2. 観察者

文字数 1,900文字




You are an inhabitant of gigantic aquarium.
In front of you, all and everything is clear and cold.
No one comes here to visit you.
No one else care about you.
No one can find you out.
Because your are “ Nobody from Nowhere ”.


〈暗転〉


僕は水族館に住んでいる。
いつの頃からなのかは忘れた。
というのか本当はそこんとこの記憶がないんだ。
気がついたらここに居たっていうのが正直な話。

仕事もしているんだよ。
記録係のようなもんなんだけど。
日々気づいたこと思ったことなんかを書きとめる。
ただこれだけ。
それを誰かに提出したりはない。
ノルマも別にあるって訳じゃない。
ただそうしなきゃって思ってやっているだけ。
そもそも変な話なんだけど、ここには僕しか居ないんだ。
他に誰も見かけたことがない…

ここのコンプレックスはすごく立派で複雑な構造だ。
外からの様子は分からないんだけど多分タンカーみたいなものなんじゃないかな。
何層もの造りになっているんだけでどエレベーターや階段はない。
各階はたくさんの長〜いスロープで互いに結ばれているだけ。
これも、どれがどの階につながるやつなのかが分からなくなる時がある。
まあ傾斜の加減で大体は分かるけどさ。
ここはまるで迷路のようにして作られた感じがある。
曲線、曲面が多用されている。
よくもまあこんなのがデザインできたなーって時々思うよ。

どこへ行ってもそこには水槽がある。
それもバカでかいやつばかり。
いろんな世界が拝見できる。

こちらとあちらを分かつのはガラスの壁。
もう特大の大きささ。
厚みも相当あるんだろうな〜。
水と一体化しててこちらはまったく意識することはない。
これも平面であったり曲面であったり色々ある。

館内は照明は落とされているが水槽の中は非常に明るい。
メタルハライドランプが何列も並んで天井に吊るされている。
これの採用は僕の仕事の為だったのかも知れない。
万事が本当、クリアーに見ることができる。
毎日すべての水槽を見て回る。
これが僕の仕事。
とても気に入っている。
見詰めているだけで世界はあまりに美しい。
見惚れてしまう。
これもあちらとこちらの境界がハッキリと分かたれている所為なのさ。
僕はだだの傍観者でいられる。
無関係者でいられる……

〈暗転〉

ある日の午後のことだった…
壁面にあるビーコンの点灯を目で確認する。
どうやら訪問者のようだ。
珍しいこともあるものだ。
僕はロビーで記録を整理していたところだった。
すぐに一人の女性が現れた。
彼女は何ら迷うことなく僕の対面に座った。
マーブルのテーブルは広々としていてただでかい。
すぐに僕の小指に稲妻にも似た警報のシグナルが走る。

「お前は誰だ?」「ここは何人たりと立ち入ることが敵わぬ場所だぞ!!!。」

『あなたはいつまでこんなところで油を売っている気?』

女は私の詰問などまったく意に介しなかった。更に言葉を続けるばかり。

『観察者よ!』『昨年今年と幾つの台風が福島を通ったかしら?』

何の話なのか分からなかった。

『あれは不慮の、予定外の出来事だったのよ!』

『大地は今も悲鳴をあげて苦しんでいるわ。』

『焼け石に水だと分かっていてもせめてもの慈悲として”主”は裁可をして下さっている。』

『あの棘を抜くことは誰にもできない。』

どうやら常識を越えた話のようだ。ならば彼女がここにいることにも合点がいく...。

女はさらに言葉を続けた。

『南極大陸に関しての情報がリークされだしている。』

『やがてはタクラマカンにおいてもかも知れない…』

『観察者よ』

『ゼロからもう一度情報を精査しなおしてみなさい!』

これだけ言い残して、女はスックと立ち上がり足早に去っていった。

茫然と一人、私は取り残される。ことは ”この世界” の話だけではないと?
主の名を上げた。そして特定の地域の名を三つ。告げ知らせるようにしてあげた。

しかし何よりショックだったのは、彼女が易々とここに来れたことだ。
あり得ないことなのだ。
何故ならここは

なのだから…


〈続く〉

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