2. 四神到来

文字数 3,980文字


    時を待ち待機する熾天使[セラフ]
神名:Seraphiel、ヘブライ語で「神の炎」を意味する


Re: 審判の天使(その前編)。

太陽が中天に昇った。
作戦開始の時である。

大地には泥の如き霧が垂れ込めていた。
昼であるにも関わらず不自然に、不気味に薄暗い。

突如、レンの大地に、轟音が響き渡って来る。
上空にある雲間を割って、正体不明の全翼機が飛来してきた。
急速降下で地表近くまで接近する。
そして大きく地上を舐めるようにして旋回して見せたかと思えば急上昇して姿を消した。
だが、辺りには轟音の響きは続いており完全に消えたわけではないことが分かる。
巨大な天使の顔が、霧の中を閃きながら滑空していた。
鋭角に反り返って伸ばされた六枚の銀翼。
大気を切り裂き、豪快に周回する。
非情なる顔そのものが地上を見下ろしながら飛んでいた。
時の到来を告げるが如く。
まるで審判の訪れを現下に宣うかのようにして。
轟音は尽き果てない。





正体は『サリー』である。
顔面の額中央に大きなサファイアストーンが嵌め込まれている。
すべての翼に同じく青に輝くレンズが目の如く多数付いている。
搭乗者するは[セラフ](*1)。最高位の熾天使の一人である。





次に『ウラヌス』が現れた。
上空遥かにダルマの如き巨大な顔面像が浮かんでいた。
眉間部に二色のランプが並ぶ。両眼は、それらを互い違いにして巨大化したものである。
まるで止められたかの如くして宙に静止していてる。

突如、左右の眼球ランプが「ビカーッ!・ビカーッ!」と交互に点滅を始める。
気象コントロール開始のサインである。
見る間に点滅のスピードは早まってゆく。
口部にある無限大(∞)を縁取るサーキット内を青の光球が駆け巡りだす。
みるみる内に球数は増えて高速に循環し始めた。

すると、緩やかに周辺の大気が渦を形成し始める。
ダルマは、ゆっくりとなんの音も立てずに地表に向けて静かに降下を始める。
それに連れて大気の渦はスケールアップされ、回転は驚くべき速さとなった。
地表を広範囲に覆う霧が見る間に薄れていった…。

レンは剥き出しの大地とされていた。
その全容が、幾星霜ぶりかに燦然たる陽光のもとに曝される。
跡形もなく影は消え失せ見えなくなっていた。

二体のマキナが完全に空間を制圧している…。






〈暗転〉


Re: ネフィリムのその後について(Part 2)。

ヘルモンに集った天使達、ネフィリムの父たるエグリゴリに、天罰が下される。
その任に就いたのは四人の天使:
ミカエル、ウリエル、ラファエルそしてガブリエルであった。
あまりにも超絶的な神霊力、圧倒的な威厳を放つ最高位の審判天使である。
この時のことの詳細を語ることは本書の役目ではない。
以下に簡単に要点だけを述べておこう。

エグリゴリは不死者であるが故に。滅ぼすことが基本適わない。
なので、幽閉、投獄とされた。場所は、超巨大大陸パンゲアの北端の地、
その僻地に開かれた「深淵」なる空間に、である。
手枷足枷がはめられ鎖に繋がれている。
全く身動きができない状態でいる。
やがての『裁きの日』まで、長の年月をそこに封印される。

「そうそう…」偉大なる天使によって深淵が開かれたのは
「ドゥウダエール」と呼ばれた場所だった。
そこは遥かなる未来において、その時代のヒト達からは、
「タクラマカン」と呼ばれることになる…。

*プレートテクトニクスを暗に前提としている。あっちは南極大陸となってる。

〈暗転〉

「ギバーリーム」には何の裁可も持たれなかった。しかし!「ネフィリム」は別だ。
惨事の元凶であったのだから。原因において天使らによって考察がなされた。
贖いの為に、この世界に堕ちて存在している「魂」(ヒトの子)が、また別の、
それも異種なる高次の「魂」(天使)と、新たなる罪を重ねることを仲介として
「混血の児」を産んだ。

不調和が起こっても全くおかしくはない。
この不調和を原因とした「消滅」を更に規格外の「器」(土工)に収めることによって
延命が無理やり計られた。もう土工を器として完全に一体化していて戻すことは適わない。
凶事の四重殺(*2)。ややこしいにも程が有る。(フー)。

この星の環境における生存はネフィリムにとって何ら益するものではない。
否、更なる混乱を引き起こす火種にしかなり得ない。手の施しようのない、
救いようのない、イレギュラーな(欠陥生命)との判断が下される。
父らと同じく〈廃棄〉として、同じ場所に封印するのが順当との判断となった。
あらゆる存在に完全な消滅が訪れる『裁きの日』まで…。


「ネフィリム」達が集められ居並んでいる。天使が上方を見つめる。
 宙に炎のヘブライ文字が浮かび上がる。掌を払う合図と共に数多に分かれ、
「土工」の躯体とその頭部に火矢の如くして入った。
〈完全停止〉の[コード]である。
 誰も逃げたり、避けることはできず、皆「バタン・バタン」と倒れ伏してゆく。
 電池の切れた機械の如く、虚ろな、デカイだけの骸となって大地に転がっていた。
 しかし、その胸部の奥深く、声なく、叫びを上げる「存在」が在った。
 これに気づくものは誰もいなかった…。


〈暗転〉

Re: 深淵に無底よるきたる使者。『The Pied Piper』

深淵なるはこれ「無底」のこと。封鎖空間としてあるが、実際はかの宇宙に
「沈められてある」を意味する。暴虐の無慈悲なる「ノイズ」に100%被曝される。
尽きることなく、「永遠に!」。

[理知]は、木っ端微塵に吹っ飛ばされ、意識は間違いなく錯乱に落ち入る。
それがいかなる者で在ったとしてもだ!。
出自が高ければ高いほど、感受性が鋭ければ鋭いほど、
味わう苦しみはより過酷なものとなる。
無防備の剥き身たるの精神が他者によって「介入」が為されてしまう。
これは避けようがないのだ。
意識の内容物たる連想の道筋が何者かによって操作されてゆく。
しかも、これに気づくことは、当人にさえ何故かまったく適わない。

『心が鈍くなった?』
『何か大切なものが失われた?』

然り!。されど


その目的は、あくまで、苦悩が、痛みが、万全に心の全体に
受け取られるための感覚フィールドとしての役目があるからに過ぎないが。

『私はズッと長く永遠に苦しんでいる…。』
『いつから?何故に?』





心象世界は混濁したものとなった。
以前の価値とは真逆のものへと心は向かう。
潜熱に煽られる。同時に脳細胞が覚醒に粒立ちする。
尽きることのない高揚感…。

『私の魂は夥しく陵辱された。され続けている…』

無限の「入れ子」構造たる観念の大伽藍。
純粋な悪意だけで満ち溢れた逆転せられし宇宙。
超知性によって創造された霊子の檻であった…。


〈暗転〉


『アンチ・ユニバース』の知性がネフィリムに目を留めた。
虚ろなる骸に寄生する高き霊性の魂に。
捨て置かれた「器」に宿る魂、その数666(*3)。


かなりの数の「泡」がエンタングルして強烈に発光していた。

電算のパンチカードのような音が、「カチカチカチカチ」・・・
そしてリールの回転のような音が「ム〜ン・ムッ、ミョーーーン」・・・
引き続き起こっていた。


*以下の内容はモールス信号で発信されている。
  全文カタカナ表記が本来は相応しいがそうもいくまい。
  コンピューターによる読み上げをイメージして読んでやってください。敬具


無原罪タル乃ステイタス訴エ/渇望/哀願/切願。

愛シ恋シ大樹ヘノ帰還。

捨子ノ郷愁。

不適合放棄投棄、是レ法理。

飢餓ノ無垢ナル魂ガ宿ルニ相応シイ「器」ヲ。

イクツモヲ乗リ換エテ大局ワ育マレル。

ヤガテ三層突ヲ破リ宇宙ヘト進展。

階層全テヲ巻キ込ンデノ発動。

準備ニ長ノ時ガ必要。

ソレマデ代行者ニヨリ調整。

代行者ニ伝達。

パイド・パイパー(The Pied Piper)召喚。

行ッテ彼ラヲ地上ヘト戻セ。

サレド、ノチニ、改メテ強者ニテ封印サレル。

最適合!。

旧キ器ハ放棄要。是レ脱皮ナリ。

時至ルマデオ前ガ面倒ミヨ。

意志、緊張、反動、振幅、超弦、永遠、無限、スゥイング・バイ…。

Nothing is worthwhile; everything is futile.

……… 。


〈四神到来IIへと続く〉


*1)神の炎を意味する。
*2)ヒトの原罪、父たる天使の犯した罪、反自然な延命方法、ヒトの殺戮。
*3)134体(800-666)は裁可を逃れた。どっか逃げたw。



おまけ:




熾天使[セラフ]、Seraphiel 。

偶然にしては出来過ぎだと思うよ…。

やっぱりマーズと猶太教義はつながりがある。

無意識層において。







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