9. ヤコブの梯子

文字数 2,558文字

Re: authorized status

僕の決心は変わらなかった。
人の世をこのままに放置することはできない。
我身を現世へと、今一度投じなければなるまい。

「我が権能において地上への降下降臨を宣言する」
「先ずは、人の子としての姿に戻されんことを」
「我は在る、我は我たれと望まれし者なり!」





『Yea, you are granted』のサインが全空間に閃いていた。



〈暗転〉



深い緑の輝きを放つ立体六芒星(Merkaba)。
そのクリスタルの中で、若者の肢体が動き出す。
巨大な三角錐が、ゆっくりと上下へと分離していく...





Re:初期の経典『Ši’ûr Qômâh』の伝えるメタトロンの容姿。

ここで彼を描写したとされる『雅歌』(5:10-16)をご紹介致したく思います。

My beloved is white and ruddy,
 the chiefest among ten thousand.
His head is as the most fine gold,
 his looks are bushy, and black as a raven.
His eyes are as the eyes of doves by the rivers of waters,
 washed with milk, and fitly set.
His cheeks are as a bed of spices, as sweet flowers:
 his lips like lilies, dropping sweet smelling myrrh.
His hands are as gold rings set with the beryl:
 his belly is as bright ivory overlaid with sapphires.
His legs are as pillars of marble, set upon sockets of fine gold:
 his countenance is as Lebanon, excellent as the cedars.
His mouth is most sweet: yea, he is altogether lovely.
This is my beloved, and this is my friend, O daughters of Jerusalem.
(King James Version )


  わたしの愛する人は、
  血色のいい白艶の肌の持ち主、
  一万人の中で、最も抜きんでたもの、
  頭は純金のごとく輝き、
  髪は多く、カラスの羽のように黒い。
  目は、流れる川のほとりに憩う鳩たちのよう、
  ミルクで洗われ、寸分違わず整っている。
  ほおは、香草の臥所のようで、まるで甘い花の香り。
  唇は、ユリの花、甘いミルラ(没薬)を滴らせる。
  手には、緑柱石をはめ込んだ金の輪が、
  胴は、サファイアに飾られた明るい象牙
  脚は、純金の基礎の上に据えられた大理石の柱。
  その姿は、レバノン、ヒマラヤ杉のごとく素晴らしい。
  その語る言葉はなによりも甘く、然り、総じて言うならば、
  彼は、ただただ " ラブリー ”
  これがわたしの愛するもの、わたしの友だ。
  聞るか、エルサレムの我が乙女たちよ!


メタトロンとしての真存在がそこにあった。
『Lesser Yahweh』としてのステイタスを付与されしヒト。
神の現身たる、もう一人のアダム。

かってのエノクの体は、一度すべて分子レベルで分解され、
改めて組み立て直されていた。
神自ら、手ずからにその操作は存分になされていた。

だから…エノクは、もうヒトの子とは呼べないのかもしれない。
彼が、その事実に気づくのは、未だだいぶ先の話になる...

その空間は青や緑の光の泡のようなもので包まれていた。
そして何かの信号なのだろうか、鮮やかな赤やオレンジの光点が
その表面を滑らかに移動してゆく。光が束になりながら揺蕩い、
流れるようにしてその位置を変えてゆく。

どこも同じようなもんだが、ここが艦橋になる。

エノクは念じることにより、船を ” ヤコブの梯子 ” へと向かわせた。
このままメタトロンで地上に降りることは無理な話しだった。

を使うしか手はあるまい。

船は七二枚の翼を伸ばし、漆黒の宇宙を滑るようにして進んでいった。


〈暗転〉


Re: ヤコブの梯子

それは天界と地上を結ぶ宇宙エレベーターである。
人には探知されえない類の代物だ。
エノクはかってこれにより運ばれ天上界に上がった。今度はその逆になる。

船を降りる前にイリアと話をした。
もう仮想世界ではなくなっていたので音声のみであったが。

彼女はもう止めはしなかった。
とても悲しみ、心配をしてくれた。

『エノク、あなたあっちへ行ったら不便なことになるわよー』

『私のサポートも受けられなくなる。』

 「ありがとうイリア。でも自分でなんとかするよ。」

『もう、あなたの体は普通の人間となんら変わりがないんだから』

『病気になったり、お腹が空いたら死んでしまうかもよー』

これは事実だ。地上に降りたなら、天からのサポートは一切期待できない。
ひ弱な、裸一貫の人間として地上には立たなければならない。
無謀な行為以外の何物でもなかった。
だが不思議なことに、僕はまったくなんの躊躇も恐れも心に感じてはいなかった。

『私のオリジナルさんによろしく伝えてちょうだい!』

イリヤの雛形は『サンダルホン』だった。
あくまで僕の深層から汲み取られた〈信頼〉に関わるイメージが元になっている
だけなのだが。ペルソナはまったく違うが、間違いなく彼女との類似を感じていた
ことは事実だ。僕はこれにも同じ感謝の言葉をもって返した。

ヤコブの梯子、その最上階で、
僕はメタトロンとしての体、その船を降りた…。






〈続く〉



あとがき:

英文のものが正しいかどうかは知りません。
でも、先行する和訳は、どれもこれもボクは気に入りません。
なんであないなことすんのか分からない...。余計なお世話なんじゃないかな〜?
今回のは当然に[意訳:byMe]です。かなり直訳に近いかな。



おまけ: メタトロン、その正体。






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