1. ネフィリムII 

文字数 4,726文字

副題: その災禍の起源。

オープニング。*音楽がメイン。

OP: Coventry (4:51), from HYBRID KIDS, by Morgan Fisher。
https://www.youtube.com/watch?v=l3lftvsgnzw

曲中の間奏部分で、以下が早口のナレーションで読み上げられる。

  ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
  「 ふりかえり 」
  ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

  「土工なるモノは惑星の原始的環境を改質/整備する目的として造りだされた。
  強靭なる身体構造と超常の力を兼ね備えもつ。
   冥王代の地球に『天』の指揮のもと大挙飛来してきた。
   銀河全体としては、その数、無量大数。
   ただし!すべてが使い捨て。” ワンス・スルー”としての存在であった。」

  ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 「200の天使がヘルモンにて共同の誓約を交わした。
   皆が同じく罪を犯すことに約束し合った。
   ヒトの娘との目合いにて子を成した。
   生まれた子らは総勢1,000にのぼった。
   ギバーリームが200に、ネフィリムが800。」
  (ネフィリムは[土工]の肉体に寄生する「天使/ヒト」によってなされた混血児。)

  ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

*Coventry の意味は、追放されたり、村八分にされたりすること。
(一般的な合意のもとに社会から排除されること)(奇形児においてが含意されている。)

*最後の方のギターによるコード・カッティングによる盛り上がりが素晴らしい。


〈暗転〉


Re: 居住地に連れ帰られた最初のネフィリム。

野営地の近くで天使はコレとともに地上に降り立った。
時は真昼時。広々とした豊かな草原地帯。
辺りにヒトの気配はない。

燦然と輝く陽光の下、美麗なる天使と並び立っていたのは巨躯にして怪異。
その造形は、あまりに禍々しく、グロテスクに過ぎる。真に忌むべきモノの形でしかなかった。
天使は形態の整えがさらに必要であることを心話で伝え、ヒトに似た姿へと変えさせてゆく。
「バキッ!」「ボキッ!」と、気色の悪い音をさせながら変容が進んでゆく…。
巨躯たるは変えられなかったが、姿見はかなりにヒト近いと言えるものにはなっていた。

天使は少し歩いてみようと伝える。ソレは、大きくゆっくりと一度頷いていた。
歩み、動き、すべての動作が精緻機械のように滑らかだった。
きわどさを感じさせる様子は一部もない。走らせてみても同じである。
桁外れの荷重を担っているはずなのだが、そのことをまったく感じさせない。
逆に、余計不気味だった。超常の不遇としての、浮いた存在でしかないのに!。
そう言えば、飛行能力も天使のと変わりがなかった。
最速のスピードで長時間飛んだにも関わらず何ら音をあげなかった。
身体能力に関しては天使をも超えるものであるかも知れない。
父たる天使は、ことの落ち着きに取り敢えず安堵する。
これならば、ヒトらの中に居たとしても問題なかろうと。
ただ、気になることが一つあった。
コレには目が一つしかなかったことだ。
それの虹彩は、金色に陽炎だって燻って見せる。
真実、これだけが神々しいと感じさせるところだ。
これだけが子の出自の高貴さの証であった。

〈暗転〉


Re: 不調和により引き起こされし災禍。

「土台無理だったのだ…。」霊妙なる魂が収まるにしては、土工は『器』としてあまりにそぐわない
モノだった。生命活動とは意識の働きだと言っていい。この意識にとって印象の取り込みは、体にとって
の食物の摂取にも等しい。ある意味、意識にとって、印象とは食べ物よりも大切な存在なのである。
ましてや、それは天使クラスである。その感受性のキャパは規格外である。遥か彼方の星辰の移ろいでさえ、彼らにとっては吹く風の如く、快く、趣深いものたり得る。永遠の源泉から放射される聖なる振動を
感受することによって、その存在は支えられねばならなかった。これが断たれてしまっていたのだ!。

土工の〈センシング〉は、あくまで粗暴にして粗雑なる物質次元に限られていた。それが如何に精度の高いものであっても、その魂の感受性にしてみれば、本然ならざる不自然でしかなかった。例えてみるならば、無色調の無彩色の世界、酸素を含まない大気、物質循環のない自然、生態系の存在しない惑星。こう言った環境にもし人間が投げ出されたならば、即座の錯乱、即座の自死をもたらすのは確実な話であろう。

彼を生かしめたのは生来の精神力による。
ただし、責め苛まれるにも似た精神の不調和が常態として彼の心には付きまとう。
子には、この気分の悪さが、どこから何故起こるのか分からなかった…。

絶えず彼に付きまとうのは「飢え」である。これに身悶えするが突如起こってきてしまう。
これは食物では満たしきれない類のものであった。本来土工に食事は必要ない。
何をもってこの飢えが満足させ得るのか、子にも、父たる天使にも、分からなかった…。

夜間の星々の輝きに、本能的な記憶が呼び起こされる。
中天に輝ける銀盤に、心はひどく掻き乱されてしまう。
昼間の燦然たる光輪に、影を探り見てしまってか、突如畏れが込み上げてくる。

直感として違わないであろうことが一つ彼にはあった。
『王国への帰還は叶わない。』
これは父たる天使にとっても同じ話しであった…。


〈暗転〉


Re: 災禍。

子の飢えはある時、偶然に満たされることになった。
ヒトの命の明け渡しによって、飢えが収まることを子は知ることとなる…。

不調はやがて乱調へと、そして錯乱へと、突き進んでいった。
丁度この時に天使がいなかったことが引き金になったのかもしれない。
貯蔵庫を叩き壊し、中にあるもの一切を平らげた。苦しみを収めたいが一心で。
しかし、喰っても喰っても彼の飢えは収まらなかった。

彼の衝動的な振る舞いによって、他のネフィリムも刺激されてしまう。十数体のネフィリムが、狂ったかのような振る舞いを始めてしまっていた。皆、彼と同じく、神経の乱調からくる苛立ちに、そして正体不明の飢餓に同じく苦しんでいたのだ。やがて、ネフィリム達はお互いを傷つけ合うことを始める。最初はたどたどしいまでの仕草であったが、だんだんと激しさを増し、やがては容赦ないものへと変わっていた。

徹底的な攻撃、渾身の力もての破壊の様相となってゆく。まるで自身の存在自体を呪うかの如く。
やがて、彼らの形態が変化していた。それは土工本来の造形でしかなかったのだが…。

ヒトの言からすれば、角を生やした悪鬼などと語られようが、いやいやそんなもんでは無い…。

甲殻類、軟体類、節足類をデタラメに取り混ぜたような形態である。
おまけに巨体だ。どれもその丈は五、六メートルを優に越えてあった。
「バリバリ」「ボリボリ」お互いを噛み砕き、その肉片を貪りあっているではないか…。
胸のシャッターが縦に開いている。いやらしい触手が伸びては掴んで引きずり寄せる。
岩盤を砕き飲み込むための「ギヤ」が歯の如く並び、高速で回転していた。
丸呑みにされたもの。喰い散らかされたもの。延々とのたうち回り、狂った機械のようになったもの。
大地は得体の知れない体液で塗れて、ぬらぬらと陽に照り映えている…。

眼球一つに八枚の翼を生やした巨人が殊の外強かった。ほとんどのネフィリム達はこれによって引き裂かれ動かなくなってしまったのだから。強き翼。最初の子である。

彼はヒトも凶事の餌食とした。事後に見境なく襲っては破壊していた。殆どの人々は恐ろしさのあまり遠にバラバラに散って逃げていった。だが、高い屋舎の中へと逃げたものたちがいた。彼は、これを見逃さなかった。固まって数人がいる事に感応し自動的に這い寄っていった。老若男女がおり、一部が更に高所へと避難場所を求める。

悪夢の如きシーンがあった。屋根に逃げ登った数人と彼が見つめ合っているのだ。
その距離は、近過ぎると言える程のものだった。両者は凍ったかの如く動かない…動けない。

突如、彼の体の正面が縦に大きく裂けて開いた。彼がそうした訳ではない。勝手に開いたまで。
毒々しい色の無数の触手が居並んでいるのが中に見えた。
まるで「おいでおいで」をするかの如くたなびいている。

一人の娘が、祈るかのポーズで、極彩色の花弁の群へと飛び込んでいった。
その間際の表情には絶対者に対する諦観と憧憬、そしれ恍惚たる思いが浮かんで見えた。

『あなた様に、この私を捧げます。』

娘は見る間に触手に取り込まれて見えなくなっていた。

この後に、彼の狂乱は収まる。全くの正気に返り、ただ怯えるばかりの存在と化していた。

娘は死んだわけではない。彼の内にて生きていることは生きている。
ただし、肉体は失われ、魂だけの存在となってだが。
彼の内にてある虚ろな魂。緩やかに、ただ分解してゆく、消失してゆくだけの娘の魂。
これが何故そうなったのかは分からない。ただ彼の飢えを満たす役割を確かに果たしていた。
これも、ほん一時だけの話ではあるが...。

〈続〉


ED: Nature Boy, by Nat king cole, (2:46)
https://www.youtube.com/watch?v=Iq0XJCJ1Srw

There was a boy
一人の少年がいました。
A very strange enchanted boy
とても奇妙で神秘的な少年
They say he wandered very far, very far Over land and sea
彼が遠く遠く、陸と海を越えて、あまりに遠くを彷徨ってきたのだと人々は語ります。
A little shy and sad of eye
少し恥ずかしがり屋で悲しそうな目をしていた。
But very wise was he
しかし、彼はとても賢い少年だった。
And then one day
そしてある日
A magic day he passed my way
その奇跡の日に、彼は私の前を横切ったのだ!
And while we spoke of many things Fools and kings
そして私たちが、馬鹿どもと王らについて、数多の話をしていた時に
This he said to me
彼が私に言ったことがある
The greatest thing you'll ever learn
あなたが学ぶであろうことの内で、最も素晴らしいこととなるのは
Is just to love and be loved in return
ただ愛し、そして愛され返されることです。
The greatest thing you'll ever learn
あなたが学ぶであろうことの内で、最も素晴らしいことは
Is just to love and be loved in return
ただ愛し、そして愛し返されることなのです。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み