9.  エリミネイター起動。(E1)

文字数 5,334文字

月齢13




見上げた月はやたら大きく見える。馬鹿でかい。
黄金色(こがねいろ)(けぶ)ってて、なにか生々しい感じがする。
異様だ。あそこに、あの宇宙(そら)に浮かんでいる、あの月は!。

改めて自認する。
確かに…こいつは生きてやがる。
ルゥ〜ウーナッ。(*)

残り時は確実に削り取られていた…。 (*)


〈暗転〉

*1 間延びした重低音が微かに入る。「ドクン.....ドクン.....ドクン.....」。
*2 少し遅れて「カチコチ」音が重なる…。





Re: 改めて島の状況について。

現在、島のすべてはフィールドの影響下にある。
エノクの周囲5メートル圏内のみを例外として(そこいらだけ全くの正常運転)。
舞台上の構成はすべて”裏返”った!。

これまで背後から、結像(現実)を支えていた”力”が表へと溢れだしている。
所定の、規定の、維持すべき実相を保つことはもうできない。
いや「その仮象を」と言った方が今はいいかもしれないが。

素粒子レベルで密に構成されていた solid rigid な現実とやらは在らぬ彼方へと去って
しまった。プラクリティー、根本原質による創造(幻術)は根底から無効化されてしまって
いる。すべての実在は一旦棚上げ、一切の事象はエラーとしての不在と認識されてしまう。

結果、時間はその意義を、価値を失う。



すべては、まるで止まったかのような状態だ。
非現実の、あやふやな、仮の姿でッ、といったような状態となる。
要はデタラメを捲したて曝して居てもそれを屁とも思わない。

そんな感じ…。

まるで○○の創作態度の様ではないか~!。


〈暗転〉


Re: エノク。

一時間だ!これで方をつける。「ステルス!」の声と同時にフライヤーを飛び降り、
林の中へ。機は迅速に折り畳まれ、異形のオブジェと化す。同時に不可視となっていた。

今現在は丑三つ時…。














〈暗転〉



Re: 「ダウン・ダウン・ダウン」ひたすら 延々と 「ゴー・ダウン…」。


闇を縫うが如きの影一つ。
予め推奨されていたルートを駆け抜ける。
一瀉千里の勢いを、無呼吸で。

すべて下りだ。それも直線コース。
夜にも関わらず軽やかに舗石を踏んでゆく。
足音一つたてない…。





階段の終わりは左へのカーブ。スピードは落ちない。
完全に見えている…。




目の前に地下への入り口と思われる外構があった。
それは狭く埋没し、かつ自然石で巧みに隠されている。
おそらく先の道を辿らなければ見つけることは不可能だろう。

迷うことなく、エノクは中へと突入する。
疾風の如く…。



内部は分厚いモルタルで覆われている。頑丈にすぎるぐらいの構造だ。
壁面の荒々しさから戦前のものであるのは間違いはない。
おそらくは防空壕として設計されたのだろう。



深い立坑だ。地下の施設に通じる階段。これはまだ序の口にすぎない。
キツい傾斜をタラップを踏む様にして下りる。
足音一つたてず…。



握りしめたドアノブは何の抵抗も示さずに回る。
エノクも当然にダビデの鍵を持つ存在であるのだから。
古びた金属扉は何の音も立てず開く。

今度は中空階段が中に現れる。内の躯体は完全にコンクリート製のものになる。
やや近年の造りにはなるのだろう。

少し降りてはすぐに向きが変わる。螺旋の回転を経て下へと向かう。
四つのフロアを、四階を下りた。深みにまで達する構造物だ…。



いつしか足取りは穏やかなものになっている。疲れたからではない。
当然に余裕からでもない。張り詰めた緊張と注意力のなせる技だ。



静かに、ゆっくりと、気配なく、闇の中を進んでゆく。
まるで獲物を狙う野獣の如くにして…。



少し広々とした空間に出た。様子が急にがらりと変わる。

床はコールタールで真っ黒に塗られている。
漏れ入る光に照らされ、床はぬらぬらとした光沢を放つ。
侵入者の影だけを映す鏡…。




更に下へと続く階段…。



やけに幅がある。ここが奥深いものであることが察せられる。
延々と直線で下へと向かっている。

踊り場はあるがほぼ直滑降の道行きだ。地下駅の構内かと思われるほどの頑丈な造り。
よほど大切な何かを囲っているのだろう。これならば、核の数発喰らっても問題はなかろう…。

速やかに移動は再開される。影は流れて下段へと吸い込まれていゆく。
一気に目的地へと至らん…。既に終点は近い…。

天井に間延びした間隔で並ぶ照明が。通り過ぎる度に一つづつ消えてゆく。
省電センサーは、今…有効となっている…。



下りきった先は黒塗りのコンクリートの壁でふさがれていた。
行き止まりかと思われたが左隅に小さな扉がある。
不自然に過ぎる…。



中へ入ると極端に狭い通路。奥行きは左程ない。
再び古色蒼然とした造りとなっていた。



壁は石材ブロックで細かな意匠がされている。
上部にはアールを持たせた梁が…。
なにか石棺を思わせる…。

中に入ってから750進んだ。既に深度は3に近い。
残り時間 …。





奥にはぶ厚い金属扉だ。やけに時代がかっている。
金庫室のつもりでもいるのか?。

引き枠に触れればボルトは慌ただしく外れてゆく。
「ガチン・ガチン・ガチン・ガチン・ガチン・ガチン…」

物の見事に全本アンカーは解除される。
来訪者に、ダビデの鍵を持つものに恭順の意を示してくれたまで。

扉の向こうは、これまでと様相を一変する。モダーンを飛び越えて、
一挙に近未来的なものとなった。まるで宇宙船の中のよう…。

六角形の通路が伸びる。薄暗い照明下の一本道。
その出口の向こうには大層未来的な扉が見えている。

補強枠が物々しいにすぎる。
耐衝撃、防爆への配慮が尋常でないレベルで達成されている。
洗練された科学装置なのだ。既に。これは。

侵入者迎撃システム…。





狭っ苦しい通路だ。天井は低く頭がつきそう。
中に入れば薄暗い上に、圧迫感がすごい。
構造体のせいなのか恐ろしいほどにこれが感じられる。

だがエノクはなんら身を屈めることなく歩む。胸を張って。
空間量は必要十分。人の身丈に辛うじて足りてはいる…。

筋肉の動きはしなやかなままだ。硬直は一切認められない。
無念無想…。

窮地に向かっていってることは百も承知だった。
だがこれは既に幾百万回と繰り返され、へられてきた試練の一つにすぎない。
私はここでも再び死ぬことになるのだろう…。

息を潜めたかのような無音が、却って、ただただおそろしい…。





Re: そしてそれは突如始まる…。

正面、奥の出口が閉まってしまう。歩みを始めてすぐ、壁が迫り上がってきて塞がれた。
とっ同時に放電管からの放射が壁面において始まっている。なんらかの電力供給が
急速に行われている証しだ。それも膨大な量の電力が…。





狭い通路の様相は一瞬にして灼熱の溶鉱炉へと変わる。
既に紅蓮光と黒陰によるコントラストが強烈にすぎる。
どこもかしこも、闇と光とで溢れかえっていた。

同時に知らぬ間に不穏な唸り音が起こり高まってゆく。

「ブーン… ブゥーンンンゥン……ブゥウゥゥゥーンンンンン…

ノイズが、万匹の飛ぶハエのようにしてこれに混ざり込みだす。

「ジッツ ジージージジジー ジジジジージージージィジィジー

全てが混濁して反響が大きくなってゆく。
イオン臭が急速にキツくなった。溢れだして通路内を満たす。
だが熱はまだ一切発生していない…。




暗がりに据えられた無数のリングが光りながら揺らめいている。
今ならそれらの所在が、その意味が分かる。



蓄えられたエネルギーによって口径はビビッドな光源と化していた。
既に臨界点をむかえている。ルラン・ルラン・ルラルン・・





エノクは前方へと静かにゆっくりと歩きだす。退路はすでに封印されているはず。
速度を落として彼は何かぼそぼそ呟いていた…。

  In the name of YHWH.
    I will go absurd forever and ever.

そして時を迎えるべく立ち止まる。

その瞬間 !

間髪入れずしてレーザーの全砲門が一斉に火を吹いた!…。

















数限りない熱線がエノクを襲う。
無数の矢がその体を貫いていた。
眩い光が全身を捉えて離さない。








だが標的たる彼は動かず。立ち尽くしたままだ。
意識は焼け付く痛みで、瞬時に、どこか彼方へと飛んでしまっている。

その姿のままに、延々と照射は続けられる。
無数の非情なる刃が彼を突き刺しその体を侵食してゆく。
まるでネオン管でできた樹氷のようになった…。











全身が光と炎につつまれ燃えあがる。
だが立ち姿のままだ。立ったまま身じろぎ一つしない。




集中砲火によって光球が出現しだす。
狭い空間を駆け巡っている。
温度は優に数千度を超えていたのだから。
いくつものプラズマ球が舞っていた…。


対象の存在そのものを完全に抹消するべく出力は更に上げられてゆく。
あらゆる波長光が取り乱れて照射される。
徹底的に、その物性そのものを、根底から破壊するべく…。



終局、巨大な爆発がその空間内で引き起こっていた!!!…。




〈暗転〉

この時点をもってレーザー照射は止む。
残存エネルギーは使い尽くされてまったくのゼロ。空っぽ。
再充填は結界の影響によって不作動だった…。






Re: 三極共振。

熱線が彼のその身のすべてを刺し貫いていたのだ。
超高温によって肉体は無慈悲にあらゆる角度から蹂躙された。
火の粉が全身から吹きだし羽虫のように舞っていた…。

この渦中だ!。

天界の門より強力な光が放射されるのがみえた。(幻視)

とっ同時に、何か大いなるものが深淵より立ち上がる。
意識と入れ替わるようにして。そして、彼の

を掌握した。
彼の肉体、そしてマインドとは完全に隔たった存在だ。

自らが顕在化してきている。それ故にだ、焼き尽くされる業苦は、
さらに圧倒的に、信じられないほど激烈に、鮮明なるものへと成り代わる。
だがそれとなった以上、味わいの断絶は、尚更、絶対に、起こりえない。

すべてを十全に、同じく受け入れましょう。喜んで味わい尽くしましょう。
あなたの苦しみ、あなたが絶えることなく味わい続けておられるその苦しみの、
その百億の、数千億分の一、いや、その断片、破片、微粒子にすぎなくとも。
大いなる愛もてあなたが行われている、その永遠の御事業(みわざ)の前に…。

永遠の無時間と言うべきものが、ただそこに、横たわって、あった……。





自然と拳が天へと振りかざされる。その不動の姿のままで。
絶対的な拒絶の意志が、握り締められた拳で示される。




突如、頭上に飛ぶ鳥の陰をみた。
それは遥かな高みから高速で飛来してきた。
黄金の光を放ちながら…彼の元へと一直線に。




彼の頭上に、それは降りたもうたかのように見えた…。


〈暗転〉


遥か成層圏の彼方にて展開せる哨戒機メタトロン。




その艦内すべての領域において肯定のサインが鮮烈に瞬いていた…。





Yeaaaa, you are absolutely granted !!!



〈暗転〉





神聖なる力が、今ここに、干渉してきている。
幻視された炎の鳥は、このことの証にすぎない。
エノクと重なりあって一体とだった。

光が爆発的に通路内に満ち溢れる。それはあまりにも神々しい…。
光学兵器などとは比べ物にならない。まったく次元の違うものだ。




固く握られ翳された拳は、先と変わらぬまま。
その意志の健在を示すかのように、
渾身の力をもって、支え、
掲げられている。


Re: Re-generation, Re: Re-born, Re: Re-start.

闇の中に清く美しい青火がたった。
(ふく)よかにして(たお)やかなる炎。
静かに、明るく、だが大きく燃えている…。



彼の命の源に、再点火がなされていた。



見る間にその炎は大きくなってゆく。
そして彼方より更なる力が流入してきて、
激しく渦巻く炎の柱となっていった…。



物質の合成が始まっている。組織化は、すべて自発的に、なされるべきに従って
進行する。ここには誰の意志も干渉していない。
彼の魂の着衣として、最高最適なるものとならんとしたまで。
要は析出が支配的原理だった。



エノクは不思議な石膏像のようになっている。

焼け焦げた体表が瘡蓋(カサブタ)のようにして剥がれ落ちてゆく。
そして数秒を経ることもなく、すべて元のままの姿となったエノクが、
そこに立っていた…。





何事もなかったかのように熱気こもる通路を再び進んでゆく。
正面のシールド壁がゆっくりと下りてゆく。
彼を適合者と認めたかのように。

新たな扉が目前にあった…。





エノクが近づくと扉は音もたてずスライドして開いてゆく。

其はダビデの鍵を持つものであればこそ。

何人、何物たりとて、彼を止めおくは 敵はじ。


残り時間 ……


〈続く〉



補足:


Re: ダビデの鍵を持つもの…。

『もし彼、開き給へば、たれもこれを閉じるは叶はず。
 もし彼、閉じ給へらば、たれもこれを開くるは叶はじ。』

(黙示録3-7)

あなたに天の御国のかぎをあげます。
何でもあなたが地上でつなぐなら、 それは天においてもつながれており、
あなたが地上で解くなら、 それは天においても解かれます。 」
(マタイ16:16 – 20)

今回においては
ダビデの鍵を持つものの意味は、どんなドアでも開けれる。
いや違うか、死後に(向かう)世界の選択権を持つの意味か?…。

本来は入場資格の贈与権。




今回の内容は今の自分では準備不足。
畏れ多くて”逃げる”の回数が多すぎる。
スズメが啄ばむようにして改稿を続けている。
未だ出来は四割。
でも、もうやりたくないな〜。



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