2. 振動の巨人

文字数 4,088文字

時は少しさかのぼる…





Re: 旧上海租界

上海市の真ん中を黄浦江が流れている。その西岸に外灘と呼ばれるエリアがある。
なんでも上海随一の観光名所だそうだ。川沿いの堤防には大層立派な遊歩道が設えてある。
長さ1.5Km。幅がやたら広くって石畳やタイルが延々と敷かれている。
開放感抜群でここを歩けばちょっとしたステージ気分が味わえる。
まるで映画の中にいるみたいな気分になれる。
招かれて上海へいったなら、間違いなくここに連れてこられるのは確実な話だろうね。





そんでもって幅400を跨いで向こう東岸を見渡せば、近代的な超高層ビルがたっくさん。
ここのランドマークである上海テレビタワー(632m)もその中にいる。
なぜだか赤じま一本の団子2個を串に刺したこのタワーだけがリアルで、
他のは作り物めいて見えてしまうから不思議さ。周りの高層ビル群はなんか
存在感が希薄でセットにしか思えないんだ。(もしかしたらCGなのか?)。
もし中身の無さ、そのことこそをここに示さんと、あれらが造られたん
だったとしたらもう完璧。" Good job!" と大声で歓声を上げただろね。

要は、この遊歩道は東岸を眺めさせるための観客席ってことさ。
ここが観光スポットの肝として最初から構想され設営されたのが分かってしまう。
国威を来訪者に示さんと気合い入れて東岸が造られたのもあっけらかんと知れてしまう。
空虚な空虚な大伽藍、(まぼろし)の〜泡沫(うたかた)としての壮観なる大舞台…。

「しかしだっ!」

団子二個って… せめて

は絶対に刺しとくべきなんじゃないだろうか!?。
バランスが悪すぎるだろがっ〜!。変なところでコストカットすなー!。
アンテナのしょぼいやつ、あれは勘定には絶〜対入れらんなーい!。
林石隆が送られてくんのが恐いー!。

閑話休題。話は南北に走る西岸の遊歩道、その南端から始まる。



〈暗転〉






Re: カフェバー「ATANU」


遊歩道が延安路と交わるところに船の煙突のような塔が見える。
船のマストのようでもあるこの白い円柱の塔には船体として見立てた二階建ての
建屋が併設されている。そっちは四隅にアールをあしらった直方体だ。
おしゃれでとても可愛い。
どちらもアイボリーの地に赤のラインが15本横に走っている。
ありゃタイルだろうね。出窓のアウター・シェードや建物の輪郭の意匠を細かく見れば、
アールヌーボー様式だってことがわかる。こりゃまた珍しい。

ここはかって信号台として使われてた建物なんだって。
1907年に建築されそのお役立ちは1956年までだったそうだ。
現在は「気象信号台」と呼ばれ、観光名所になっている。
中々に趣深い建物だよね。
小ぶりなのがいい…





時刻は午後四時を少し回ったところ。
女が一人、ここの喫茶「ATANU」でコーヒーを飲んでいた。
残念なことに味はあまり大したことはなかった。
やはり烏龍茶にしとけばよかったと後悔する。
やがて”最後”のコーヒーを飲み干し席を立った。
店を出てほんの数歩、東岸方を背に立ち止まる。
そして腕を組み言葉を発した。

『こい!タイタン』。


〈暗転〉






Re: Awakening...

東シナ海、上海沿岸から370Kmの沖合、深度1000mの海中で巨人の目に光が灯った。
そしてソレは西へと移動を始めた。すぐに奇妙な音が聞こえ始める。
まるで沢山のホルンによる合奏のようだ。倍音/非倍音が巧みに組み合わされている。
その音の出所は巨人の胸からだった。不思議な抑揚をつけて繰り返されるホルンにも
似た音は共鳴してみるまに高まり音圧を増していく。すると海に異変が起こりだした。
海底を進む巨人を取り巻く海が、その前方から大きく割れて広まりだしたのだ。
その断面は海面にまで達している。だが何故か水飛沫は殆んど起こっていなかった。
界面は全てゼリーの様に滑らかでしごく安定している。

進むに従い、次々と開けては元の海の様子へと戻ってゆく。
その身を、取り巻く海水による拘束から解放されて、
今、巨人は驚くべきスピードでの歩みを開始する。

その速度は1000km/hを越えていた…。


〈暗転〉


女は柔らかな淡いペールコーラルのワイドパンツ。そして品の良い明るめの
ターコイズカラーで統一さたカーデガン、カットソー、そしてパンプスで身を固めていた。
片腕に黄金のブレスレット。同じくレモン色に輝く両耳のイヤリング。
彼女にはこれらがとても似合ってた。

女は遊歩道を北へとゆっくり歩きだす。その歩調は優雅にして軽やか。
まるで彼女には体重がないかのようだった。夕暮れ時で遊歩道は人で溢れ返っている。
当然すれ違う人も多くいたのだが彼女に近づくと、なぜか自然と彼女の進路からは外れて
いってしまう。当人たちにその気はないのだが無意識のうちにそうなってしまってた。

歩く距離は丁度1キロ。
ランデブーは「黄浦公園」内の人民英雄記念碑塔と決めてある。
あの命令から30分後を予定していた。


〈暗転〉


Re: Landed...

海岸線近くでタイタンは海上にその頭部を現すこととなる。
海上にいた船舶の人々が、まずこの異常なるものの存在に気づいた。
さらに海が割れていることにも驚愕する。
しかしそのことによる海面上の変動はまったくなく彼らに危険がおよぶことはなかった。

巨大な裂け目だけが滑らかに舟の側を通り過ぎてゆく。

岸近くに至りタイタンから発せられていた音に変化が起きた。
更に、胸部に嵌め込まれている巨大な二つのダイヤフラムからは
先程までとは違う[音]が同時に発せられていく。
すると海は岸に向けて巨大なコロイダルの階段を見る間に形成したのだ。

実体は海水であるはずなのに岩盤の如くの強固さをそれは獲得していた。
両サイドは海水自体が壁を作り空間をしっかりと分断している。
これは先ほどの海を切り開いた技の応用によるものなのだろう。

広々とした段を踏みしめ、タイタンは岸へと登り近ずいていく。
全身に濡れはまったく見当たらない。
やがて陸間際で、その全貌が完全に晒されていた。





身の丈は500メートルを軽く越えている。
巨人と呼ぶにもその姿は余りに大きかった。
これが人工物であることは誰の目にも明らかであった。

いつしかあの音は止んでいる…。

そして替わって、今度は地響きを伴う爆撃音の如き足音が始まっていた!…。


〈暗転〉


Re: ランデブー・ポイント...

揚子江の河口近くにタイタンは至る。長興島を過ぎ、そして横沙島の北端近くから
進路を黄浦江へと変えた。そしてそのまま河口を遡り始めた。
数機の偵察ヘリが「バラバラ」とプロペラ音を空から撒き散らしながら集まってきている。
また異変を聞きつけた野次馬が川の両岸に「これでもか」というほど詰めかけていた。
暗さが増していく頃合いにも関わらず、その数は余りに多かった。
だが言葉を発する者は誰もいない。ただ口をあんぐりと開け、ポカーンとした表情で、
巨人にただただ見入るばかりだった…。

4時35分「黄浦公園」へと至り、巨人はクルリと向きを代え来た道を戻ってゆく。
そして揚子江に出ると、今度はそれを遡り始めた。
やがては長江へと河は代わり、これを更に遡る。

既に夜の帳が上海には覆い被さっている。

しかし夕暮れの残照に烟る長江上流では、杭打ち機の打撃にも似た
ハンマー・ストロークが

何時までも、果てることなく、

延々と鳴り響いていた....。


” ガッ シャーーンンン・ガッ シャーーンンン・ガッ シャーーンンン…”



〈続〉




次回:【Boys of Bedlam 】 『早くあの子達を”(ちり)”に返してあげなくちゃ…』



カフェバー「ATANU」は現在閉店中。コーヒー不味くて潰れたのかもね。

距離計算は間違えてるかも…
寄せてやってください。深度はまだまだ足ります。謝。






特例的公開: 

Re: なんと!林石隆の写真を特別なルートから入手した。



 気をつけよう…。


Re: ボツネタ集。

駆けつけた野次馬たちにもセリフがあるにはあったのです!。

  『わァ〜た〜しーアレ()てるヨー 
    ”超大型巨人”いうて〜こないだ因特网で読んだとこアル』 (違う!)

  『違うネ、あれ高達よろし。看、日昇は絶対買収いるわ。
    時間かかるなら先に竜落子。これ○○の常識』 (ダメー!)

  『違う違う、絶〜対アレ哥斯拉よ!』  (*´ー`)

  『使徒ラ〜イ━━━(T∀T)━━━ ! 』 

  『福音战士はライせえへんのカ⤴︎イ?』

  『在哪里? 肥虫! 』

  『チョ○ナの科学は、技術は、こんな巨大なものを作ることができるというのアルか!』


入れたかった...。
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