第9話 古城(4) Old Castle

文字数 1,441文字

 声の男は、苦しそうに話す。
「関係者……、では、ある、が……」
「では、お名前と関係性をお聞かせください。帰って調べて確認ができたら、交渉の手続きを取ります」
 男は、何かを悩んでいるようだったが、やがて、意を決したように話し始めた。
「関係者ではあるが、私は単純に、ジョージの主治医だった男に過ぎない。彼女をここへ連れてきたのも、この城が、故人の所有物になり続けていることを知っていただけだ」どうやら、この男も嘘がつけない性格らしい。調べればバレる。バレることは先に言っておこうと、腹を決めたようだ。
「どうして貴方たちは知り合い、ここへ来ることになったのですか?」
「まぁ……」声の男は、明らかに隠したいという喋り方をしながら続けた。
「私たちはただ、安息の地を探しているだけだ。だが、この場所ももう終わり。次は一体、どこへ行けばいいのだろう?」嘆いている。
「でしたら、私たちのところへ来ませんか? 黄金薔薇十字団に所属すれば、逃げずとも安泰です。貴方ほどの錬金術師なら、我々としても大歓迎です」
「それはありがたいが……、私はもう、組織が信用できないのだよ。これから死ぬまでに望むことは、彼女を幸せにしたい。ただ、それだけなんだ」悲痛な声。きっと今まで、ニーチェには分からないような苦労があったのだろう。ニーチェは、声を低くして話をした。
「なるほど。それなら、私が責任を持って、貴方たちの安息の地を探しましょう。すでに本部からの了承もとっております。ただ、こうなった経緯(いきさつ)を、貴方たちの口から本部に説明していただきたい。その間に条件を聞かせてもらえたら、私が候補地を探しておきます。それでよろしいでしょうか?」
 カミーラは力強くうなづいた。真偽を見分けられる能力は、血の量的に五日間は続く。カミーラには、ニーチェが嘘をついていないと分かるのだ。姿の見えない男の声は、安心したようだった。
「分かった。だが私は、人前に姿を見せられない事情がある。経緯だけならカミーラでも話せるだろう。ただし、貴方の命にかけて、くれぐれも大事に扱ってくれよ」
 ニーチェは、自分の心臓に手を置き、天井を見上げた。
「ええ。それはお約束いたします。ところで、貴方は一体どうするのですか?」
「私は、カミーラを安息の地に連れていってくれたら、その後で合流する」
 見えないところから攻撃できる能力。見えない場所から相手を見る能力。そして、見えない場所からカミーラの行き先を追うことができる能力。声だけしかしない錬金術師は、かなりの実力を持っているようだ。ニーチェは、この素晴らしい能力の錬金術師に、GRCに内緒にしてでも、錬金術の教えを請いたいと思っていた。だが、その夢は叶わないようだ。ただ尊敬だけが残る。
「分かりました。貴方とも仲良くなりたかったが仕方がありません。ただ、もしも何か問題が発生いたしましたら、その時は、是非とも私に会いに来てください」
「その機会はないことを願ってるよ。カミーラをよろしく頼む」
「はい。お任せください」
 カミーラは、高いハイヒールを履いているので、足元がおぼつかない。しゃがんで牢屋の鍵を拾い、ヨロヨロとしながら、鍵を開けて牢屋からニーチェを出した。そのまま、ニーチェと共に、外にいるゲーテの元へと向かう。ゲーテは大広間から外に出る時、声の男に大きく一礼した。
 ニーチェの位置からは見えないが、廊下の曲がったところで、錬金術師のジョン・ポリドリは、カミーラに何もなければいいと深く祈っていた。
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