4. 旧遺産

文字数 936文字

前史、絶対太陽における話だ。
そこは暗鬱たる絶望の時代を迎えていた。
時による侵食が原因だった。

もう耐えられない。
すべてが不活性を迎えてしまっている。
じきにこの年老いた宇宙は崩壊してしまうだろう。

この「破滅」からは逃れらない。
この「滅び」を避ける術は一切ない。
もう「滅亡」は宿命となってしまっている。


Re: 存在証明、オーバーマインド(*)。

彼らは自分たちが生きたことの証を残すことにした。
次に開闢/展開するであろう宇宙に生きる生命たちに向けて。

不思議なのはこれが生きている存在みなの総意としての、やるせない衝動として湧き起こって
きたことだ。本能の最深部に埋められていた然るべき時にのみ作動するプログラムによるもの
だったのかも知れない。十全なる命への『愛』が遍く強力に発現していた。

彼らは思った。
我らが培ったこの叡智を次の宇宙に伝えることに意義はあるのかと。
それはこの宇宙の成果結晶とも言えるものだ。
次の宇宙においても間違いなく生命の誕生進化はまた繰り返されることになるだろう。
であるならば、もしこのバトンが受け渡されたなら彼らは我らの更に先を行けるかも知れない。
これは願いとしての祈りへと昇華する。

『どうか我らの愛を受け取ってやってください』。

残酷な【理り】(崩壊現象)を越えていけるものにしなければならない。
これは可能ではあった。
生命としては絶対に不可能だが人造物であればそれは適う。
全部で七体が建造された。
それぞれに特徴としての名が与えられた。

軍神(ガイアー)
振動(タイタン)
気象(ウラヌス)
物質(サリー)
座標(スフィンクス)
重心(ラー)
掘削(シン)

内三体が人型となった。
可能な限りそうはしたかったのだ。
自分たちの姿をやはり型どりたかった。
次に知的生命の存在が起こればまた同じであろうことに疑念はなかった。

七体は虚数空間に移され厳重に守られるようにして保管された。

そして...
あの宇宙が滅んだあとこれらを引き取った存在があった。
新たなる宇宙の創造者、至高の御方である。


〈続く〉



ps.(*)アーサー・C・クラークによる”幼年期の終り”を参照。



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