6. 黒曜石の獅神

文字数 2,803文字




Re: 千里眼。

ヤコブの梯子。丁度、天界と地上界の狭間の階層にある審問室。
カミーユは大理石のテーブルにて執務を執り行っていた。
壁にある大時計、その振り子が遠大なる振れ幅をもって時を刻んでいる。

やおら審問官の手が止まり、その姿勢が固まった。

「呼んだのか…」

彼は銀縁の眼鏡を外し、これを卓上に置いた。
そして彼方を見やり静かに思いを巡らせた…。

「安らぎ平安を捨てて、君は再び彼処へと舞い戻った。」
「そは、君の愛が深きなるがゆえに。」
「誉むべきかな、誉むべきかな。贖いをなし遂げ、また打ち棄てる魂よ。」

「同族たるヒト等に向けて、その力は行使されることと相成るやも知れぬて。」
「赦しが乞われることはもうないのだから。」
「そして、悔い改めが叶う時節はもう遠に過ぎている。」

「放たれたるは…君の

そのものだ!」。


〈暗転〉






Re: 出現。

突如、上空に「虚」が穿たれていた。

その界面より銀色に輝く二本の柱が現れ、降りてきた。
続いてその胴体が、そして頭部が。
やがてその全貌が視認されるようになっていた。

それが巨大な〈ヒトガタ〉であることが分かった。
全身は白銀色に輝くエナメルの質感。
両腕は胸で重ね合わされ祈りの如きポーズであった。

「ビィーン・ビィーン・ビィーン」

電子音が弾けるようにして高鳴り、辺りに響きわたる。
その場は凍結させられたかのように誰も動くことが敵わない。
微動だにせずして、その存在は、直立のまま降下してくる。
やがて、車から放り出されたエノクを庇う位置に、それは静かに降り立っていた。

「ビィーン・ビィーン・ビィーン」

総じて、それの外観には鎧武者の出で立ちを連想することができた。兜は横長の楕円形、顔面がしっかりと両側から挟み込まれている。肩肘の関節部に金色の輪が嵌っている。胴体の全面と脛に、つまりは従来急所と見なされる部位には、黄金に隈取られた特殊な意匠が凝らされていた。おそらくはプロテクターとしての機能を果たすものなのだろう。全体的には厳つさは全くない。むしろアッサリとした精悍な印象が強かった。

軍神は即座に攻撃体制へと移行していた。




Re: 黒曜石の獅神

ガイアーはバリアーを展開する。そして頭上高くに腕が上げられクロスされていた。
これに気づいたスフィンクスは大きく後方に飛んでいた。
ガイアーの光子弾を恐れてのことだった。
それは薄れ惚けて空間に溶け込んだようになる。
影は振れて、複数体に分かれてゆく。
そして、どれもが実体を持つスフィンクスとして出現回帰していた。

その後には、五体のスフィンクスがいたのだ。
エノクとガイアーを取り囲むようにして全てが跳躍を開始する。
やがて融け入るかのようにしてみな連なり、漆黒の帯となっていた。
プラズマ放電が暗黒帯より発せられ始める。
急速に出力は増されて、オレンジの光輪へと爆発的に変化してゆく。

突如沸き起こった強風に身動きできずにいたエノクの腕輪から声が叫ばれる。

「すぐそこからお逃げなさい。」
「レンジ効果で焼き死ぬわよ。」
「バリアーも効果はないわ。」

『上昇だ ガイアー』脚部に取り付けられた鉄梯子に飛んで掴まり、
エノクは叫んでいた。

プラズマの色が、オレンジから紅蓮へと変わっている。
脱出は、反応が臨界点を突破して様相が一変するのと同時であった。
熱線が渦を巻き、稲妻の如く駆け巡りながら大地を覆う。
そこにある全てを焼き滅ぼす円蓋(ドーム)が地表に形成されていた。

間一髪の差であった。

上昇において、イリヤは言葉を継げる。

「もうアレは追ってはこないわ。」
「自分が逃げる為の作戦でもあったはず。」

エノクは立て続く緊張から解放されたことに胸をなでおろす。

 『イリヤ、君には感謝する。』腕輪を口元に寄せて話しかけた。

「出てくるのが遅くて御免なさい。」と声が返る。

 『色々と相談したいことがある。』

「ええ、喜んで聞かせてもらうわ。」

宙に浮かぶ巨人からは、爆ぜるかのような電子音が周囲に響き渡っていた。


「ビィーン・ビィーン・ビィーン」。



   〈暗転〉

   〈暗転〉

も一つ〈暗転〉



Re: 交信録

クリスティン聞こえるか?

万全だったはずの作戦は失敗に終わった。
想定外の介入があったが為だ。
それも電子界の女神殿のご乱入だ。
こいつじゃ事前に予知することは不可能だ。
ある意味あっちの世界(虚)の住人だからな。

取り敢えず、ガイアーとの直接戦闘は避けた。
そう一時撤退した。様子を見て出直そうと思う。

なに?...
そうだな応援がいるかもしれない。
二面作戦しかないな。

しかし、アレは恐ろしく強いぞ。
絶対にどっちかは消される。
まあ、俺の場合は、最悪そっちに転移できるから、さしたる被害はないがな。

じゃあ、俺がガイアーの方のお相手ってか!?

でっ、誰を呼ぶ?

なに?… みんな遠すぎる?… 忙しい?… 

じゃあ、お前しかいないじゃん。

まさか…おまえ…出番望んでのか?

恋しい方にお会いしたいってか〜? いい加減にしてくれよー。

しかし、あの電子の姫、プログラムの癖にプロトコル反故りやがって…
そんなことありえんのかな〜?
こんなこと、星占いじゃあゼッテェー分からんぜよ。

今日日は違反者多く出てっけど、お前までそんなことにはなんねーだろうな?

なに?…大丈夫?…。

よし、これからそっち行くからな。



「量子転送スタンバイ!」

キュィーンンンン…



〈続〉



予告: 次回「二獅神の逆襲」。*ナレーション付き。

BGM: 『 ハカイダーの歌 』。
https://www.youtube.com/watch?v=Tns9ATOGlUQ 
*使用箇所はイントロだけ。これをバックに下が語られると思ってね。

「迫り来るは二体のスフィンクス。
 時空を操る二匹の神獣の猛攻に、エノクとガイアーは苦戦する。
 美の化身たるゾフィーの〈シトリン光〉でドラマは染まり、
 そして、やがてに、それも思いがけない展開をもって結末を迎える」

(もうピッタリ過ぎ。

が素晴らしすぎる〜!。100点。)



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