第14話 陳情(2) Petition

文字数 1,017文字

「ニーチェ君。君は、約束を守りたい。例え、相手が吸血鬼だろうと。それが、我々GRCの矜持。そう言うのだね」ニーチェは振り向いた。ローゼンクロイツ団長。地中海のように、吸い込まれるほど深い瞳だ。
「では、交換条件を出そう。もし、カミーラを、バルサーモに引き渡さなければ、なんでも一つ、私のやって欲しいことを聞いてもらう。それでどうだ?」
 今度は騙されるわけにはいかない。どんなに綺麗な目をしていても、腹の奥ではアンドレーエ副団長のように悪巧みをしているかもしれない。なんせ、GRCの団長なのだ。迂闊になんでもやると言って、自分の信念を曲げるようなことをさせられては堪らない。
「やることによる」ニーチェは冷静に答えた。こんな状況でも一歩も引かない。
 ローゼンクロイツは目を輝かせた。
「良いねぇ。では、今から君には、フラテルニタティスの姓を名乗ってもらう。それが、私の交換条件だ」
 ニーチェは驚いた。もっと無理難題をぶつけられると思っていたが、まさか、姓を変えるだけですむとは思わなかった。フラテルニタティスという姓は、GRCの研究者の間では伝説の姓だ。だが、伝説ゆえに変な慣習がない。どうせ自分は、これからも、錬金術の新しい発見を次々としていくつもりだ。名前を変えることなど、何の労力でもない。
「それだけですか?」
「ああ。それだけだ」
「では、それに関して僕からも条件があります。僕の名前はフリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ。フリードリヒは、ここへ来てからつけられた名前ですが、ニーチェは、僕の本当の両親の苗字だと聞きました。これだけは残したい。そこで、これからは、ニーチェ・フラテルニタティス。そう名乗るのでどうでしょう?」
「苗字を名前にする。王道ではない。だが面白い。それが、君の錬金術にも生きているのだろうな。……ニーチェ。君の提案を認めよう」ローゼンクロイツは楽しそうにうなづき、机に置かれたニーチェのバッヂをニーチェに渡した。
「でしたら分かりました」ニーチェは迷うことなく承諾し、ドアノブから手を離し、バッヂを受け取った。
 ローゼンクロイツは、作り物のように白い歯を見せた後、呆然としているゲーテに命じた。
「ではゲーテ。先ほど責任者となった君に命じる。バルサーモ卿と約束している日時は三日後だ。それまでに死体を用意し、彼にこう伝えてくれ。カミーラは自決しました、と」
 ゲーテは戸惑っている。ローゼンクロイツは、ニーチェにも言った。
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