第52話 フクロウ教授(2) Professor

文字数 1,524文字

「その後、俺は、KOKに入団した。理由は一つだけ。力。力を求めるためだ。もし、あの時、俺に力があれば。……きっと、彼女を守ることができた。ニーチェ。君と同じだ。今だって、カミーラを殺させることはなかった」
 ニーチェは、こいつの『オウルキャンセル』のせいでカミーラが死んだのだと思いたかった。だが、天才的な頭脳は、冷静な未来の予想もはじき出す。KOKがこんなにも強い騎士団なら、彼がいなくとも、どうせ追い詰められていただろう。
 フクロウマスクは、話を続ける。
「そこで、俺は、KOKに在籍しながらも、同時に、自分だけの組織を設立することに決めた。アルカディアンがリアルで暴れないためではない。アルカディアとリアルを繋げ、お互いが平等でいられる世界を実現するために」
 お互いが平等の世界、か。だったら、どんなにもいいことか。ニーチェの目頭が熱くなる。枯れ切ったと思った涙が、再び溢れ出す。先ほどとは違う涙袋があるようだ。
「ニーチェ。実は、彼女は、死んでいない」
 何だって? よく分からない。ニーチェの脳が、希望で熱くなる。
「アンリーのオペで、彼女の細胞の動きは、百分の一に鈍化されている」
 生きている? ニーチェは、詳細を尋ねたかった。だが、口が動かない。濁った目玉を動かして、白衣の男を見る。アンリーと呼ばれた銀仮面の医師は、冷酷な口調でニーチェに言った。
「彼女は、後、十三日で死んでいた。だが、今では千三百日。約三年はもつ。ただし、仮死状態ではあるが、な」
「な、治す方法は……」
「ふんっ。自分で探せ。プロフェッサーは優しいが、私は、力のない者と手を組む気はない。ニーチェ。私たちはカミーラを、地下の研究所に隠しておこう。そして、あの部屋にある『イコン』を、お前にやろう。もし、彼女の毒を解除できたら、私たちを呼べ。その時は、助けてやる」銀仮面は冷たく言い放つ。だが、話の内容は優しい。
 プロフェッサーと呼ばれたフクロウマスクは、小さく何度かうなづいた後、一つ、大きくうなづいた。
「……ホー。そうだな」
 懐から、鈴を取り出す。
「この鈴を、下の研究所に置いておこう。君のオーラを注いで鳴らせば、それが解毒成功の証だ。その時には、君とカミーラを迎えに来よう」
「その代わり、失敗して呼ぶようなことはないようにな。私たちは、世界を変える大義を持っている。忙しいんだ。お前に助言もしないし、無駄な時間もない」
「ま」
 プロフェッサーは、ニーチェの、ボサボサになった金髪パーマを優しく撫でた。
「その後で我々に協力するかどうかは、今は考えなくてもいい。争いに巻き込まれたくないものには、ただ、平穏だけがあればいいと思っている。ただ、君が解毒に成功した暁には、君たちに、アルカディアンとリアリストが笑って過ごせる黄金郷をプレゼントしよう。そこは、リアルカディアという場所だ。逃げる心配もなくなる」
 ああ。希望。なんて、心が安らぐのだろう。プロフェッサーは、ニーチェを撫でることをやめて、立ち上がった。
 アンリーが、ニーチェを軽く蹴飛ばす。下にいるカミーラを、お姫様抱っこする。
 プロフェッサーは、振り向かずに隠し部屋に向かい、ごく自然に、隠されていた『イコン』を浮き上がらせた。
「ジョンから聞いたよ。君が、性格のまっすぐな天才だってね。次に会える時を期待している」
 ダイバーダウンする。
「じゃあな。この『イコン』は、君が持って帰るといい。Fだとバレないような細工がされている。カミーラの形見だとでもいえば、問題ないだろう。精神治療に良いと、私からもGRCに言っておく」アンリーも、金の長髪をたなびかせ、そのままカミーラと共に、『イコン』の中へとダイバーダウンしていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み