3.  結界の中で

文字数 7,042文字

Re: 四次元監視モニター(クロノバイザー)

表示装置は、エメラルドの縁で象られた液晶の円盤である。
九つの水晶がその外周に埋め込まれていた。
3と6と9の位置のものは少し大きい。

詳細としては〈シトリン〉が9の位置に〈ルチル〉が3に、そして〈トパーズ〉が6にである。
*これらは黄金色が基調であるのが特徴。正三角形がハッキリとした輝線で描きだされている。

また、1,2,4,5,7,8 の位置には、順に、〈ペリドット〉(緑),〈アメトリン〉(赤),〈アンバー〉(橙),〈アクアマリン〉(青),〈アメジスト〉(紫)、そして〈フローライト〉(茶)が嵌め込まれていた。

モニタの左右どちらにも、細かなメモリの付いたノブが縦に七つ並んでいた。
回すと、「カチカチ」と金属の溝が噛み合う音がする。
座標確定後の、跳躍経路を設定するためのものらしい。

制御システムの起動を行う。
水晶の発光を合図として、1→4,→2,→8,→5,→7の順で光の直線運動が始まる。
〈エニアグラム〉として知られる図形が盤上に映しだされていた。

『現在』を確定し、向かうべきをヘルモン山頂とした。
しかし、システムは「不可」との応答を返してきた。
おかしなこともあるものだと思い、理由を質すると、
「現在その領域は〈Nul&Void〉」「座標確定不能」との答えが返ってきた。

ふむ…ならば『その境界近くを』と指示すると「Granted」のサインが閃いた。

『では、我が同胞(はらから)に久しぶりに会いに行くとしよう』と男は呟く。

そして移動は、瞬時に行われていた…。



〈暗転〉



補記:別途、カバラにおける〈生命の樹〉が垂直に表され、上下移動、三柱の入れ替え等が投影される。これら2種の図形を重ねて利用することで、スフィンクスの時空間座標を操る能力が操作される。「ヒット」(有効)においては各ポイント/柱に光芒、光輝の発現が起こる。






Re: Qasr Antar

ヘルモンの山頂(海抜2,814㍍)から数百メートル下ったところに「カスル・アンタル」( Qasr Antar )と呼ばれる遺跡がある。石で造られた楕円形の基礎の上に、屋根なしの長方形の建物が残っている。ここは古代世界において最高度に位置する寺院だったらしい。ローマン・スタイルの複数の寺院の跡で、周辺には石のブロックが広く点在する。更には「なんでまたこんなところにっ?ってな具合に、山をぐるり取り囲んでいたとおぼしき巨大な壁の残骸が残されている。みんな硬い岩盤仕立てで、彫り物もされている。遺跡の全体デザインから考えると何らかの意味が込められていたことが推察される。どうやら「神に近づける」ためのもの(仕組み)だったらしい。基礎の北西の位置から見つかった石碑(石灰岩)が大英博物館に所蔵されている。

そこに刻まれていた碑文は:

「最も偉大にして聖なる〈神〉の命により誓いを立てんとするモノは、ここに立て」

"According to the command of the greatest and Holy God,
 those who take an oath (proceed) from here.


四日目の夜明けの頃に、エノクはここ「カスル・アンタル」に辿り着いた。
長きに渡る情報の精査の果てに、〈ネフィリム〉の存在が直感として浮かび上がっていた。
更に、現在の彼らにとっての「器」が、ヒトの妄想としての”夢”によって生み出されている
ことも…。


Re: 沈思黙考。

不気味にして不健全なる感触…それに囲われてある存在が意識に浮かび上がってきた。
憐憫をともなう味わいが彼らに覚えられて長くこころに残る。哀れに過ぎる…。
障ってくる嫌悪に対して許し難しとの怒りの感情が沸き起こる。
不遇なる堕ちたる魂を悪用する、モノの存在とその意志を見てとっていた…。

現在、ヒトの世では、夢の世界構築が仮想空間において加速度的に進行していってる。
現実の敷居を跨いで、乗り越えて、その関与は遠く広く深まって、
もはやその展望に果てはない。

富の偏りが、未だ勝手ないほどに迅速に巨大なスケールで起こってしまっている。
仕組みが完成されてしまてっている。もう誰も覆せない。

関係者たちは全く分かっていないことが不気味だ。
自分たちが何を熱心に行なっているのかが。
否、何に、何故に、どうしてかくも熱狂しているのかが…。

成功、名誉、そして利益。その為ならなんでもやるが、道を誤らせたのだ。
他人との社会的な立場地位の優劣、見かけの差異でしか自己を確立することができない。
自然にあるがままの自己から阻まれて、自分が何であるかが全く分からなくなった…。

そして、ヒトの意識に影響するものならなんでも取り込んでやろうが、禁忌を開いた。
生の実感が失われて、それと同時に世界内時間も失われてしまった。
なんでもいいから刺激を与えてくれるものへと飛びつき始めた。
今の先進国の人々にとっては暇で暇でしょうがないが最も辛いことになっている。

これには、そうなるように誘導した状況を加速した存在が関わっている。

また強力な組織が、母体が、幾つも形成され、大勢のヒトを取り込んでしまっている。
一つは国々を超えて、なんたることがキリスト教の仮面までをも被っているではないか!。
〈バビロンの大淫婦〉との言葉が頭を(よぎ)っていた。

『自然なる』の有用性が分からなくなってしまったのだ…。
ただ退屈/倦怠/閉塞に耐えきれずに、用意された滅びの門へと
雪崩を打つが如くに、大挙して突き進んでゆく。

ヘタな刺激、不健全なロマン、儚い夢と分かっていても、そうせずにはいられない。
聖なるものに接してこそ始めて湧き起こる感情感覚が失われてしまったから。
世界は、最初から宇宙と一体化してあり、生存の実感はその確認でしかないのに…。

聖文は、教えられ記憶させるものだけのものへと成り下がってしまっている。
そこには理解という重要性はまったく見られない。
結果、ヒトらは、この世での本当の義務たるを忘れ去ってしまったのだ。

[器]としての安定、強化、美化、差別化、支配力の強化、覇権、それの絶対化絵 etc。
この傾向性しか、今の人々の生存には、見当たらない。
不毛なる根拠なき目的に向けてのドライブがすべてなのだ…。
そしてとうとう、肉の器そのものまでをも強制的に強化、進化させようとしている…。


〈暗転〉






カスル・アンタルの石舞台に一人の男がいた。
白い石材の上に腕を組み、(また足も組んで)、うつむき加減に座っている。
彼はエノクを待っていた。

「昇る朝日を引き連れて、神の化身がやってきたわけだ。」

美しい白顔の男は婉然な笑みを浮かべながら声をかけてきた。
よく通る穏やかにして権威ある声の持ち主だった
エノクは、遠く既にその存在には気づいていた。彼が只ならぬ存在であることを。

朝日に照らされ、辺りはこれ以上清くはなれないほどに、照り映えている。
エノクは、男がすわるところ、そのすぐ近くまで来て歩みを止めた。
そして、静かだが厳しい眼差しで男の顔を真正面から見つめていた。
眉根に、紛うことなき「狂」による曇りを、
また口元には、引きつった笑いを印象深く捉える。

  『お前はどこから来たのだ?』まずエノクが声をかけた。

「なんだい、藪から棒に、ヨブ記から始めるつもりかい?」

にこやかに微笑みながらも、その眼差しには得体の知れない怖ろしさが感じられた。
恐るべき波動が感じられていた…。

  『ご大層なことだな…貴方が直々に現れるなんて。』

沸き起こる動揺を噛み殺しながら、エノクは尚も見下ろしながらでなんとか彼に言葉を返す。

「メタトロンとなりし者が、その権能の全てを脱ぎ捨てて、
 再び大地に降り立ったのだから出向かぬ訳にもいくまい?」

「今の世界は、君の目にはどう映るのだろうか?」

「神となりしヒトの目からすれば?」


  『地球は煉獄としてある』『未だ、それ以上でもそれ以下でもない』


「それの成果ってのはどうだい?」

三白眼が見開かられ、
 口元の引き攣りが一層鋭角を強められていた。

  『退けサタン!!!』エノクはハッキリと厳しい言葉で大声で発していた。

しかし男は聞こえぬ風で、やおら落ち着きはらった顔つきで違う話をしだした。

「少し前に、お仲間が大層な芝居をおっぱじめたのを知っているかい?。」
「その所為で、世間は騒がしくなっている」
「これは、そっちのミスリードじゃないかな?」

タイタン撃破の様子が脳裏に確認されていた。

「謎の巨人兵器の登場。」
「これはこれで、面白いじゃないか。」
「疑心暗鬼で諸国列島は、早戦争かと色めき立ち始めている。」
「これに乗らない手はないと

としては考える。」
「本物の巨人達ならいくらでも当てがあるんだから。」
「それも機械仕掛けなんかじゃない本当の命宿る格別な奴らをだ!」
「煉獄における余興ってのを一つ二つは余計に増やせることになるだろう。」

語られたことの意味するところがイメージとして伝わる。
それは国家間の紛争に等しい内容のものだった。
しかし、旧来の区分けに基づくものだけでない。
特別な観念の共有に基づいたグループ、それも国家を跨いで連携を取るセクト
が引き起こす騒乱としての色合いが強かった。
聖戦の名を声高に連呼するのが空耳として聞こえいた。

「ザッ」とばかりに男は岩より飛び降りた。そして足早に高地を降りてゆく。

ふと立ち止まり、振り向いてエノクに問いを発する。

「日ノ本の国は知っているか?」
「あそこでは、私は〈飛鳥了〉なる名が与えられてしまった」
「今じゃあ世界中、こちらの方が通りがよくなってしまった」
「次は、あの国へ行ってみるがいい」
「運が良ければ、〈無底〉からの代理人に会うことができる」
「彼は現在あそこにいるからね」

エノクは、〈無底〉...その語の背後にあるものを思う。
現在も、それの呪いに蹂躙され続けているであろうこの堕天使に掛ける言葉は、
もう何も浮かんで来なかった。


  『我は、我たれと欲せられし存在』こう唱え、神にクルスを切っていた。


すると、辺りの石材が "Granted" を告げるが如くに、
   一瞬、眩く白光し、直ぐに元の姿へと返っていった…。




〈続〉




補足:

カスル(Qasr)は、宮殿/城/要塞。
アンタル(Antar)は、固有名詞もしくは蠍座のアンタレス?。
ところで、ヘルモンの語源は、アラビア語の「al-haram」(意味:sacred enclosure) と
関連すると言われている。つまりは〈聖なる結界〉ということになる。



付録:エノク書、15と19章より

〈15〉

"But now the giants who are born from the (union of) the spirits and the flesh shall be called evil spirits upon the earth, because their dwelling shall be upon the earth and inside the earth. Evil spirits have come out of their bodies. Because from the day that they were created from the holy ones they became the Watchers ; their first origin is the spiritual foundation. They will become evil upon the earth and shall be called evil spirits. The dwelling of the spiritual beings of heaven is heaven; but the dwelling of the spirits of the earth, which are born upon the earth, is in the earth.

The spirits of the giants oppress each other, they will corrupt, fall, be excited, and fall upon the earth, and cause sorrow. They eat no food, nor become thirsty, nor find obstacles. And these spirits shall rise up against the children of the people and against the women, because they have proceeded forth (from them).

別バージョン
9. The spirits of the giants shall he like clouds,
which shall oppress, corrupt, fall, contend, and bruise upon earth.
10. They shall cause lamentation. No food shall they eat ; and they shall be thirsty ; they shall be concealed, and shall not^ rise up against the sons of men, and against women; for they come forth
during the days of slaughter and destruction.


しかし今は、霊と肉の結合から生まれた巨人は、
地上において〈悪霊〉と呼ばれるべきであろう。
なぜなら彼らの住まいは、地上と地球の内部にあるのだから。
多くの悪霊が、彼らの体から出てきた。

なぜなら...彼らが、聖なるものたちから造られた、その日から彼らは〈見張るもの〉と
呼ばれるものとなった。 彼らの第一起源は霊的な基盤にある。この地球上においては、
彼らは悪となり、悪霊と呼ばれるものになってしまう。 天の霊的存在の住まいは天国である。
しかし、この地球に住まいする霊的存在は、それも地上で生まれたものであれば、
ここが存在の基盤となる。

巨人の霊は、お互いを迫害しあう。彼らは腐敗する。落下し、興奮し、そして地上に倒れ伏し、そして悲しみの原因となる。 彼らは食べ物を食べたはしない。のどが渇くこともない。障害たるものは何も見当たらない。そしてこれらの悪霊は、ヒトの子供等に、そして女たちに対して、乱暴をするようになる。何故なら、彼らはそうして(彼らから)進歩してきたからである。

別バージョン

9.巨人の霊は雲のよう大きい。
それは、大地において、迫害/堕落/転倒を引き起こし、そして傷つける。

10. 彼らはヒトの嘆きの原因となる。彼らに食べ物はいらない。そして彼らは渇く。
彼らは覆い隠される。彼らはヒトの息子達にそして女達に立ち向かってはならない
*(多分しませんようにだろな)。彼らは虐殺と破壊の日々の間に現れてくる。

〈19〉

"Here shall stand in many different appearances the spirits of the angels which have united themselves with women. They have defiled the people and will lead them into error so that they will offer sacrifices to the demons as unto God s, until the great day of judgment in which they shall be judged till they are finished."

「ここに、沢山の見かけが異なる天使の霊が立っている。彼らは女達とまぐわったのだ。
 彼らは人々を汚して彼らを誤った方へと導いた。結果、彼らは神の為と言って、
 悪霊に捧げものをするるようになった。大いなる裁きが彼らに臨むその日まで。
 つまりは彼らが終わらされるその日まで。(これは続けられるのだ)」


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