7. 二獅神の逆襲

文字数 5,222文字

Re: 際どい会話。

*BGM: Paris, Texas。 by Ry Cooder 。
https://www.youtube.com/watch?v=X6ymVaq3Fqk
音量小さく流れている...

DB5改が大破して大地に投げ出されている。
これを間近で見下ろしながら、エノクはイリアと会話をする。
手は、ぶらんと下げられたままの直立で。(ガイガーは待機状態。)

エノク:
『どこまで探知できている?』

イリヤ:
「光学センサーからのものと、貴方の腕輪を通して拾えた音声がすべて。」

『あそこで僕が誰と会ったのか分かったかい?』

「それは、あなたの会話が聞けただけ。でも私には分からない…。
 アレが真実なんであったかってことについては…。
 センサーには貴方以外何も捉えられてはいなかったのよ。」

『……』

『では、今の僕の考えは?』

「状況としては…」

「あの[Babel]の原因は、ヒトの想念の累積化と何らかの関係がある。
 恐らくは、呪(夢)が、(ネットで)反復/強化されて魔術的な何かが発動した。
 結果、新たなる『器』が創造されて、これに亡霊(ネフィリム)が宿っている。」

『ご明察だ。』

「内容は、より洗練されたものへと深化していっている。
 驚くべき速度よ!これのVersion Up。なんて情熱なの!?。
 これの世界に魅せられて完全に取り込まれてしまっているのね…。」
 *(エノクは、ここにはあまり気に留めない)

『よく、あそこまで分かったね…。』

「私は、殆ど何もしていないわ。
 メタトロンからの回帰的演算から取捨選択を行なっただけ。
 殆どの推論の枝葉の構成、幹の選択は、
 メタトロン本体(マトリックス)が行なったもの。」

『何故助けに来てくれたんだい?』
 
「彼女の独断専行、その理由の見当がついちゃったから。」
「居てもたっても居られなくなった。」
「私も、何かをしなくっちゃと思ったのよ…。」

エノクはこれを、ただ黙って聞いていた。


〈暗転〉


傾いて大地より突き出たようになっているDB5を、エノクはあちこち調べている。
非常用の分離ユニットの射出スイッチを探していた。
やっと見つけたトライアングルの持ち手をエノクは思いっきり引っ張った。
暫し「ジー」音が続き、「ガコン」と車体の一部が抜け落ちた。

真紅の二輪ビークルが荒地に倒れ伏していた。
これを苦労してエノクは引き起こす。
腕輪を外し、メーターパネルの基部に置いた。
蛍光色のファイバーが伸びてきてこれと接合して固定される。
グリーンの投影光が起こり、イリヤが立体で浮かび上がった。
小さなお人形さんサイズ。

ガイアーを見上げ、イリヤは不安げに声を発する。

「エノク…これ、恐ろしいわ…。
 反物質エンジンで動いてる。実質爆弾そのものじゃない…。
 どれだけの破壊力があるか、想像もつかないほどのものよ…。」



エノクは気をそらすこともなく確認作動を進める。

『僕は、これに父なる神を思ってしまう…』
『 Yah は、仕える身となって僕の側に居て下さっている。』
『そう思わざるにはおられない…。』

ガイアーが正面から見上げた姿でパンされる。

「ビィーン・ビィーン・ビィーン」


〈暗転〉


Re: 臨戦体勢

戦闘バイクが南へと疾走してゆく。
R30からサルトの西端を南北に走る443に乗った。
そして矢庭に路を外れ、丘陵地帯に飛び入った。
道なき荒れ野を走行は西へと続けられてゆく。

いずれはイスラエルに入り、飛行機でこの地を離れることが考えられていた。
だがその前に、スフィンクスとの決着はつけられねばならない。
再度襲ってくることは間違いのない話である。
だからこそ、この地へと入り込んだのであった…。

バイクを停止させてイリヤに状況を確認する。現在は未だ不在とのことだった。

「今度はクリスティンも出てくるわ。」
「彼らの出現は一瞬になる。」
「もうガイアーは呼んでおいた方がいい。」

上空へと声をあげた。

『ガイアー!』


〈暗転〉


Re: 二獅神到来

「キィーン…イン ィン イン ィン…」

クリスタルを打ち鳴らしたかの音が響き渡る。何処と知れぬ彼方よりだ。
長く残響が続いていた。
突然、見渡す世界が一瞬にして変化する。
セピアに染まって異質なものへと転じていた。
同時に、時は凍ったかのように感じられる。
琥珀色の世界。無音の世界である。
その中を、あの音が再度打ち鳴らされて木霊する。

「キイィィイーンィンインィンイン…」

これを合図として、透明の平面が幾枚も群れとなって突如飛来してきた。
蛍光色に縁取られた平面/曲面が彼方より、さんざめいて押し寄せてくる。
優雅に揺蕩いながら…、矢の様に走って…押し寄せる流れのようにしてっ。
超スペクタキュラー!。

怒涛の如く現れた[時空平面]は、やがて舞うようにしてその全てが交わる。
交差帯の中心部に、二体の像が結ばれていた。黒のスフィンクス、
そしてもう一つの方の体は透けていた(ハイパー・ピュア・リキッド・クリスタル)。
透明な方にも見る角度によって内部に虹が発生して見える。
双眼はローズ・クリスタルの色。そして更には、それには豊かな乳房があった。

二体は、前後交互に入れ代わりながら猛ダッシュでエノク等の方へと迫り来る。
リニアライナー。二糸まつり縫いの要領である。

*EDスタートする:
   Climactic Return Extended, 15:37(Dangan Ronpa)
*次項にもBGMとして連続する。

間近に到りて黒の方の背に鷲の羽の如きがはえた。
透明な方は空間に溶け込んで見えなくなった。

琥珀に凍って、世界は解けない…。


〈暗転〉





Re: コンバット

エノクは時の停止した琥珀の世界をバイクで走る。
ガイアーはその少し上空を並走。
守りを固めている(手は胸に重ねてある)。
正面激突の構えである。

イリヤからのアドバイスは「絶対に離れてはいけない」だった。

黒が羽ばたきをもって急上昇した。
ガイアーより更に遥か高くに飛び、そこで黒の帷(とばり)となって大きく広がる。
大地は突如暗くなった。急遽停止にてエノクは様子を見る。

黒の幕屋に光のスリットが縦横に無数に走った。
次に、渦を巻くように幕間が捻れたかと思うと、即座に弾かれた様に元へと戻る。
力は放たれ、反発力に乗って黒のブロックが地上へ雨霰となって降りそそいだ。
(覆いはなくなり琥珀の明かりが再び空間には溢れかえる)

この時に、クリステインは黒と入れ代わるようにして上空へと移動を開始。
降りくるブロックを足場に曲芸的に駆け上がる。最後は羽を伸ばして上空待機。
続いて、地上に[結晶の檻]を成立させる準備を始める。
エノク等全てを捕らえるためのもの。[式]を上空より打ち込み始める。
不可視状態は続いている。

竜巻のようになって、黒のブロックがガイアーに体当たり攻撃をかける。
再上昇において螺旋状に寄り集まり高速回転しながらその先端が
ガイアーに襲いかかる(*)。
だがガイアーのシールドはすべての攻撃を受けきっていた。

攻撃は更に激しさを増す。凶暴と思えるほどの勢いとなってゆく。
分銅メッタ打ち等。
そして見よっ!、あのプラズマ放電の光輝が
ブロック間で迸り出しているではないか。

これを感知したガイアーはエノクを地上に残して急上昇する。
これを追って全てのブロックが上昇。前回のプラズマ放電爆発が空中にて発生する。
爆炎爆風の中にガイアーの無事な姿が浮かんでいた。

ブロックは一箇所に集まって空中低めにスフィンクスが再構成される。
「ストン・ストン・ストン」と嵌り、精密に組み立てられる。
琥珀の双眼にはオレンジ光が、口元には微笑みが保たれていた。

エノクは動けずにいた。所在を見失ったもう一体のスフィンクスが気になっていた。
イリヤは現在探知不能であること、またこの近辺に時空変動の予兆を報告する。
不規則に組みかえられて、何かが発現しようとしていると。

『ガイアー、障害を排除せよ!』

ガイアーの腕が挙がる。
無数の光子弾が煌めきを連れてスフィンクスへと押し寄せ、飛んでゆく。
攻撃はただ空を切るだけに終わる。黒のスフィンクスは蜃気楼の如く薄れて、
その存在を消していった。

「キイーィィインィンインィンイン…」

三度目の音が鳴り響いた。クリステインの地上に敷いた[式]が発動した。
この音と大地との間に共振が起こる。
巨大な六角水晶(シトリン)が大地より突き出てくる。
出鱈目に、やたらと生えいで、走るようにして伸びきる。
共振は鳴り止まず更にその発信源は増えてゆく。
そして間髪入れず、二次三次の新たな析出が始まっていた。
驚くべき速さでこれが累積されてゆく。
やがてはすべての空間が埋められ、全きシトリンの檻が完成されるのであろう。
琥珀が薄れてゆく。レモン・カラーが静かに空間に満ち溢れてゆく。
これが全き優勢となってゆく...。

黒のスフィンクスは再び、地上の騒乱を隠れ蓑に、上空遥かへと移動する。
入れ替わってクリステインは地上へと降下してきて所在を消した。
二体は、シトリン柱の咬合の合間を縫って交差し、新フォーメイションへと移行する。

イリヤが慌てて声を発する。

「ダメ…彼らはここ全体を次元の牢獄に変えて、貴方たちを封じ込める作戦で来てる。」
「この檻を破壊する手立てはないわ…」

エノクは、ただガイアーに指令を発する。

『ガイアー、突破せよ。』



巨人の眉間にある第三の目が開き、ここを中心に波動パルスが同心円状に広がってゆく。
これによって、式力の位相変換が行われる。すべての結束力は無効化された。
石晶の檻は一瞬にして砕け散り、光の微粒子と化して四散していった。

上空高くに黒のスフィンクスが旋回して舞っている。

『ガイアー、追撃だ。』

上昇と同時にガイアーの引力装置が作動している。
思わぬ事態の変転にゾフィーの心には隙が生まれていた。
ガイアーの接近を許し、牽引の力に捕まえられてしまう。
もう逃げることは叶わない。

この時エノクの足元が怪しく蠢き、
 そしてバイク諸共彼を飲み込んでしまっていた...。


〈暗転〉


Re: 無底へ

光なく時も何もない凍った空間。
エノクとクリスティン、ただ二人っきり。
至近距離で向き合った状態。
スフィンクスは小柄でエノクと同じ背丈となっている。*以下音声のみ...

「メタトロン、申し訳ありませんが貴方を封印させていただきました。」
「これは勤めてとして止むを得ぬ対応であったことご理解ください。」
「しばらくは御抵抗されませぬことをお願いします。」

『ここはどこだ。』

「メビウスの牢獄。次元を跨いで揺蕩い、時の狭間を彷徨う永久循環の輪の中。」

『これからどうなる?』

「お目にかけたきことがございます。」
「貴方がまだ知らぬこと。そして知っておくべきことです。」
「私がそこへとお連れ致します。」

『僕は地上に帰れるのか?』

「現在の状態を変えることは私にはもうできません。」
「でもご心配なされませんように。」
「直に元の地上では勝敗が決せられ、ゾフィーと私は同体となります。」
「そうなれば脱出も十分可能になります。」

『何処へ?』

「無底の底へ」

 そして...

「それがまさに出口を求めて噴き溢れんとするタクラマカン、そして狂気の山脈へと…。」



〈続〉



付録*: イメージ湧かすための参考資料。




あとがき:

*「ロデムって」引き摺り込んだ。
*毎度ながら細部で抜けがありますが、
 皆様の想像力に期待いたしておりマッスル所存でっスル。
*例えばゾフィーはあの時「なんちゃらかんちゃらギガ・ドぉリル」と
 叫んだとか叫ばなかったとかw。

*「書きたいなら書きゃ〜いいじゃない...。」
 「う〜」誰かのアホ名言が連想されるのだが思い出せん...。「あっRioだ!」。
 『抱きたかったら踊った後に抱けば..」ですね。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み