の中へと侵入した。
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