現代編【アサヒ】3

文字数 5,045文字

「今日はアンタの魔素吸収能力が周辺の環境に及ぼす影響を調べてみるわ」
「せめて朝の挨拶をしようよ。おはよう」
「おはよう」
 地下都市・福島の外れ。かつては倉庫として使われていた建物に一人軟禁されているアサヒの元へ、今日も悪魔が、もとい朱璃がやって来た。赤い髪をポニーテールにした一五歳の女の子。可愛らしい顔立ちをしているものの、中身は凶暴なマッドサイエンティストである。
 一方、高身長で筋肉質な体付き。さらに目付きが鋭く、一見すると怖そうなのに、中身は気弱で大人しい。生まれたての子鹿程度の攻撃性しか持ち合わせていないアサヒは、疲れた様子でため息をつく。
「今日も実験?」
「今、そう言ったじゃない」
「昨日、延々と走らされたばかりなんだけど……」
「あれは持久力と耐久力のテスト。今日のは別」
「俺に休みは……」
「無い」
 はあ……と、また嘆息。いくら無いからと言っても、ここまで遠慮無く人権を無視されるといっそ清々しく思えて来る。
「そもそもアンタ、疲れなくなったんでしょ?」
「いや、まあ、そうなんだけど」
 頭を掻きつつ立ち上がった。地上で宿敵シルバー・ホーンと戦って以来、薄々そんな気はしていたのだが、昨日の実験で確定したのである。今の自分はどうやら疲れ知らずの肉体らしい。怪我をしても体内の高密度魔素結晶体から放出される魔素のおかげですぐに治るわけだが、おそらく疲労も同じ理屈で回復しているのだろうと目の前の朱璃に言われた。肉体を常にベストコンディションに保とうとする性質が備わったようなのだ。
「でも気疲れはするよ。丸一日走り通しだったんだから」
 冗談抜きで二四時間走らされた。一昨日の夜から待機して日付が変わると同時にスタート。昨夜また日付が変わった時点でようやく終了。そしてついさっきまで寝ていた。
 実を言うとこの体には睡眠も必要無い。でも眠ろうと思えば眠れるので、精神衛生のためにある程度は寝ておくようにしている。
「開始は三○分後の予定だから、早く支度なさい」
「じゃあもっと早く起こしに来てよ」
「アタシはアンタのママじゃない。早起きくらい自分でするのよ!」
「まだ五時だし!」


「はい、というわけで実験場に到着」
「おはようさん、アサヒ君」
「……」
 朱璃に先導されて到着したその広場には、すでに金髪美女カトリーヌと無口な巨漢ウォールが来ていた。
「おはようございます。他の皆は?」
「今日はうちらだけや。マーカスはんと友之君は地上の火災現場の調査。門司先生は福島駐留部隊の定期検診があるもんで、そっちの手伝いに駆り出されたわ」
「なるほど」
 納得したアサヒが頷くと、急に横合いからビシッと鋭い音が響く。
「はい、ちゅうもーく」
 朱璃だ。ホワイトボードを前にポインターを握って立っている。教師みたいだと思うアサヒ。彼女は手にした棒の先端でボードの文字をついっとなぞる。
「ここに書いてあるように、今日はアンタの魔素吸収能力が周囲に及ぼす影響を調べるための実験です」
「えっと、いまいちわからないんだけど、それってつまりは?」
「アンタ昨日渡した宿題やってないわね?」
「すぐに寝たから……」
「はい減点。今日の食事はたくあんだけよ」
「やめて」
 食べなくても死なない体だが、食べたくないわけではない。
「ったく、説明の手間を省こうと思ったのに。しゃあないわね、ここでレクチャーしたげるわ。とりあえず問題よ。アンタが魔素を吸収する時、アタシらが近くにいるとどうなる?」
「え?」
 そういえば今まで全く意識したことが無かった。周囲から膨大な量の魔素を吸い寄せる自分の力は、もしかしたら朱璃達の体内の魔素にも影響を与えているのかもしれない。
「そうか、そういう実験か」
「察しは良いみたいだけど、とりあえず答えなさい」
「あ、うん」
 回答を促されたアサヒはこれまでのことを思い返した。何度か他の人間の近くで能力を使ったはずだが、特に彼等に影響を受けた様子は見られなかったと思う。現代人は体内の魔素が枯渇すると最悪の場合、死に至る。そのくらい魔素は大事なはずなのだが。
「えっと……影響は無い?」
「そうね。これでアンタの記憶力が鶏よりは優秀だと証明されたわ」
「証明するまでもないよ!」
「いちいちジョークに噛み付かない。じゃ、次は考察力のテストよ。なんでアタシ達はアンタの力の影響を受けないと思う?」
「え~と、それは……」
 腕を組んで考え込む。朱璃達は特に何も言わない。ノーヒントで答えを導き出してみろということのようだ。
(いや、今までに教わったこと自体がヒントってことかな……?)
 思えば筑波山からここへ来るまでの道中、そして福島へ辿り着いてからも色々なことを教えてもらっている。朱璃にいたっては、わざわざ教材を取り寄せたりプリントを作ったりして宿題を出す始末だ。本当にマメな性格をしている。子供ができたら意外と良いお母さんになるのかも───
(って、いやいや、そうじゃなくて)
 朱璃の性格を考察する時間ではない。大気中を漂っている魔素を吸収できるのに、彼女達の体内の魔素は吸い寄せられない理由だ。ようは両者の状態の違いを考えればいい。
「あっ」
 とっかかりに手をかけたら、あっさり答えが導き出された。やはり以前に習っていたのだ。
「水? 水と結合してるから……?」
「おお、やるやんアサヒ君」
「うむ」
「たしかに、ちょっと見直したわ」
 朱璃にまで感心され、アサヒは照れ笑いを浮かべる。
「いやあ、それほどでもいてっ!?
「調子に乗んな」
 ポインターでおでこをしばかれた。シルバー・ホーンとの戦い以来、痛覚も麻痺しているのだが、こういう痛みを想像しやすい攻撃を食らうと一瞬錯覚してしまう。
「なんで……」
「さっきの答えじゃ正解は半分だけ。たしかに魔素は水と結合しやすい。そして、一旦水分と結びついた魔素はそう簡単に分離させられなくなる。でも、それじゃ不十分なの」
「せやな、君の能力の影響をうちらが受けん理由は、もう一つあんねん」
「二人とも、例の物を」
「ラジャ!」
 敬礼してホワイトボードの後ろへ回り込むカトリーヌとウォール。すぐにガラガラと音を立てて戻ってきた。カトリーヌがワゴンを押し、ウォールは樽を抱えている。
「フン」
 重い音を立て、その樽をワゴンの上に載せる彼。中に液体が入っているらしく、ダプンという水音も聴こえた。
「というわけで、この樽の中身から魔素を吸収してみなさい」
「う、うん」
 またポインターで叩かれては敵わない。素直に従うアサヒ。右手の平を樽に向けて突き出し、意識を集中する。
「なにしてんの?」
 途端に不思議そうな顔をされた。
「え?」
「アンタ全身のどこからでも魔素を吸い込めるでしょ?」
「いや、そうなんだけど」
 こういう時はこんなポーズを取るものという先入観があった。
「まあ、やりやすいようにやったらいいわ」
「……やめる」
 指摘されたら恥ずかしくなってしまった。普通に腕を垂らして立ったまま、改めて意識を集中する。
 やがて彼の周囲で渦が生じた。大気中の魔素が吸い寄せられ、密度を増したことにより見えるようになったものだ。常人にはこんな能力は無い。彼と彼のオリジナルだった伊東 旭だけが使える特異な力。だから彼等は“渦巻く者(ボルテックス)”と呼ばれる。
 直後、あの重そうな樽がガタガタとワゴンの上で揺れ始めた。驚く一同。
「ちょっ、動いとる動いとる」
「あの重さでもか」
「まあ、予想通りね。続けて」
「これ大丈夫なの!?
 嫌な予感がしたアサヒは実験の中止を訴えようとしたが、時すでに遅し。彼がその言葉を言い終えるのと同時に樽がかっ飛んできた。
「ぐほっ!?
 顔面に直撃してすっ転ぶ。

 ──そして、何かが体内に流れ込んできた。

「あ、あれ? 今の感覚って……」
「魔素を吸収したわね? 多分、樽の中身のやつを」
 確証は無いが、多分そうだ。大気中の魔素を吸い込んだ時とは微妙に感触が違ったから。なんというか、もっとこう勢いがあった。
「どうして……?」
「さっきも言ったけど、水分と結合した魔素は切り離すのが難しくなる。でも難しいだけで不可能じゃない。アンタの能力はそれすら可能にするってことよ、かなり強引だけど。上手く活用したら魔素に汚染されてない水を作れるかもしれないわね」
 そう言った朱璃は、続けて自身の頭をポインターで示す。
「それを防ぐためのもう一つの要素がこれ。意識よ」
「意識……?」
「そう、人間や動物には意識がある。それが一種の防護壁になってアンタの能力の干渉を防いでくれるってわけ」
 説明されてもいまいちピンと来ない。つまり、どういうことなんだろう?
「ええと……」
「そうね、わかりやすく言うと、魔素の溶け込んだ水はお酒」
「お酒?」
「そう。酒には水分以外にも色んな成分が含まれてるでしょ。それが魔素だと思えばいい。まあ実際の酒類にも魔素は溶け込んでるけど、ともかく、アンタはその酒をいくらでも飲めるザル体質なの。しかも飲みたいと思うだけで酒の方から寄ってくる」
「なんか、聞いてるだけで酔っ払いそうなんだけど……」
 飲酒したことがないのであくまでイメージでしかないが、良い気分はしない。母も飲みすぎた翌日には必ず二日酔いになっていた。
「たとえよたとえ。で、意識はその酒を保管しておくための樽……いや、倉庫だと思えばいいわ。同時に、その倉庫の鍵ね。いくらアンタでも他人の蔵の中に仕舞われている酒を、鍵をぶっ壊して持ち出すことはできない。そういうこと」
「そんなことしないよ」
「だから、たとえだってば。とにかく、理屈は理解できたでしょ?」
「まあ、なんとなくは」
 仕組みはいまいちわからないが、とにかく生物には意識があり、その意識が自分の能力の干渉を遮っているから、近くにいても影響を受けない。そういうルールなのだということは覚えた。
 じゃあ、とアサヒはまた首を傾げる。
「今回はこれでおしまい?」
「んなわけないでしょ。まだ、前提になる知識をアンタに叩き込んだだけよ」
「だよね……」
 こんなに簡単に終わるはずが無いとは思っていた。少しだけ期待したけれど。
 そこへ、遠くから兵士が一人走ってきた。
「殿下~!」
 若い陸軍兵だ。手を振りながら朱璃に近付き、彼女の手前で止まると、背筋を伸ばして敬礼しつつ報告する。
「準備が整いました!」
「ご苦労さま。それじゃ行くわよアンタ達」
「はいは~い」
「ん」
「また移動?」
 歩き始めた朱璃達に、眉をひそめながらついていこうとするアサヒ。するとと三人とも振り返り、違うと言って彼を押し返した。
「アンタはここにいなさい」
「なんで?」
「すぐにわかるわ。ともかく、アタシが合図したらさっきみたいに魔素吸収能力を使うこと。全力でね」
 嫌な予感がする。ここから逃げ出したくなってきた。
 しかし、朱璃が釘を刺す。
「逃げようとしたら撃つから」
 その手にはいつの間にか例の対物ライフルが握られていた。いったい今までどこにあったのか。
 撃たれても死なないだろうが、撃たれたいとも思わない。渋々その場に立ち尽くすアサヒ。
 やがて広場には彼だけが取り残され、周囲には大勢の兵士達が集まってきた。定期健診は終わったらしい。
「ああ……」
 兵士達が広場全体を仕切り板で囲っていく。丁寧に積み上げた土嚢で固定し、隙間もパテで塞いでいた。それを見て、何をさせたいか朧気ながら理解する。
 案の定、囲いが完成したところで朱璃が叫ぶ。
「放水!」
 手動式のポンプを使って大量の水が囲いの中へ注ぎ込まれ始めた。いずれも距離はここから一〇〇mほどある。
「はい、それじゃあ魔素吸収機関アサヒ! 全力運転開始!」
「誰が魔素吸収機関だよ!?
 この状況で能力を使えばどうなるか、さっきの樽を使った実験の結果を考えれば容易に想像できる。
 それでも朱璃はもうスコープを覗き込んでいて、銃口はこちらに狙いを定めているのだ。やるしかない。
「ほらほら、早く!」
「ああもう、この悪魔っ子!」
 嗜虐的な笑みを浮かべる朱璃の視線の先で、アサヒは涙目になりながら能力を発動した。
 直後、彼は渦を巻いて襲いかかってきた膨大な量の水に飲み込まれ、悲鳴も上げられぬまま溺れたのである。

 ──実験は、魔素吸収能力の影響がどこまで及んでいるのかを確かめるまで重ねられた。
 その結果、少なくとも半径一二○○mまでは有効だと判明した。つまりアサヒは一二回、水に飲まれた。
 それ以上の距離は、仕切り板が足りなくなって断念した。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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