十一章・開戦(1)

文字数 4,053文字

「ご武運を、お祈りいたします!」
「うん」
 南の日本国民一〇万人から一斉に頭を下げられた月華(げっか)は、代表者の大阪市長に対し軽く首肯した。今しがた非戦闘員全員を、ここ京都まで退避させたところである。
「貴方達も無事でね。もしも私達が敗れたら、その時は北へ向かいなさい」
 すでに話はついている。北日本の福島では、こちらからの難民の受け入れ態勢を整えてあるはずだ。
 もっとも、術士は全員が対蒼黒(そうこく)戦に参加する。北への護衛を務められるのは候補生達とさほど数のいない兵士達。そして──
(この戦力で、はたして何人辿り着けるやら。そもそも王太女殿下を無事に帰さなければ、門前払いを喰らうかもしれないわね)
 もちろん、その時はその時。どう転ぼうとも対策は講じてある。少なくともここにいるうちの三割程度は生き残るだろう。
 彼女は振り返り、今度は自分から頭を下げる。
「よろしく、お願いします」
「お任せを。あんじょう気張ってください」
 月華の要請に応じたのは、京都を牛耳る“国会議員”達だった。彼等もまた、術士隊が敗北した場合には北へ移ることになっている。この場にはまた下院議員だけが顔を出していた。
「しかし、ホンマにええんでっか? 王太女殿下をこっちで預からんでも?」
「本人が戦いたいと言ってるのよ。気が済むまでやらせてあげるわ」
「けったいなお子やな。流石は“螺旋の人”の血筋」
「あの家は、代々戦場に立つのが習わしだそうですからなあ」
「変わっとるわ」

 まあ、彼等の目にはそう映るだろう。
 戦う必要の無い立場で、何故戦に出るのかと。

「結局、陛下への挨拶にも来はりませんでしたな」
「必ず連れて来ますよ、後ほどね」

 わかるはずもない。
 保身以外、なんら興味の無い連中には。



 それからほどなくして、大阪へ戻る道中、馬上にて問われた。
「陛下のご様子は、どうでした?」
「元気だったわ」
 月華は当代の天皇と懇意にしている。先代も、先々代も、さらにその前の代とも同様に良好な関係を保って来た。

 問題は国会の方だ。

「奴ら、陛下を守り切れますか?」
「まあ、五分五分よ」
「なら、生き延びないといけませんね」
「当然」
 あんな連中に可愛い主上を任せておくつもりは無い。今回もやはり生き延びることこそ最優先。
 だが、同時に待ち望んだ好機であることも確か。
「可能な限り、蒼黒は始末するわ」
「はい」
 あれが存在し続ける限り、人類に安息の時は訪れない。仮に“ドロシー”を先に倒せたとしても、あの怪物はやがて第二の“ドロシー”に成り果てる。実際に自分は昔、あれと良く似た怪異が“ドロシー”以上の怪物となった姿を見た。

 こういう想像をする時、いつも身が震える。

(いったい、この星には今、いくつの“災厄”が生じているのかしら……)
 日本だけで惑星壊滅級の怪物が複数体。世界全体を見渡せば、きっと他にもまだ何かが生まれているだろう。蒼黒やドロシーを倒せたとしても、人類の戦いはきっと終わらない。終わりがあるかさえわからない。

 まるで、あの頃の自分達。

「母様?」
 肩越しの声。見た目には後ろで手綱を握る彼女の方が、よほど母親らしい。けれど実際には自分こそが養母で、そしてまだ、親として成すべき役割が残っている。
梅花(ばいか)
「はい」
「死んでは駄目よ」
 かつてのこの子の姉のように、儚く散って欲しくはない。
「了解です」
 無事に羽化できた娘は、そう答えて微笑んだ。



 ──そして、ついに時は訪れた。日が彼方の山の向こうへ沈み、夜の帳が下りる。同時に海からは鳴動が響き渡った。
『母様! 奴が起きました!』
 霊術によって拡声され頭上から届く報告。長年大阪を守り続けて来た術士隊の長・月華は閉じていた瞼を開き、傍らの少女へ語りかける。
「いよいよです、殿下」
「……そう」
 珍しい。結った赤毛を揺らし、緊張した面持ちで頭上の亀裂を見上げる少女。北日本の至宝と呼ばれる王太女・朱璃(あかり)
 そんな彼女の左手を掴み、背の高い少年が頷く。北日本王国の初代王・伊東(いとう) (あさひ)を再現した記憶災害。人と竜が融合した頼もしき怪物・アサヒ。
「大丈夫だよ朱璃。きっと上手くいく」
「……当たり前でしょ」
 少女はようやく、いつも通り不敵に笑った。
 そして振り返り、仲間達を鼓舞する。
「さあ、おっ始めるわよ!」
「押忍!」
「いつでも!」
「待ちくたびれたぜ、なあ?」
「ああ」
「全隊士、死力を尽くせ!」
「はい!」
 DA一〇二を装着した二人が、ベテラン調査官二人が、門司(もんじ)が、大谷(おおたに)ら護衛隊士がそれぞれの武器を構える。
「北からの客人に負けず、こちらも獅子奮迅の活躍を見せてやりなさい」
「もちろんです、母様」
 カトリーヌ、風花(ふうか)烈花(れっか)斬花(きりか)──月華率いる術士隊も戦闘の準備は万端だ。事ここに到るまで、出来る限りの備えはしてきた。
 後は決着をつけるだけ。

 ──頭上からは巨大なものの気配が迫りつつある。海が盛り上がり、津波となって大阪を目指し押し寄せて来ている。

『距離、残り一〇〇〇!』
「頃合いね」
「よし!」
 朱璃の手を離し、右の拳と左の手の平を打ち合わせるアサヒ。数歩前に進み、もう一度だけ振り返った。
「行って来るよ、朱璃」

 彼はそう言って、直後に驚く。
 そして、嬉しそうにはにかむ。

「必ず、帰って来るから!」
「あ……」
 朱璃は手を伸ばした。けれど、その時にはもう少年は、空中の障壁を蹴って地上へ駆け上がってしまっていた。
 グッと奥歯を噛み、愛用の対物ライフルを握る。
 自分は王族。班長。この場に集った戦力の一部。
 背筋を伸ばし、声を張り上げた。
「勝つわよ、アンタ達!」
「おう!」
 アサヒの代わりに、マーカスが隣に並ぶ。逆隣では月華がほくそ笑む。
「信じなさい、殿下」
「んなこと、言われるまでもないわ!」

 言い返した、その瞬間──天が“海”に覆われた。



 亀裂から地上へ飛び出したアサヒは、想像を絶する光景に度肝を抜かれた。その時にはすでに怒涛が眼前にまで迫っており、慌ててさらに高い位置へ退避する。
 障壁を足場に空中で立ち尽くすと、あっという間に眼下の全てが波に飲まれてしまった。それどころか、もはや見渡す限り一面が海。いつの間にか沖まで移動したのかと錯覚してしまいそうな光景。
「こ、これが……“蒼黒”……?」
 あまりにも巨大すぎる。まさに月華が言っていた通り、敵は“海そのもの”だった。
 想像はしていた。敵は津波だと、あらかじめ聞いていたから。小学生の時、二〇一一年に東北で発生した巨大津波の記録映像を授業で見た。彗星が地球に衝突した場合のシミュレーション映像だって、何度もテレビで流れていた。

 でも、これは違う。それらを遥かに圧倒する光景。

「どこまで行くんだこれ……全然止まる気配が無い」
 大阪どころか、その奥の京都まで飲み込みそうな勢い。どうりで関西一円が草一つ生えない荒野と化してしまうわけだ。
(友之さんが出した“堤防を築く”って案も、たしかに無理だよ)
 彼は、霊術や疑似魔法で壁を作って防いだらどうかと言ったのだ。だが朱璃にあっさり却下された。それを実行するには時間も人手も足りないし、そもそもやったところで無駄だろうと。この光景を見れば彼女が正しかったことは理解できる。どれだけ高く分厚い壁を建てたところで、こんなもの防ぎようがない。

 そう思った、直後──

「うぶっ、あ、あああああああっ!?
「なっ!?
 さっきまで監視を行っていた術士。彼女が水中から顔を出した。姿が見えず地下都市へ戻ったものと思っていたが、いつの間にか波に飲まれてしまったようだ。
 アサヒは迷わず助けに走る。水中に飛び込んで彼女を捕まえ、すぐさま再浮上を試みた。
 ところが、そう簡単にはいかない。
(なんだ!?
 恐ろしく暗い水中。何かが手足に絡み付いて来た。それが彼と彼女を、より深い領域へ引き込もうとする。
 しかも流れが速い。水中は上から見て想像した以上の激流だった。アサヒは二つの力に翻弄され、それでいながら、冷静に意識を研ぎ澄ます。

(この程度でやられて、たまるか!)

 彼とて幾度も激闘を潜り抜けた身。相応の経験は積んでいる。どうやらこの海水と結合した魔素は“蒼黒”の意識に支配されているようで吸収できない。しかし彼の中には自ら魔素を放出するゲート化した“竜の心臓”がある。

(邪魔だ!!

 その心臓から汲み上げた魔素を放出し、吸収能力と組み合わせて渦を作った。回転する光に海水が押し退けられ、中心に空間が生まれる。同時に手足に絡み付いていた何かも千切れ飛んだ。
 いける! 確信した彼は海面目指して跳躍する。数枚の障壁を蹴って駆け上がり、術士と共に空中へ跳び出す。
 ところが、そんな二人を黒い影が追いかけて来た。
「このっ!?
 足場を兼ねた障壁を拡大し、追撃を防ぎながら上空へ退避すると、やがて触手は諦めたように海へ戻っていく。

(俺が狙いじゃない?)

 変異種や竜なら執拗に追跡してくる。しかし蒼黒にとって、自分は優先すべき目標ではないらしい。
「げっほ! ゴホッ!!
 抱えられたまま、海水を吐き出してえづく術士の女。生きていたことを確認し、ホッと息を吐くアサヒ。
 だが彼女は、すぐに彼の胸を叩いた。
「よ、余計なことしとらんと、はよ“核”を叩いて!」
 自分の命など、どうでもいい。そんなことより蒼黒の本体、この怪異の元凶をどうにかしてくれと頼む彼女。
 アサヒは頷き、手を離す。術士は自力で空に浮かび、彼方を指差した。
「この方向にあるはず、お願い!」
「わかりました。あの、どうかご無事で」
「こっちのセリフよ。助けてくれてありがと。もうヘマはしないから、行って!」
「はい!」
 障壁を蹴って駆け出すアサヒ。直後、背後から悲鳴が上がった。また蒼黒が彼女に襲いかかったのかもしれない。
 でも、アサヒは振り返らなかった。言われた通り“核”を叩くことに専念する。こんな状態が長く続けば朱璃達だって危ない。だから──
「すぐに、倒しますから!」
 さらに強く踏み込んだ瞬間、彼は音速を突破した。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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