五章・桜花(2)

文字数 3,643文字

 あの箱庭に囚われている人々は、ある意味、伊東 旭と同じだ。ドロシーとドロシーに精神を破壊された彼と同様、心の自由を奪われている。何不自由無く暮らしているように見えて、実際には思い出を搾取され続けるだけ。さっきドロシー自身が本音を零したじゃないか。彼等は家畜だと。
 ずっと同じことを繰り返しているのだ。あの場所で、決まったパターンで行動すること以外、何も許されていない。行動して、記憶して、その記憶を捧げ、また同じ動きを繰り返す。

 あそこは時間の止まった世界。心の自由まで奪われる史上最悪の監獄。
 存在の全てを縛られた囚人を観察して、自分に何を学べと言う?

「アサヒ、アタシを信じてる?」
 突然問われ、彼は戸惑う。
 けれど、すぐに頷いた。
「うん」
「だったらまっすぐ突っ込みなさい。あの女はアタシが止める。アンタはトドメ。それで勝ちよ」
「わかった!」
「正気?」
 眉をひそめるドロシー。どんな作戦か確認しようともしないアサヒ。そして、それぞれの役割を堂々と明かす朱璃。どちらも彼女には信じ難いほど愚かな行動。
(ブラフ?)
 実際には逆の役割なのかもしれない。朱璃の“魔弾”は、自分なら障壁で容易に防げる。とはいえ、なんらかの方法で直撃を受けた場合、無事では済まない程度の威力もある。つまり彼女が決定打を打つことも可能。
 しかし、そう考えさせること自体が目的とも推察できる。
 ならば──
(どちらの可能性にも対応する)
 裏をかかれることは織り込み済みで、思考に余裕を残しておく。その分だけ対応能力は下がってしまうが、致命傷さえ受けなければ問題無い。痛手を被ることを覚悟しておけば、即座に反撃に移れる。相手の意図さえ読めてしまえば、そこから次の手を封殺することは難しくない。
「さあ、どう来るのかしら……」
 余裕の笑みを崩さず、右手で伊東 旭が変じた杖を、左手は無手のままで顔の高さまで持ち上げる。白蛇ドロシーも大きく鎌首をもたげ、人のドロシーにとって死角になりうる部分をカバーした。

 すると突然、視界が真っ暗になった。

「なっ!?
 霊力を捉える蛇のドロシーの目が、何が起きたのか教えてくれる。ただ球形の霊力障壁で包まれたのだ。それだけではあるが、それだけではない。
(この距離で!? これほどとは!)
 彼女自身に霊術は使えない。しかし多少の知識ならある。障壁を離れた場所に展開するには、それだけ高い出力値が必要になるはずなのだ。普通の術者ならあれだけ離れて届くことはない。
 でも、無理をして遠距離に張った結果、強度は格段に落ちている。
 いや、だからこそか!
「チッ!?
 案の定、立て続けに“魔弾”が二発撃ち込まれた。脆い障壁だからこそ、向こうの攻撃も容易く通る。光と音を遮断する設定にして一瞬足止めできれば十分だった。
 一発は魔素障壁で防げたが、もう一発はドロシーの左腕を吹き飛ばす。でも、これさえ本命の攻撃ではない。

 ──言っていたではないか、まっすぐ突っ込めと。

「!」
 やはりアサヒが目の前にまで迫っていた。本当に何も考えず正面からの突撃。たしかに今の被弾によって自分には隙が生じている。けれど甘い!
「フッ!」
 右手の杖を前に突き出し、強力な魔素障壁を展開する。伊東 旭の抜け殻。これは所持者に“渦巻く者(ボルッテクス)”の力を貸し与えられる。
 アサヒの渾身のストレートがその障壁を砕いた。しかし大幅に威力を減殺されたそれを蛇のドロシーが展開した別の障壁により受け止める。一枚目の障壁を砕き、魔素の爆発を起こそうとしていた彼は慌てて自身の攻撃を封じ込めた。
「うあっ!?
 抑え切れなかった余波が閃光となって噴き出し、彼自身に大きなダメージを与える。

(勝った!)

 意表は突かれたが、やはり致命傷には至らなかった。これでこちらの勝ち。目の前の旭もどきを拘束して、守る者のいなくなった朱璃を殺す。肉体など失われてもいい。魔素に保存された最新の情報を再現してやれば、いくらでもコピーを生み出せる。オリジナルを倒すのは、勝利の興奮を味わうためと、そして──

 心の中で舌なめずりした彼女は、次の瞬間、炎の渦を目撃した。

「なっ!?
 これも霊術? 猛火と竜巻が組み合わさり、アサヒごと彼女を包み込む。
 まずい、まだ手札を隠していたのか。咄嗟に距離を取ろうとしたドロシーの腕をしかしアサヒが捕まえた。
「ぐ、うううううううう!?
 焼ける。皮膚と肉が沸騰する。
「逃がすか!」
 そういう彼も猛烈な熱で焼けこげていく。ところが焦げた皮膚の下から赤い鱗が現れて炎熱を遮断した。ドロシーだけがなおも燃え上がる。
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああっ!?
「コイツで、終わりよ!」

 朱璃は間近で見た術を解析できる。習得もできる。
 烈花の炎、風花の竜巻、そして斬花のこの術。
 三つの合わせ技が、彼女の本当の切り札。

「くたばれ!」
 霊力糸の発展形、薄く伸ばした障壁の刃を振り抜く。炎の渦も、間にいるアサヒも透過したそれは、ドロシーと彼女の体内の“心臓”だけを切り裂いた。



 違う。刃状障壁を通して伝わって来た手応えから朱璃は罠に気が付く。あれはドロシーなんかじゃない。
「アサヒ、離っ──!?
 横から、突然ハンマーで殴られたような衝撃。空間に満ちていた魔素が渦を描いて彼女を巻き込み、暴力的な力で振り回した。
「朱璃!」
 突風に翻弄される彼女をアサヒが掴み、抱き寄せる。大きな怪我こそしてないが、意識は朦朧としており目の焦点が合っていない。
「く……う……っ」
「朱璃! 朱璃!? そんな、どうして……」
 たしかに彼女の攻撃はドロシーの“心臓”を切り裂いた。その結晶こそ蛇のドロシーの本体だと、さっき本人が言っていたじゃないか。
 事実、目の前でドロシーとドロシーは両方とも崩れていく。
 けれど、人間のドロシーは笑っていた。

「楽しめたわよ」

 朱璃は完全に自分の予測を上回った。彼女を信じたアサヒの胆力も、及第点だと評していいだろう。
 けれど無駄なのだ。全ては無駄。何度も言っている。自分達の世界に入って来た時点で勝負は決していたのだと。さっきのは、ただ本気で“遊んで”いただけに過ぎない。

「あなた達の素晴らしさは良く分かったわ。予定通り、賓客として招きましょう。ただし、邪魔な肉体を破壊した後でね」

 ドロシーには魔素の影響を受けた生物や記憶災害を操る力がある。高度な知性を持つ者ほど支配下に置くのは難しくなるが、不可能なわけではない。
 なにより彼女達には“同化”という手段がある。賓客とは、つまりそれ。朱璃にはそうするだけの価値がある。ドロシーとドロシー、この二者に並ぶ三人目の支配者として迎え入れよう。完全に屈服させるまでは、同化による強制力で大人しくさせておけばいい。

「きっと……あなたは……理解、できる……」

 完全に崩れ去るドロシー。何の問題も無い。それらしく作っただけの人形。ゲーム用に彫り上げた駒。それを壊されただけ。

「ま、ずい……逃げる、のよ……」

 突風で脳震盪を起こした朱璃は上手く喋れなかった。身動きもままならない。アサヒはまだ何が起きているのか理解できずにいる。伝えなくては、ドロシーの本当の狙いを。
 アイツらは自分を記憶災害にして同化するつもりだ。自分さえ先に取り込んでしまえばアサヒは言いなりになるしかない。自分が、星海 朱璃がそうさせた。彼に愛され愛してしまった。
 その愛がきっと、これから彼を縛りつける。

(駄目、それは……それだけは……)

 ドロシー達が消えても暴風は止まない。発生源は伊東 旭。抜け殻が周囲の魔素を吸い集めている。その輝きがどんどん増していった。見覚えがある。アサヒが全力で放つ攻撃と同じ。集束させた膨大な量の魔素に破壊のイメージを与え、放出と同時に再現させる。
 渦で動きを止め、大技で一気に吹き飛ばす気だ。本当に嫌になるほど考え方が良く似ている。さっき自分が仕掛けた作戦と同じ。

「そう、か……ここはドロシーの中。この空間全部がドロシーなんだ!?

 ようやく気付いたアサヒは同時に朱璃を庇い、オリジナルの自分に背を向けた。体内の魔素をありったけ放出して障壁を展開する。
【耐えろ!】
 死に瀕して感覚が研ぎ澄まされたのだろうか? これまで直接聞くことはできなかったライオの思念波が朱璃の脳内にも響く。彼もまた霊力障壁を重ね、さらに自身の腕と翼で二人を守った。蒼黒との戦いの時と同じように。
 でも防ぎ切れない。朱璃の頭脳は冷徹に計算結果を弾き出す。この空間に満ちた魔素が爆発の威力をさらに跳ね上げてしまう。放出された破壊のイメージが伝播して連鎖爆発を引き起こす。最終的な破壊力は蒼黒の時の比ではない。
 それでもアサヒ達は生き延びるかもしれない。
 自分だけは、確実に死ぬ。

 逃げて!

 彼の足枷になるのは嫌だ。せめて自由でいてほしい。彼女がそう願った瞬間、臨界点に達した光がついに解き放たれた。
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登場人物紹介

 アサヒ。文明崩壊から二五〇年経過した日本の筑波山で気絶しているところを特殊災害対策局・星海班に発見された少年。保護した直後、班長の朱璃はわずかな手がかりから短時間で彼の「正体」を突き止めた。

 崩界の日と呼ばれる大災害やその後の困難から人類を救った英雄・伊東 旭に瓜二つ。当人もその英雄の記憶を持っている。だが崩界の日の直前までしか覚えていない。

 目付きが鋭く高身長。そのため見る者に威圧感を与えるが、内面はむしろ柔弱でおとなしい。崩界の日まではごく普通の人生を歩んでいた。

 ただし、当時から人並外れた身体能力の持ち主でもあった。夢はその才能を活かし、いつか開催されるかもしれないオリンピックに出てメダルを取れたら、女手一つで自分を育ててくれた母にそれを贈ること。

 朱璃には初対面でいきなり拷問されたため苦手意識を抱いている。

 星海 朱璃。後に「記憶災害」と名付けられた現象により文明が崩壊してから二五〇年後、南北に分裂した本州の片割れ「北日本王国」で特異災害調査官を務める天才少女。まだ一五歳。

 星海家にはドロシー・オズボーンという女性の血が入っており、世界に蔓延した記憶災害の原因物質「魔素」の影響か、代々彼女の身体的特徴を受け継いでいる。そのため日本人ながら髪は赤く、瞳は青い。顔立ちも日本人離れしている。

 優れた頭脳や才覚を認められた一部の人間しか入学を許されない高校に飛び級で入り、たった一年で卒業した。頭脳だけでなく身体能力や反射神経も優れており、体格の大きさが有利に働く「疑似魔法」においても魔素吸収能力の高さにより小柄な体という欠点を補っている。

 また、父を喪った出来事以来「恐怖心」も欠落しており、普通の人間なら躊躇うような危険にも必要とあらば迷わず突っ込んでいく。

 研究者としても優秀。現在の北日本王国兵が必ず装備している疑似魔法の威力を高める銃器「MWシリーズ」は彼女の発明。さらに国民全員が身に着けている静電気の発生を抑制するスキンスーツは彼女の両親の発明である。

 アサヒのことは非常に興味深い研究対象と認識している。

 マーカス。星海家と同じく魔素の特性によって先祖返りしたと思われるアフリカ系の特徴を持つ男。先祖は在日米軍兵だったルーカス・ブラウン。

 朱璃の護衛役であり彼女が調査官になる前からの保護者。親友だった朱璃の父が死んだ後、母親が育児放棄してしまったため代わりに引き取って育てた。

 死亡率の高い調査官の仕事を二十年以上続けている事実が示すように極めて優秀。特に危機察知能力と生還能力に優れており、情報を持ち帰ることが重視される調査官としては理想的な人材だと言える。

 コミュニケーション能力もけして低くない。ただし朱璃が絡むと父親としての顔が出てしまい、男子に対しては厳しい態度を取りがち。

 アサヒの存在を様々な意味で危険視している。

 カトリーヌ。本人はそう名乗っているが偽名で、自ら嘘だと周囲に明かしている。親からもらった名前に思うところがあるらしく誰にも教えたがらない。星海班でそれを知っているのは朱璃だけ。その朱璃とは年の離れた友人としても交流を重ねている。

 やはり先祖返りで金髪碧眼に生まれた。温和な性格で次に紹介する友之と共に班のムードメーカーを担っているが、実はずば抜けた戦闘センスの持ち主。竜と戦っても無傷で生還することが多い。

 友之に惚れられているが、彼女の側からはからかい甲斐のある後輩だとしか思っていない。

 旧時代の重火器をコレクションしており、それが朱璃の研究の一助にもなっている。

 相田 友之。根っから明るい快男児。調査官になってから数年経っているが、精鋭揃いの星海班の中では幼馴染の小波ともども新米扱い。なのでアサヒのことは弟分として可愛がっている。

 視野が広く、咄嗟の判断力に優れる。他の能力も平均以上に高いため、つい最近死亡した前任者二人の代わりに他班から引き抜かれた。

 副業としてSF作家をしており、それなりに人気がある。同期の小波とは子供の頃からの腐れ縁。しかしカトリーヌに出会った瞬間から鼻の下を伸ばし、アプローチを続けている。小波のことは世話の焼ける妹扱い。

 車 小波。友之の幼馴染で班長の朱璃を除くと最年少。全体的に平均より少し上といった能力だが、朱璃に配慮して男女比を半々にするため星海班への転属が決まった。努力家で根性なら人一倍鍛えてある。

 あからさまに友之に好意を寄せており周囲もそれに気が付いていて朱璃ですらさりげなくアシストすることがあるのだが、肝心の友之だけはそれに気付かずカトリーヌの尻を追いかけ回しているため恋が実る可能性は今のところ低い。

 友之ともども幼少期から「伊東 旭」の英雄譚を聞いて育った。なのでアサヒと接する時には若干緊張してしまう。

 巖倉 義実。通称はウォール。魔素の影響で大型化した三m近い巨漢。体格=魔素保有量=疑似魔法の性能になる現代では極めて優れた資質の持ち主。

 しかし、それゆえか進んで貧乏くじを引く、仲間の盾になりたがるなど献身的で自己犠牲を好む傾向にあり、生還が第一の調査官には不向きな性格。

 マーカスや後述の門司より年下だが、以前も同じ班にいたことがあり当時からの戦友。

 実はバツイチで別れた妻との間に三人の娘がいる。

 極めて無口で全く彼の声を聞かずに終わる日も多い。

 門司 三幸。調査班に必ず一人同行する決まりの専従医師。一応は戦闘訓練を受けているが、戦うのはあまり得意じゃない。アサルトライフルは治療行為の邪魔になるため朱璃に特別に作ってもらったハンドガン型のMWを愛用。

 愛煙家。ただし本物のタバコではない。この時代の医師は患者の体内の魔素を操作して検査を行ったり痛みを緩和したりできる。

 中杉 真司郎。通称ジロさん。マーカスよりさらに二十年ほど長く活躍している引退済みの局員も含めた最年長調査官。そのため局内では生ける伝説扱い。局長の神木 緋意子ですら彼に対しては敬意を払う。

 老いてなお優秀。常に冷静沈着。朱璃に対するアドバイザーとして配属されたが、彼女もまた誤った判断をすることが少ないので出番が無いなと苦笑している。

 家族は娘夫婦と孫が二人。

 神木 緋意子。特異災害対策局の現局長。マーカスとは同期で、かつて同じ班に所属していた。

 とある出来事以来、常に淡々とした話し方をする。目的のためには手段を選ばなくもなった。自分の最も大切なものですら駒として扱える。

 娘が一人いるが、親子としての会話は何年もしていない。

 北日本王国の現女王。初代王が優れた戦士だったため今も王家には優れた戦士であることが求められており、彼女も即位前は陸軍に所属していた。訓練教官をしていた時代もあり、対策局の問題児だったマーカスを預けられ鍛えたこともある。

 そして緋意子の母親。娘が王位継承権を捨てて同期の調査官に嫁いだので、今は孫を後継者に指名している。

 シルバー・ホーンと呼ばれる赤い巨竜。発生から十分間で自然消滅する記憶災害のルールに抗い、二五〇年前から存在し続け、荒廃した東京に今も居座っている。

 二足歩行で直立すると一〇〇m以上の巨体。多種多様な「竜」の中でも特に大型で高い戦闘能力を発揮しており、北日本の調査隊が東京へ送り込まれた際には高々度から巨大な炎を放って彼等を焼き払った。その時の衝撃波は福島まで到達している。さらに命名の由来になったサイのような角からは魔素すら焼き尽くす超高電圧の雷撃を放つ。

 知能も高く、未確認ながら南日本の術士達が使う「霊術」を行使したという噂もある。

 星海 開明。第二部から登場。

 朱璃のはとこ。良く似た顔立ちのせいで頻繁に間違われる。謙遜しているが頭脳でも匹敵。ただしこちらは高校生。

 母とは三年前に死別。父とは幼い頃からすれ違い。ほとんどの人間には友好的で朱璃やアサヒに対しても同様だが、緋意子に対しては敵意を向ける。

 星海 剣照。第二部から登場。

 開明の父で北日本王国軍の元帥。昔は前線で戦っていた。顔に当時の古傷が残っている。

 若い頃の夢を息子に託そうとしたものの、息子は彼の求める資質をことごとく持たずに生まれてきた。失望感を隠し切れず、そのせいで関係が悪化。今もろくに口を利かない。

 大谷 大河。第二部から登場。

 高い能力と王族に対する強い忠誠心を兼ね備えた者しか入隊できない王室護衛隊の隊士。アサヒの護衛役という名目の監視役。実は彼女を傍に付けたことには別の目的もある。

 勘が鋭く頭脳の回転も早い。王室護衛隊の名に恥じない優秀な隊士だが童顔でくせっ毛なことが本人の悩み。

 王族扱いになったアサヒに対しては敬意を払いつつも常に警戒している。

 小畑 小鳥。第二部から登場。

 元は女王付きのメイド。まだ現代社会に不慣れなアサヒのため世話役として貸し出された。

 常にたおやかな笑みの美女。しかし時々妙な圧を感じさせることも。

 天王寺 月華。第二部から登場。

 南日本を護る術士隊の長。外見は十歳程度の少女だが自称四百歳超え。霊術という人知れず伝承されてきた技の使い手。しかし彼女の使う霊術には他の誰も知らないものが多い。霊力の強さは完全に人の域から逸脱しており、地下都市・大阪全体は彼女の展開した結界により二五〇年間守られ続けている。

 崩界の日より二十年ほど前、どこからともなく突然現れて日本政府の中枢に食い込んだ。それ以前の経歴を知る者はいないが、本人は「霊術を魔法と呼ぶ場所にいた」と断片的に語っている。

 民を守るためなら時に老獪で卑劣な真似もする。非情にもなる。それでも多くの者達に慕われており、実質的に南日本を支えている柱。

 月灯。南日本の天皇。発育が良く大きく見えるものの、まだ十二歳。月華を他の誰よりも信頼する。しかし彼女と対立する「議員」達の手の内にあり、発言を抑え込まれている。

 天王寺 風花。第三部から登場。

 月華に継ぐ霊力を誇る最年少術士。気が優しく戦いには不向きな性格。しかし防御にかけては優秀なので月華の護衛につくことが多い。

 一年ほど北日本にスパイとして潜伏していた。向いてないように見えるが、あまりに天真爛漫なので誰にも疑われなかった。そして本人も任務を半分忘れて牛の世話に夢中だった。

 人懐っこい性格。ところが声が大きすぎて室内だと相手が失神することもある。

 天王寺 烈花。第三部から登場。

 烈花の名は術士隊一の炎の使い手と認められた証。元々高い火の精霊との親和性をさらに高めるため髪の一部を赤く染めたり男勝りに振る舞ったりしているが「オレ」という一人称はどうしても馴染めず「ボク」に落ち着いた。

 当代最強の術師と名高い「梅花姉様」に憧れ、彼女の伝説を真似て無茶ばかりしている。そのせいで生傷が絶えない。

 体育会系で下の子達の面倒見が良い。中身は割と乙女で好きなタイプは大きくて優しい人。できれば年上。

 天王寺 斬花。第三部から登場。

 術士隊最弱の霊力。才能に恵まれなかった分を他が絶句するほどの努力で補い、ついには唯一無二の技に開眼した。彼女の振るう刃は離れた場所から障害物を無視してあらゆる物体を両断する。

 烈花とは同い年。親友でライバルで一番仲の良い姉妹。

 愛刀は桜花から受け継いだ「夢桜」という銘の霊刀。

 天王寺 桜花。南日本の術士。第一部でアサヒを護って散った。

 霊術に関しては梅花以上の天才。特に精神に干渉する術を得意としていた。愛刀「夢桜」は彼女のその力を増幅する力を持つ。

 伊東 陽。旭の母。高校在学中に妊娠。相手の男子生徒は彼女の妊娠発覚直後に交通事故で死亡。その後、父親と大喧嘩して勘当され高校も中退。幸いにも地下都市建設計画が開始され働き口はいくらでもあったため、女手一つで息子を育てる。

 細腕からは想像し難い腕力と並外れた体力が自慢。病気にもかからず健康優良児を自称していたが、旭が中学生の時に長年の無理が祟って心臓病を発症し倒れる。

 不幸中の幸いで長期入院中に疎遠だった両親と和解。病気も数年間治療を優先し安静にしていたことで良くなり、地下都市へは両親と息子と共に四人で退避した。

 崩界の日、旭を庇って彼の代わりにシルバー・ホーンの顎にかかり、命を落とす。

 伊東 旭。北日本王国の初代王。魔素を無尽蔵に取り込み身体能力を強化。さらに取り込んだ魔素を自在に放出する能力を有する。

 長年その超人的な力で王国を守り続けて来たが、妻・ドロシーを失ってからしばらくして不意に姿を消す。行方は彼の娘でさえ知らなかった。

 アサヒは十七歳時点の彼を再現した記憶災害。

 全盛期の彼の強さは月華をして「怪物」と言わしめたほど。

 ???。第三部から登場する謎の女。全ての記憶災害の元凶と目される「蛇」を従え、遥かに離れた場所からアサヒ達を標的に様々な攻撃を仕掛けてくる。

 神にも等しい万能の力を振るうも、それに頼らない純粋な体術でも歴戦の特異災害調査官数名を圧倒するレベル。

 その行動からはアサヒと朱璃に対する強い執着が伺える。

 伊東 光理。北日本王国二代目の国王であり最初の女王。父には遠く及ばないものの十分に並外れた魔素吸収能力と身体能力、そして母譲りの頭脳を有し、旭が消息を絶った後の北日本を長く導いた。

 その他の主な業績として地下都市仙台から地下都市秋田への遷都を主導したことが挙げられる。朱璃達の属する特異災害対策局も彼女が国防の一環で設立した組織。

 性格は母親に似て合理主義。けれど弱者を見捨てられない性分も父から引き継いだ。旭の戦友「四騎士」の一人の息子と結婚する。

 王になった直後、伊東という姓は王らしくないという理由から改姓。以後は「星海 光理」と名乗るようになった。

 水無瀬 守人。実質的に漁業を生業とする北日本王国海軍が誇る名艦長。第四部にのみ登場。

 魔素吸収能力も頭脳も特に優れているわけではない。しかし勘と咄嗟の機転は働く方で彼が艦長になって以来、漁獲量は落とさぬまま乗員の死亡率は激減した。それに加えて気さくで陽気な性格でもあるため多くの海兵に慕われている。

 第四部の東京決戦では、とある兵器をノリノリで使用。同行した術士の少女達も気が付けば彼のテンションに同調してしまっていた。素晴らしい兵器の数々を生み出してくれた朱璃に対しては心の底から感謝している。

 仕事と部下達の面倒を見ることにかまけてばかりで、早婚が推奨されている時代なのに三十目前でまだ独身。

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