第18話 詰問(1) Question

文字数 1,037文字

「副団長!」ニーチェは本部に着くや否や、衛兵たちを押し除けた。名前も告げずに、副団長室の扉を開ける。アンドレーエは、PCで、文書にサインをしていた。
「はぁ。またお前か。今度はどうした?」」
 アンドレーエはため息をつき、不機嫌な手つきでPCを閉じる。ニーチェは、怒りに震えていた。
「彼女を、研究材料として使用すると聞きました!」
「ああ。その話か。どこから聞いたのだ?」
 アンドレーエはPCを引き出しにしまい、机の上で、手を組んだ。アンドレーエの質問には答えない。ニーチェは、アンドレーエに詰問した。
「この場で約束したはずです。私が姓を変えたら、彼女を解放してくれる、と」
「いや、そんな約束はしていない」またもやアンドレーエは、冷めた目でニーチェを見つめた。蛇蝎の目つき。
「嘘だ!」激しいニーチェの語調には付き合わず、アンドレーエは、極めて冷静な口調で返す。
「本当だ。よく思い出せ。お前が団長とした約束は、カミーラを、バルサーモ様に渡さない。それだけだ。間違いない。この部屋は、悪事が働けないよう、常に録画し続けている。なんなら、一緒に確認してみるか?」アンドレーエは、余裕の顔つきで答えた。すでに何度も、録画した動画を見返し、確信しているのだろう。自分の言には間違いがない、ということを。
「しかし……。確かに、言葉尻をとらえれば、そう言えるのかもしれない。けれども、あれは確かに、カミーラを解放する。そういう意味だったはずだ」ニーチェの語気は弱くなった。
「曖昧な言葉ではなく、ハッキリとさせるための行動が、契約や約束だ。つまり、このことは約束されておらぬ。帰れ」
「では、せめて! 団長の意見だけでも聞かせてください!」
「自分で団長に訊ねよ。止めはせぬ」
 ローゼンクロイツ団長には部屋がない。普段どこにいるのか、ニーチェはもちろん、アンドレーエでさえも知らない。だからこそ、GRC内の運営は、副団長に一任されているのである。それに、今から団長を探したところで、見つかった頃には、カミーラが解剖実験をされているかもしれない。
 また、迂闊に人を信用したせいで、こんな事態に陥ってしまった。ニーチェは、打開策を考えた。だが、いくら天才とはいえ、それは、錬金術研究でのことだ。カミーラのように純真な相手とは話し合いができるが、アンドレーエのような百戦錬磨との口論は難しい。歯噛みするしかない。
 アンドレーエは、勝ち誇ったような顔でニーチェを見下ろした。
 その時、副団長室の扉が叩かれた。
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