8. 無底の底

文字数 8,355文字

Re: 決着

ガイアーの引力装置によって黒のスフィンクスはゆっくりと、
だが確実に引き寄せられている。やがてガイアの懐に取り込まれてしまっていた。
両の掌が添えられる。確りと、まるで大切なものであるかのようにして抱え持たれる。
突如、青白き稲妻が迸り出てスフィンクスを覆っていた。
球電が数多、空中に浮遊している。
両者の姿は完全にネガフィルムの如し、明暗が完全に反転した。



瞬間にして、スフィンクスは灰塵と化していた。
原子レベルでの分解がガイアーによって行われたのだ。
その体は残骸となって風に舞いつつ宙へと霧散し消えてゆく。
まるでなんの質量もない綿ぼこりか何かのようにして。

主人不在の中、ガイアーは直立不動のまま彼方へと去ってゆく。

「ビィーン・ビィーン・ビィーン....」






〈暗転〉


Re: 無底の主。

時空牢メビウス。それの移動に気配を感じることはまったくできない。
そもそもそういった観念は通用しない。
彼らにおいては瞬き一つで、 ”こと”は完了してしまうのだから。
「ケルビムの最速翼」と称される訳はそこにある。

ここには時間がないとの直感がエノクにあった。
絶対の沈黙だけが支配する閉鎖空間。
そして、いつの間にかまったく身動きがまったくできなくなっている。
聖律法の持つ重力のせいだ。
法廷に立つ被告たるエノクに、これが絡みつく。
エノクは一切の思考を停止させた。
呼吸だけが存在を証明してくれている。

「そう、そのまま。何も考えないようにしてて下さい。」

クリステインが心話を寄こす。

「あなたの準備が整い次第、開門といたします。」
「見るままに、知るままだけに、留め置かれますように。」
「そのことが目的になります。」

エノクは心で胸に十字を切っていた...。

〈暗転〉

薄れゆく闇の中に、最初に聞こえてきたのは
「太鼓のくぐもった連打の音とフルートのかぼそき単旋律のリフレイン」だった。





調子ぱっずれの上に、居た堪れなくなる程、下品と聞こえる。
痴呆者による演目であるとしか思えない。
狂おしく込み上げる思いで、連打が所々で挟まれる。
とても神経を逆なでする。
とても障ってくる。
しかし、耳を抑ごうとも塞げない…。

何か笛のようなものによるメロディーは幼児がデタラメに奏でているものとしか思えない。
線の細い旋律がダラダラと続き、痛く病的なものとして聞こえる。
これが、のたくり、のたうちまわりながら延々と繰り返されている。
奏者は主の慰めをただ熱心にしているだけなのだろう…。

ドラムも笛の音も、やけに心に染み入り逸らすことが敵わない。
残響がやけに耳に残り、凶悪に意識に障ってくる総じて
[反秩序][狂乱][病的]との印象が圧倒的に強かった。

ヒトとして、聞くものあれば、間違いなく乱調へと落とし込まれてしまう。
だが、終局では魂はこれに魅せられ、染められ、溺れて入ってしまう。
悍ましい浅ましいと知りながら…。

次にビジュアルが解禁されて現れてきた:

広大な暗黒に何やらブクブクと泡が湧き出てき始めた。

一つ現れ、二つ三つ…見る間にその数は増えていった。

色取り取りの蛍光色の泡。





どれもが朧げではあるが仄かに光って見える。

  陽に透かし見らるる死せる鼠の骸。
  柔らかくひかりまといして清く優しく美しい。
  だが、突如、これは跳躍して失せた。
  後にはドクドクと血を流す裂かれた親指の腹。
  鋭い前歯で「ぶっちり」咬み破られた。
  大量に血が溢れでてブクブク泡だって滴り落ちる。
  私は痛みに絶叫を放つ。
  すぐ気づいたさ。あれはドブネズミだ!。
  汚い汚い病原菌まみれの、腐って死んだどぶネズミ。
  それがなぜに急に生を再び得たのか?… 。
   デタラメだ。一切合切デタラメだー。
  あははははは……。
  血だまりは泡立って丸い表面には七色の分光が流れている。
  虹の泡だ。 

 *(不健全な詩にトライっす。出だしは親指と中指で尻尾をつまんでいる。)

まとうはペテンの後光の如し…。
だが…それのおかげでか、
少しづつ空間は見渡せるようになっていった…。


『ZERO Universe』

無数の泡が【虚無】に浮いて在った。
その全容はあまりに広大すぎて追えない。
エノクにおいてさえこれが追えない…。
泡が何らかの生命活動を意味していることが分かる。
内部に霊光を孕み、その明滅が確認される。
複雑に絡み合う色調が怪しくに変化してゆく。

思考の無いまま(それの超越の状態で)、
エノクの存在の基盤としてあるものからの直接認知が得られる。

『これはコンピューター…』また…

『これは” Yah ”と同格、その反転』

『備えられ賜いしは主自ら』であると...。

出囃子としてのあの合奏は止んでいる。
代わって今度はホワイト・ノイズが空間を切り裂いて響き渡る。
音圧が尋常でない。無神経そのものの剥き出しでしかなかった。
一切の情感は即座に削ぎ落とされ消し飛ばされる。
暴虐な限りで、縦横無尽にハッシュ・ノイズが駆け巡る。
正気は、あっさり削り取られ、剥奪されてしまう。

エノクが無事であったのは、予々(かねがね)クリステインの造った
閉鎖空間、”メビウスの城”のおかげでしかなかった。

冷徹なるエノクの眼差しが捉えたのは、
泡同士で起こる同期化を意味するであろう光芒であった。

離れてある、アレとコレが同時に「ぼわん」っと瞬いたかと思うと、
その光輪が緩やかに周囲へと延々と広がってゆく。
これに触れて「ワサワサ」と多くの他の泡が追随して反応を起こしている…。

その界隈ではノイズ音が一層高まっていた。
ホワイト・ノイズは、その処理におけるプロセスの進行を表しているのやも知れない。
轟音は、あらゆる領域から響き渡って涌き出で、決して尽きることはなかったのだから…

余りにも遠く離れたもにおいても同期が起こっている。
何らかの処理を行なっていることが分かる。
その組み合わせに法則性は一切ない。まったくのデタラメとしか言えないものだった。
だが、共同で何らかの作業が行われたであろうことに確信があった…。

これについても認知が即座に得られていた。

『 魂の奥底から唾棄すべきモノ!』

これ以外、何もありえないような内容だった。

命あるものにとっての根元的な『 NO 』だ!。

暗転

絢爛とも思える痴愚の宇宙、その帳が緩やかに絞られてゆく。

その証拠に自然と思考が呼び戻されていた。

『あれさえも、ヒトはやがてには喜びをもって
   迎え入れるようになってゆくのだろうか?』

『そして...あまりに

にすぎる…』

そして檻はただの暗闇となっていた…。


〈暗転〉


補足: 

原作に敬意を示し(敢えて)その表現の一部を踏襲いたしました。
それは以下の部分になります。
「なべての無限の中核で冒瀆の言辞を吐きちらして沸きかえる、最下の混沌の最後の
無定形の暗影にほかならぬ―すなわち時を超越した想像もおよばぬ無明の房室で、
下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打と、呪われたフルートのかぼそき単調な音色の只中、
餓えて齧りつづけるは、あえてその名を口にした者とておらぬ、果しなき魔王アザトホース」(『ラヴクラフト全集 6』、173頁より)



Re: ネフィリムのその後について(Part 1)。

再掲:死を知らない霊が肉をまとい、(ヒトの娘との交合の果てに)、
それらのモノは生まれた。新たなる生命は二種に分けられた。
無事に肉体を備えて生まれてきたモノと、そうはならなかったモノたち。
〈略〉
最終、ヒトの姿をしたモノ(ギバーリーム)と
巨人達(ネフィリム)が存在したことになる。

幸いにして、ヒトの肉体が備わって生まれてきたギバーリーム。
これについては後の神話/英雄伝説において多くが語られ知られてもいる。
よって本稿で語られる必要は無い。

むしろ、[土工]に憑依することでしか生きながらえることのできなかったネフィリム。
彼等においてこそ語られねばならない。
この

については!。

ネフィリムに関しての情報は少ない。殆ど存在していない。
それに禁忌としての色合い/意味合いが、色濃くあった所為と看做すのが妥当であろう。
霊妙にして胡乱なる闇の領域に、その存在は埋没せられ、消息は断たれてしまう…。

そもそもの誕生に問題があった。次いで、その生存を繋ぐために取られた方策にも...。
”禁忌”に禁忌が重ねられてしまった。そして…更に…これは不自然な形でどんどん
続いていってしまう。すべての発端は、
「新たなる生命」「我が愛子の命」を救わんとしての専断でしかなかった。
「愛するが故に」切実なる親心でことは行われたに過ぎない。

子は元来は無垢であった。しかし、その存在が『天の大樹』に拠らぬが故に、
やがて乱調が生じて狂へと至る。終局、罪を犯してしまう。
そして呪われた存在と呼ばれるものとなる。

子らの父たる天使には断罪が臨んだ。一切の釈明が聞き届けられることはなかった。
これらも違反者として『天の大樹』との関係が断たれ、呪われた存在と化す。

ここ物質界の地球においては、肉としての交合は強制的な導引力によって完遂される。
ほっといても勝手に満ち溢れるようにと。只のプログラムでしかない。

天のいと高き存在たちから観れば、粗雑粗暴にして乱暴な限りでしかない。
Make Love と Fuck は違う。
より精妙なるものへと向かう、より高度なものへ、より美しいものへ…。
より洗練完成されたものに向かうといった本質的な努力が欠けているから。
また聖性を踏みにじるものとして映ってしまう。
実は、魂のタイプとしての組み合わせがとても重要でもあるのが正味の話である。

その天の大樹に属するいと高きもの二種(天使とヒト)が、
それぞれの立場、状況は違えども、似たような罪を犯してしまった。
結果、ヒトは向かうべきとは『逆の』性向が強くなってしまう。
これは天使によって持ち込まれてしまったんだけどね。
試練を乗り越え贖いを完遂するではなく、更に物質性の深みに嵌り込み、
更に罪深きへと逃避する傾向が、拭難く、エスカレートしてゆく。

自律回復が敵わない事態となったのを診て、神は、大洪水で一旦すべてをリセットされた。

助かったのはノアの家族だけだった…。

片や、取り残されたのはネフィリムだ。
罪たるの、真っことの申し子。
身にまったく覚えなしでの…。

彼等が神の祝福に預かったことは一度としてない。
彼等はある意味、超越存在者であるが故に滅ぶことさえできなかった。
器を入れ替え、時を渡るものとして存在し続けている。


今も…。



〈 Part 2 に続く〉



おしゃべり:

伏線として語っておこう。
ギバーリームの中で一番有名になったものは、ゼウスである。
またネフィリムとしての要は、キュクロープス(サイクロプス)とする。

ノイズのイメージは Merzbow なんかがピッタシ。
個人的には何が良いのかサッパリ分からん。
ご関心の方がありましたら、ようつべで探して聴いてみて下さい。


付録:

「では、どんな風なのが正統なの?」

*以下は、長いし、わけわからんところもあるので読む必要は”全く”ありません。
 あくまでご参考までに。

Belze.の〈パーガトリー〉に謎の記述がある。関係してなくもないと思う。

*毎度ながら、超要約かつ超意訳です。念のためにお伝えしておきます。

Re: 抜粋、(邦訳)PP.480&481。

種の存続の為のプロセスが、三人の独立した個体を通して行われる惑星がある。
『MODIKTHEO』と呼ばれる惑星である。この惑星に生まれる生命は我らと同様三脳である。また外観もほぼ同じだ。更には、彼らはすべての三脳生物のうち、もっとも理想的かつ完璧な身体で生まれてくる。

宇宙物質の変容、その原理は、我々の体内のと同じである。
つまりは、聖なるヘプタパラパルシノクの法則に従っている。

唯一違ってんのは、この惑星では種の存続に関してのプロセスの完結に、性別の異なる三種の個人が関与することである。ここでは三つの性が関与する。地球では『男』と『女』が二つの性を区別するのに使われているが、ここでは『Martna』、『Spirna』、『Okina』という言葉になる。
この三つの性は外見上は皆同じだ。 しかし、内的構造は三つの性の間では大きく異なる。

彼らの間での種の存続のプロセスは次のようになる:

異なる性別である三人が、特別な方法(a special action )により*『聖エルモアールノ』を同時になしとげる(ただ性交の事言ってだろね)。新しい命の*『受胎』のことだ。

この『エルモアールノ』の後、この三人はしばらくお互いから離れ、ひとりひとり別々に暮らす。しかしこの期間、三人皆においては....

*きわめて明確な知覚力を持ち、また意識的に行動しながら存在するのだ。
*ある特別なやりかたで意図的に印象を受け取ったり意識的にふるまったりする。
*知覚においては明晰に意識されたものとなり、振る舞いは意識的な限りとされる。

(but each of them exists) with very definite intentional perceptions
 and conscious manifestations.

注)大切なところなので和訳三種と原文並べてみた。最後のが[byME] です。

同時に受胎したこの三人が結果をあらわす時期、すなわち『出産』の時期が近づくほどに、
たぐいまれな種族に属するこの三人の者たちひとりひとりの内側では、他の二人に対する
『心理的および生理的にお互いを求める気持ち』が強まっていく。

そして、『出産』が間近に迫ってくると、この三人はお互いを思慕する想いが顕著に
なってくる。〈Physico-organic-attraction〉なるものが現れてくる。

そして、誕生の時が近づくにつれて、ますます強く寄りそい合い、ついには一心同体と
言えるまでの状態となる。そして遂に、この時に、この三人が授かった受胎の結果が
現れてくるのだ。

And the nearer the time of this being-manifestation or birth approaches, then more they press close to each other and ultimately almost grow on to each other; and there upon at one and the same time, they actualize in a certain way these conceptions of theirs.

そのように、受胎が実体化してゆく間に、三人のなかに生まれたものは混ざり合って
統合され[一つ]となる。このようにして、たぐいまれな構造を備えた、新たな
三脳の生き物がまた一人生まれてくることとなる。

And so, during their actualization of their conceptions, all these three conceptions merge one with another , and in this way there appears in our Megalocosmos a new three-brained being of such an uncommon construction.

この三脳の生物は、この宇宙においては理想的なものになる。
なぜなら最初から三つの存在体を備えて生まれてくるのだから。

And three centered beings of this kind are ideal in our Magalocosmos, because at their very arising they already have all the being-bodies.

彼らが三つの存在体を持てるのは、生産者である
『マルトナ』『スピルナ』そして『オキナ』が、
それぞれ別々に三つの存在体を懐胎し、
そしてそれに相応しい配慮をもってこれの育成が完璧なものとして執り行われるからだ。
出産の瞬間に、これら三つの完成体は一つに統合される。

And they have a three being-bodies because the producers of such a being, namely Martna, Spirna, and Okina each separately conceives the arising of one of the three-bing bodies and owing to their special corresponding being existence they aid the[ Sacred Hetaparaparshinokh] to form the give being body in themselves to perfection and afterwards, at the moment of appearance, merge it with the other bodies into one.

憶えておきなさい!。
この比類なき星、『MODIKTHEO』に生まれた三脳生物は、〈あれら〉に
取り組む必要が全くない…。他のありふれた惑星に生まれる三脳生物とは違って、
彼等自身を高次存在体(ケスジャン体)でもって覆う為のあれらの課題、
自己を完成するための助けとして創造主が定められた


即ち現在我らが呼ぶところの
『意識的に、難儀ごとでしかない労働勤労課題に、あえて自主的に励む』
そして
『博愛の実践として、他者が無自覚にもたらす撒き散らす苦しみ不快感を受けとめ、
 己が心の内のみにてそれを食い止める、治めきる』のことである。

Note, by the way, my boy, that the beings arising on that incomparable and marvelous planet have no need, like the three-brained beings arising on other ordinary planets of our Megalocosmos, to coat their higher-being-bodies with he help of those factors which our creator designed as means of perfecting-namely, those factors which we now all ”conscious labors” and ”intentional suffering”.』

注意点は[高次存在体]が何を意味しているのか?。
センターは、よっく発達された上に、相互に調和されたものでなければならない。
この為にケスジャン体なるもので厚く被覆される必要性がある。

キーワードとしては、思いやり、思慕、愛。そしてケスジャンの獲得の為の受苦。

内容は、愛もて【苦しみ】を凌げ、を言っているだけなのかも知れない。


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